第35話
「じゃあ、とりあえずは電子ピアノをここに置くってことでいいわね? 他にも欲しいものがあったらすぐに言うのよ。何でも揃えてあげるから」
「分かったって。でもお姉ちゃんも私を解放したくなったらいつでもいいからね」
「ふふふ、面白い冗談ね」
冗談じゃないんだけどなあ。はあ、なんだかどっと疲れてしまった。結局お姉ちゃんを説得できなかった私はあの後部屋に欲しいものを何度も聞かれた。どうやら相当長い間、私を部屋に閉じ込めておく想定のようだ。ただそう言われても欲しいものなんてなかなか思いつかず、長い時間をかけて決まったのはピアノを置くことだけだった。
「定期的に外に出て日に当たらないと健康に良くないし、ずっと部屋の中では運動不足になってしまうわね。少し手狭になってしまうかもしれないけど、トレーニング器具も用意しないといけないわね」
「そうだね」
とりあえず相槌を打つ。部屋から出してくれれば済む話だと思うけど、それはしてくれないのだろう。もう勝手にしてくれ。一歩も外に出ていないのにとても疲れた気分だ。
「……そうね、日中は私の部屋にいることにしましょうか。ベッドを片付ければスペースも空くからいろいろ置けるでしょう。いろいろ準備しないと。——あらもう、こんな時間になってしまったのね。華と話していると時が過ぎるのが早いわね。そろそろお風呂にでも入る?」
「お風呂? 確かに入りたいかも」
お風呂くらいリラックスさせてほしい。それにずっと足につけたままだと蒸れてきちゃうし、お風呂に入ってさっぱりしたい。流石にお風呂の中では足枷を外してくれるだろうから。そうしてまた両足に枷を付けられた後、お姉ちゃんにお風呂場まで運ばれる。
「流石にお風呂では外してくれるよね?」
「もちろんよ。今外すから」
ガチャと音が鳴って、足枷が外れる。ようやく、足が完全に自由になった。別に痛いわけじゃないけど、やっぱりついていると窮屈だから外してくれて良かった。
「じゃあ、入るから出て行ってよ」
「いいえ、一緒に入るから」
「なんで? いつ一緒に入ることになったの?」
「お風呂の中で死なれたら困るもの。ホントはトイレだって一人でさせたくないのに、華のことを思って一人でさせてあげているのよ」
この歳にもなってお姉ちゃんと一緒に入るだなんてと思ったけど、すぐに入りたかったし、何よりここでいろいろ言っていると今度からホントにトイレにまで入ってきそうだったので渋々受け入れる。幸いお風呂は二人で入っても問題ないぐらいの広さはある。早々に服を脱ぎ終わり、お姉ちゃんを待って二人でお風呂に入る。いつものように、頭を洗おうとするとお姉ちゃんに止められる。
「今日からは私が華を洗ってあげるわ」
「別に一人で洗えるから」
「お姉ちゃんに洗わせてちょうだい? 今まで、姉妹らしいことを全然してこなかったからこれからどんどんしていきたいの」
監禁は全然姉妹っぽいことじゃないと思うんだけど、まあそういうことならいいか。
「仕方ないなあ、分かったよ」
お風呂の椅子に座ってお姉ちゃんに洗ってもらうのを待つ。
「どうかしら、気持ちいい?」
「うん、いい感じ」
お姉ちゃんに優しく頭を洗われる。丁寧に髪の毛を梳いてくれるから結構気持ちいい。時折シャワーを流すために声を掛けられながら大人しく洗われる。そうして自然にお姉ちゃんは体の方も洗おうとしてくる。
「いや、お姉ちゃん。背中はいいけど前は私が洗うから。——ねえ、お姉ちゃん聞いてる? はふう」
急に胸を触られたから変な声が出てしまった
「華は本当にどこもかしこも小さいままね。可愛いからいいのだけれど、15を超えたら成長期が来るのかしらね?」
呑気にそんなことを言うお姉ちゃんに反応できない。人に触られることなんて基本無いからくすぐったい。お姉ちゃんの方が体が大きく抵抗らしい抵抗もできぬまますみずみまで洗われてしまう。
「もう! 私が洗うって言ったのに! じゃあ今度は私がお姉ちゃんを洗うから覚悟してね」
お返しにと私もお姉ちゃんの体を洗うふりをしてくすぐってみた。途中からお互いに相手を洗うことなんて関係なくなっていかにくすぐることができるかの戦いに変わっていった。しばらくして、顔を見合わせて二人して笑いあった。こんな風にじゃれあったのなんて今までにあっただろうか? こんな日常が続くのなら確かにこの生活も悪くないのかもしれない。
お風呂から出た後もすぐに部屋に連れていかれて、また足枷をつけられる。眠くなるまで、お姉ちゃんと話をした。まだ聞いていなかったお姉ちゃんの昔の話を聞いたり、逆に私の話をしながら時間が過ぎていった。また明日も学校に行けないままかもしれないけど、それでもいいかななんて少しだけ思ってしまった。
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