第33話
朝目が覚めるといつもと違う感触を覚える。何か柔らかいものがある、……そう言えばお姉ちゃんが隣にいたんだっけか。もう少し眠っていたいので寝返りを打とうとすると何かに邪魔される。右足が何だか重い気がする。上手く働かない頭でそれを認識した瞬間にはっと意識が覚醒する。そうだった、足枷を付けられているんだった。
「お姉ちゃん、起きて! は、いるようだね。身も起こさないで何してるの?」
「華の寝顔を眺めていたのよ。おはよう、華」
「ああ、うん、おはよう」
まるで何もなかったかのようにお姉ちゃんが挨拶をするので毒気を抜かれてしまう。
「いやそうじゃなくて、足枷。足枷外してよお姉ちゃん。中学校始まっちゃうよ」
「どうして?」
「いや、どうしてって、そりゃ中学校に行かないとだめでしょ?」
どうしても何も行かないといけないのは当たり前でしょ?
「なんで? 行く必要あるかしら?」
「いやだって、学校には行かないと。——それにお姉ちゃん朝になったら外してくれるって」
「そんなこと私は一言も話してないわよ。華が勝手に言っていただけよ。学校に行かなきゃいけない理由も分からないわ。部屋で大人しくしていなさい」
そう言ってお姉ちゃんは部屋の外に出て行ってしまった。扉が閉じた後すぐに外そうと努力するもびくともしない。本当になんでこんなものを持っているんだお姉ちゃんは。ならばと思ってベッドを持ち上げてベッドの足から錠を抜こうと思ったけど持ち上がらない。こんな小さな体じゃ無理か。鎖が壊れないか試してみたけど、なかなか上手くできず、金属同士が当たる甲高い音が空しく響くだけだった。そうこうしているうちにお姉ちゃんがまた部屋に帰ってきた。
「華、そんなことしてどうするの? もし、鎖を砕いたとしても錠はどうするの? 足についたままでしょう? もしそれを続けるようなら私はもっと華を縛り付けなくちゃいけないわ」
「お姉ちゃんが外してくれればいいだけだよ?」
「それはできないわ。——さあ、朝ご飯を食べましょう。二人分持ってきたからここで一緒に食べましょう」
「……分かったよ」
何を言っても無駄そうなので、仕方なく朝食を二人で食べる。どこで食べればいいのかと思ったけど、お姉ちゃんはどこからか小さなちゃぶ台を持ってきていたので、それを囲んで食べることにする。相変わらずお姉ちゃんの作る料理はおいしかった。
食べ終わり持っていきやすいように食器を片付けていた時、良いことを思い付いた。これならお姉ちゃんも足枷を外さざるを得ないだろう。
「ねえ、お姉ちゃん。あのさ、トイレに行きたいんだけどこれ外してくれないかな~? ほらここではできないでしょ」
「え? ここでするのよ」
「えっ」
ここで? えっ?
「ふふっ、冗談よ。ちょっと待っててちょうだい。持ってくるものがあるから」
そう言うとお姉ちゃんは食器を持って部屋を出ていった。びっくりした。まさかそんな冗談を言うなんて思っていなかったから。そうして待つこと数分、お姉ちゃんは後ろ手に何かを隠しながらまた部屋に入ってきた。
「何を持ってきたの?」
「鍵よ。外すために足を伸ばしてくれる? 両足揃えてね」
計画通り、これで外してもらえる。外してもらったらどうしよう? まあとりあえずお姉ちゃんから離れないとと思い、すぐに動ける準備をしながら足を伸ばす。ガチャンと音がしたので、すぐ足を引いて立ち上がろうとするもできない。慌てて足元を見ると今度は両足に錠がかけられていた。
「やっぱりまた逃げようとしていたのね。でももう理由は聞かないわ。ほらトイレに行くのでしょう?」
今度こそお姉ちゃんはベッドにつながっている方の金具を外してくれた。でもこれじゃあ歩けないから逃げられない。
「これじゃ動け、うわ」
抗議をしようとした瞬間お姉ちゃんに横抱きにされる。所謂お姫様抱っこというやつだ。
「ちょっとお姉ちゃん、下ろして」
「こら、暴れないの。危ないでしょ」
なぜか私が怒られてしまった。でも確かに危ないと言われればそうなので、お姉ちゃんの腕の中で大人しくすることにする。そうしてトイレの中まで運ばれ座らされる。
「はい。これで大丈夫ね? 終わったら、多分立ち上がることぐらいできるだろうから扉を開けてくれたらまた部屋まで運ぶわ。もし無理そうだったら声を掛けてくれればいいから」
そうしてお姉ちゃんは外に出て扉を閉めてしまった。おそらく扉の外で待っているのだろう。折角いい作戦だと思ったのにこれじゃ意味がない。いや部屋を汚したくはなかったからこれで意味がないわけじゃないけど逃走にはつながらない。トイレしたかったのは確かにその通りだけどお姉ちゃんに音を聞かれるのは恥ずかしいよ。
「ねえお姉ちゃん。離れててくれる? 音が聞こえないようにさ」
「耳をふさぐから大丈夫よ」
ええ、離れてほしいのに。ただここで何分も時間を使うわけにもいかないので、諦めてトイレをする。用を済ませた後、立ち上がり扉を開けて終わったことを伝える。
「終わったけど、聞いてないよね?」
「聞いていないわ。それじゃあ、部屋に戻る……前に洗面所に行かないとか」
そうしてお姫様抱っこされて洗面所に連れていかれた。手を洗ったり、顔を洗ったりした後、同じように部屋に戻る。ベッドに降ろされるとまた私の足にさっきの金具が付けられる。両足の錠は外されたけどこれじゃまた部屋から出られない。
「これでよしっと。じゃあ華、私は学校に行ってくるからお留守番よろしくね。それと、これから長くなるだろうから部屋でしたいことを考えておいてね。じゃあ、行ってくるわ」
「あ、ああ、行ってらっしゃい。じゃなくて、これ外してよ。ちょっと、お姉ちゃん」
ああ、行っちゃった。どうしよう? このままじゃホントに学校に行けない。なんとかして抜け出さないと。
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お昼になるまで頑張ってみたけど結局壊すことも抜け出すこともできないままだった。仕方ない、入学式は休むことになってしまったけど、明日からは登校しよう。流石にお姉ちゃんもそろそろ考え直して、解放してくれることだろう。そうこうしているうちに玄関の扉が開く音がした。お姉ちゃんが帰ってきたようだ。
「ただいま、華。素直に大人しく部屋で過ごせた? はあ、鎖壊さないようにって言ったのにこんなに傷をつけちゃって。そんなに外に出たいの? ねえ、そんなに私から離れたいの?」
「お、おかえり、お姉ちゃん。あのね、離れたいとかじゃなくて単純に部屋に閉じ込めるのは違うでしょ? もう十分分かったから、もう自殺なんてしないから、だから許してよ。お願い」
「許す? 何を? 何度も言うように別に怒ってもいなければ罰を与えたいわけでもないの。ただ華に生きていて欲しいからこうしているだけなの。まあ、すぐに分からなくてもいいわ。——お腹空いているでしょう? お昼にしましょう。食べるのはここかリビングどっちがいいかしら?」
どうせリビングにしたところでまた別の足枷を付けられるだけだろうが、自分の部屋よりは良いだろうと思い、リビングを選んだ。思った通りリビングに行く前に両足に枷を付けられて、またお姫様抱っこされながら運ばれていく。階段も難なく降りていくのは流石はお姉ちゃんだとこんな状況にも関わらずそう思った。
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