第31話
いつもと変わらない天井、記憶より少しだけ短い手足。どうやら無事に戻れたようだ。あの後お姉ちゃんはどうなっただろうか。お姉ちゃんなら私がいなくても幸せになれただろうな。……あれ? 考えてみたら結局戻ってしまっているのか。例えば今回、お母さんたちを幸せにできたとしても私が死んでしまったらまたもとに戻ってしまうのか。そしたら意味がないんじゃないか。そんな考えを打ち消すようにお母さんの『二人とも早く起きてきなさい』という声が聞こえた。ひとまず降りよう。
リビングに入ると、お姉ちゃんが先に座っていた。いつもはまだ寝ているはずなのに。もしかして怒っているのだろうか。私が学校に行くと嘘をついて自殺したから。お姉ちゃんが怒る姿は正直想像できないけれど、怒られたり嫌われたりしてもおかしくないほどのことをした自覚はある。ただ、声をかけないわけにもいかないので、恐る恐る話しかけてみる。
「お、お姉ちゃん。おはよう」
「あら、華。おはよう。一緒に食べましょう」
「う、うん」
怒ってないのかな? まあ、お母さんたちの手前、怒っていたとしてもここでは怒れないか。不気味なほどニコニコしているお姉ちゃんを不思議に思いつつ、朝食を取る。食べ終わり、準備も終え二人で家を出る。
「お姉ちゃん。あのさ、もしかして怒ってる?」
「うん? どうして私が華に怒らなくちゃならないの?」
「だって、あの時お姉ちゃんは止めたのに死んじゃったから」
そう聞くと、お姉ちゃんは更に笑みを深めてこう言う。
「私がそんなことで怒るわけがないでしょう?」
「そう、それならいいんだけど。あのさ、私が死んだ後、お姉ちゃん幸せになれた?」
「……いいえ、なれるはずがなかったわ」
「そう。——やっぱり、お姉ちゃんが幸せになるには、お父さんたちも必要だと思うの。前はお父さんたち自殺しちゃったじゃん? だから今度は二人で見張っていれば防ぐことができると思うの。だからお姉ちゃんも協力してくれる? お姉ちゃんたちが幸せになるためにさ」
「ええ、いいわよ」
「ホント? ありがとう。それじゃあさ——」
「そろそろ周りに人も増えてくるころだからそれはまた後で話しましょう?」
確かに、興奮していて周りが見えていなかった。まあでも、お姉ちゃんの協力が取りつけられたらもうできたも同然だろう。私はこれからどうしようか考えながら、学校が終わるのを待った。
家に戻り、私の部屋で作戦会議を行うことになった。お姉ちゃんには私の勉強机の前の椅子に座ってもらって私はベッドに腰かけて話し始める。
「朝も言ったんだけどさ、あの時はごめんね。お姉ちゃんは止めたのに死んじゃって。でもやっぱりお父さんたちが生きててほしいっていうか生きてないとだめみたいな感じで」
言い訳っぽく、いや正真正銘の言い訳に対しお姉ちゃんは笑って答える。
「いいのよ、華。今生きているのだから」
やっぱりお姉ちゃんは何とも思っていないのかな? それとも……まあ、それならそれでいいか。
「分かった。じゃあ、これからのことを話していくね。私考えたんだけど、今言ったようにお父さんたちが生きていないと幸せになれないと思うの。だから、まず一つ大事なこととしてお父さんたちが自殺しないように見張っていないといけない。ここまではいい?」
「ええ」
「それでさ、今まで6回も生きてきたわけじゃん? それで、私はお父さんたちの近くにいない方がいいんじゃないかって気づいたの。その方がきっとお父さんたちのためなんじゃないかって。だから、やっぱり家出しようと思うの。あの時とは違って、とりあえず働けるようになるまで、だから中学卒業まで家にいて、そうしたらどっかで一人暮らしをしようと思うの。ねえどうかな?」
前に家出した時、お姉ちゃんが追いかけてきて事故に合ってしまったから今度は先に相談しておこうと思っていた。
「いいんじゃないかしら?」
返事は思っていたよりも軽いものだったので拍子抜けしてしまった。お姉ちゃんはもう私に興味をなくしてしまったのだろうか?
「やっぱり? お姉ちゃんならお父さんたちの期待にも応えられるだろうし上手くいくんじゃないかと思うの。後、もし上手くいっても私が死んじゃったらまた戻っちゃうかもしれないよね? それはどうすればいいかな?」
「……それについてはまだ考えなくてもいいんじゃない? 死ななければいいんだから」
確かに、死ななければいいか。今まで自殺しかしてこなかったから老衰とかで死んだらまた変わるモノもあるか。
「それもそうだね。じゃあそういう感じで行こう。多分ね、お姉ちゃんが手伝ってくれたらきっと上手くいくと思うんだよね」
「ええ、そうね。だから、華とりあえず死んではだめよ」
「分かってるって。ホントにお姉ちゃんに相談して良かった」
そんな風にして作戦会議は進んでいった。お姉ちゃんはあんまり案を出してはくれなかったけど、私の作戦をいいと言ってくれた。だからきっとこれで大丈夫。中学までは家にいて、それから一人で頑張ろう。また、お父さんたちから見捨てられるのは辛いかもしれないけどもう大丈夫。諦めはついた。だから死なずに頑張ろう。
その後も度々お姉ちゃんと二人、部屋で作戦を考えながら時は過ぎていった。結局今回も中学には受からなかった。色々なことを考えていたから、勉強のことをすっかり忘れてしまった。お姉ちゃんはそんな中でもしっかり受かっているのは流石だった。そうして、入学式を翌日に控えた日のことだった。部屋の外からお姉ちゃんの声が聞こえた。
「華。ちょっといいかしら」
「何? お姉ちゃん」
お姉ちゃんからだなんて珍しいなと思いながら扉を開ける。
「ああ華、ベッドに座って大丈夫よ」
「そう?」
そう言われたのでベッドに腰かけ少し後ろに体重をかけたその時、ガチャンという鈍い金属音とともに足に何か違和感を覚えた。
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