第29話(姉視点)


「華!」


 落ちていく華にいくら手を伸ばしても届かない。どうしてこうなる、どうしてまた華が死ぬ? また私は失敗したのか? 落ちていく華を見ながら私はどうしてこうなってしまったのか思い返す。



 最初の人生で華が死んだときは何も思えなかった。なぜ死んでしまったかは不思議だったがそれだけだった。両親も特に騒ぎ立てることもなく、華のことは特に話題に上がることもなかった。その後も特に抵抗する理由もないので言われるがまま、期待通りの学校に行き、社会経験と言われバイトを始めた。殺されているときも特に何も思わなかった。ああ終わりか、そんなことを考えていた。


 次に目を覚ました時に華がいたのは驚いた。それでもまた華が死ぬまで最初の人生をなぞるだけだった。そうして華が死んでからようやく気づいた。私の人生が輝いていたのは、一緒に生きていたいと思っていたのは、華がいた時だけだったと。


◇◇


 小さい頃からなんでもできた。それが当たり前だった。何を習ってもすぐに優れた結果を出すことができた。そうすると、周りの人の反応はだいたい3つに分かれた。気味悪がられて離れるか、妬まれたり怖がられたりして排斥されるか、利を得ようとすり寄るかだった。ただ、どんな対応をされようが私はどうでも良かった。


 小さい子供の方が異なるモノへの敵愾心が強かった。あの時は私もまだ世渡りが下手だったから周囲に上手く合わせることができず、軋轢を生んでいた。でも私はそれを特に何とも思っていなかった。他人からどう思われるかなんてどうでもよかった。なのに華が勝手に、お姉ちゃんを傷つけるやつは許さない、私だけはお姉ちゃんから離れないと、言ってきた。なんて的外れで愚かなんだろうと思うと同時にとても可愛らしく思えた。華だけはいつまでも一緒にいたいとそう思っていた。


 華はその言葉のとおり私をかばったり、私を守ろうとした。このままでは、華がいつか取り返しのつかない怪我でもしそうで怖かったから態度を改めることにした。観察を続けたことで小学校に上がる頃には、この人間はどう扱えばよいのか、どうすれば場が上手くいくのか分かるようになり、敵を作ることもなくなっていった。


 邪魔な人間が周りに増えたことで華と話す時間は少なくなってしまったものの、それで十分だった。だけどそんな風に過ごしていくうちにいつの間にか華だけが大事だったことを忘れてしまっていた。いや、中学に上がってから華が私を遠ざけようとしているのが分かって怖かったのだ。華が離れてしまうことを。だから忘れたふりをした。


◇◇


 そのことを思い出してからは華を死なせまいと必死になった。最初の2回は中3で死んでいたからそれまでに原因を見つけようと思ったら今度は中学に入る前に死んでしまうから訳が分からなかった。


 一緒の中学に行けば何か変わると思えば、今度は華だけ中学に受かり、受かったのに結局中3で死んでしまって本当に最悪だった。ただそこで、学校じゃなくて両親が問題だとやっと思い当たった。受かった時と落ちた時の態度がこれほどまでに違うなんて気づけなかった。このせいで華は死んだのだと。


 その時私は初めて怒りを覚えた。今まで私ができなかったことなどなく自分の思い通りにいかなかったことだってなかった、だから今回も華を救えるそう思っていた。なのに結局華は死んだ、両親が華を追い詰めて殺したのだ。私は両親に、何度殺せば気が済むと責めてしまった。今まで反抗してこなかった私の豹変ぶりに最初は面食らっていた両親だったが、次第に口論になり、激昂した父親に殺されてしまった。


 また戻ってからは考えを改めた。今まで後手に回っていたから今度は先手に回ろうと華のスマホに位置情報を知らせるアプリを入れ、どこにいるかを常に把握できるようにした。そうして華が自殺しそうなときは止められるように。でも結局華が死ぬ前にこいつらをどうにかしないといけない。別に殺されたことが憎いわけではない、どうせ覚えていない。でも華の未来にこいつらは必要ない。


 弱みでも握れないかと、親の仕事を調べていくといくつか不正をしていることが判明した。それを脅しの材料にして華を解放する計画を立てていたが、ある日家に帰ると、華が家出したことを聞いた。スマホは家にあるし、それにその時は友達とも仲良く過ごしているように見えたからまだ余裕があると油断していた。幸い、華がいる場所は前の人生で行ったことのある眞渋家の家だったから華の荷物を持ってそこに行った。


 とりあえずはそこに避難してもらってその間にこの人らを何とかしようと思っていた。根回しをしたり、その後の計画を立てるのに少し時間がかかってしまったある日のこと、華が外に歩いていることに気が付いた。前にも外を出かけていたことはあったけどその日は様子がおかしく、注意して見ていると、急に動き出した。方向的にどこかいいレストランでディナーといった感じでもなかったので、華を追うことに決める。やっぱり繁華街に一人でいるところを発見したので、変なことになる前に間に合って良かった。


 追いかけている時に華がトラックに引かれそうになったからそれを助けるために死んでしまったのは最悪だった。せっかく華が自らの意思であの両親から離れてくれたというのに。でもそれもだめならば、次はできるだけ早く元凶を排除しなければならない。


 戻ってきてからすぐに計画を練る。スマホでは不十分だった。常に身に着けるモノでないと意味がなかった。ペンダント型のGPS発信機を調達しそれを華に身に着けてもらった。その後はできるだけ早くかつ私がやったとはばれないように排除した。自分が第一発見者になり密室だったということで、多少疑われたものの自殺で処理された。元凶を排し、これですべてが上手くいく。上手く行くはずだったのに、なんで? なんでなの?



 もう考えても仕方がない。とりあえず、華の後を追って死んで戻ろう。次はこうはいかない。そう思って飛び降りようとした瞬間に『それはやめておいた方がいい』という女性の声が聞こえた。


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