第27話
お父さんたちが死んでから一月が経った。たまに学校から連絡が来るがお姉ちゃんの許可が下りないのでまだ行けていない。最近は二人で買い物に行ったり、散歩したりして日々を過ごしている。
「ねえ、お姉ちゃん。このままでいいのかな? 何もできないのに生きてていいのかな」
「何を言っているの華。生きてていいに決まっているでしょう? このままでも大丈夫。華は何も心配しなくていいの」
「そう、かな」
「ええ、そうよ。不安になんかならなくていいの。私が守るから」
ああ、どうして私はお姉ちゃんに頼らないようにしていたんだっけ。そうしていたらこんなにも楽だったのになぜだろう。何も不安に思うことはない、私は満たされているはずだ。
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「華、大丈夫?」
夜、眠っているとお姉ちゃんに肩を揺さぶられ起こされる。
「なあに? お姉ちゃん。——まだこんな時間なのに」
「またうなされて泣いていたから。最近よくうなされているわね。ホントに何もないのよね?」
今日もまた泣いていると言われてしまった。自分では何も覚えていないけれど悪夢でも見ていたのだろうか。それともあの日泣けなかった代わりに今泣いているのだろうか。気持ちを落ち着かせるために、お姉ちゃんが温かいココアを入れてくれた。いつか、お母さんが入れてくれたことがあったな。
「もう大丈夫よ。貴女を傷つける人はもうどこにもいないわ。だから泣かないで、華」
「うん」
「華は今までよく頑張ってきたわ。だから今は休まないと」
そう言えば私が一度だけ中学に受かったとき、お父さんもよく頑張ったなって褒めてくれたっけ。最近お父さんたちのことをよく思い出す。今まで、お父さんたちが私を認めてくれるよう、見てくれるよう頑張ってきたけどもうその意味もなくなった。解放されたのにどこか物足りないのだ。それが辛かったのに苦しかったのにいないことはなんだか違う気がする。
お姉ちゃんが死んだときも考えていた。あの時はお姉ちゃんがいなくなっても私を見てくれないからと結論づけたけど、それだけじゃない気がする。そもそもそれがいやで家出をしたんだからもう一度すれば良かったのだ。それでもあの時はそんな選択はしなかった。お父さんたちに見放されたことが辛かったのはそうだけど、それはきっかけに過ぎなかった。
「華? さっきから黙りこくっているけど大丈夫?」
「うん、あと少しで結論が出そうなの」
私はこの気持ちを知らなくちゃいけないんだと思う。今まで分からないで済ませてきたけど考えなくちゃいけないときが来たんだ。なんであの時私は死んだんだろう。……お父さんたちに認めてもらいたかったから? 生きる意味が欲しかった? それも理由の1つだけど、それだけじゃない。……きっと、そう、きっと悲しかったんだ。ただただ単純に家族が死んで悲しかったんだ。お父さんとお母さん、お姉ちゃんと私、4人そろって私の家族で、誰かが欠けてはいけないんだ。
真依さんの家族はお父様が離れていてもとても仲がよさそうな家族に見えた。私たちは近すぎたからこんなに歪になってしまったのかもしれない。互いに相手に求めすぎて、相手に押し付けすぎたから、どっちにとっても不幸になってしまった。でもだからと言って、いなくなってほしいわけじゃない。離れていてもいいから存在してて欲しいんだ。少なくとも私はそう思う。だから私は、お姉ちゃんが死んだときもお父さんたちが死んだときももう一度やり直そうと思ったんだ。
「華?」
「……なんでもないよ。お姉ちゃん」
ようやく私は自分の気持ちを理解できた。ただ家族に生きててほしいのだ。お父さんたちがいないから勘違いしているだけかもしれないけど、私は私がどうなってもいいから家族に幸せになってほしいのだ。
もう、私はお父さんたちからの愛を望まない。今までそれを求めて得られずに死に、その欲に蓋をして結局抑えきれずに死んでしまった。だからそのことを自分の中で認めて、そして捨てよう。捨てることが果たしてできるかは分からないけど、頑張ってそう思うことにしよう。結局愛されないことが辛くなって、この選択を後悔する日が来るかもしれない。それでもいないよりは、きっといいから……もう一度
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