第24話
目が覚めると、いつもより動きづらい気がする。ああ、そういえば制服のまま眠ってしまったんだっけ。ぼんやりとしたまま下に降りると、いたのはお姉ちゃんだけだった。
「あれ、お母さんたちは?」
「何を言っているの、華? 昨日のことを忘れちゃったの?」
昨日のこと? 何のことかと思った瞬間に思い出す。ああ、そうか、お母さんたちは死んでしまったんだ。
「すぐに撤収してくれたからよかったわ。華の朝ご飯はそっちに用意してあるから」
「……なんで、なんでそんなにいつも通りなの?」
なぜだかいつものように冷静なお姉ちゃんにいら立ってしまう。
「華?」
「お母さんたちが死んだんだよ! なのになんで?」
「……華は今、混乱しているのよ。大丈夫、もう大丈夫よ」
何が大丈夫なの? 分からない、分からないよ。私には。
「今日は学校はお休みしましょう。いろいろやることもあるし、整理したいこともあるでしょう」
お姉ちゃんはそう言うとてきぱきと動き出した。私はそれを傍から眺めていることしかできなかった。私が死んだときもこうだったのかな。それはとても悲しい気がした。お姉ちゃんが用意してくれた朝ご飯に手も付けずに部屋にまた戻る。
気づけば時は過ぎ、いつの間にかお母さんたちの葬式は終わってしまった。どうして自殺なんてしたんだろう? そんなそぶりを見たことなんて一度もなかったのに。葬式が終わってからも私は学校に行けていなかった。より正確には一歩も外に出ることができなかった。なぜか何にもやる気がなくなってしまったのだ。
それにお母さんたちが亡くなってから私はまだ一度も泣けていないことに気付いてしまった。私は実の両親の死も悲しむことのできない薄情な人間だったのだろうか? お父さんたちがいなくなってしまったら一体私はどう生きればいいのか。もう分かんないよ。
お姉ちゃんが寝静まった頃を見計らい、お守りだけつけて外に出る。ずっとつけてても結局受験には落ちたし効果は何も感じられなかったけど、もう最期だしと思いお姉ちゃんに言われた通りにつけていく。とても静かな夜だった。私はゆっくり、ゆっくりと橋まで歩を進めた。何をするのが正しいのか分からないけどやり直せば何かが良くなると思い私は歩み続けた。
もう何度目の光景だろうか。この橋はいつも変わらず私を待っていてくれる。何を望んでいるのか分からないまま、結局ここまで来てしまった。欄干に足をかけ乗り越えようとしたその時、何者かに引っ張られ邪魔をされる。誰だと思って後ろを振り向くとお姉ちゃんがそこにはいた。
「ねえ華、なんでまた死のうとするの?」
「お、お姉ちゃん? どうしてここに?」
「どうしてはこっちのセリフ! なんでよ、もう死ぬ理由はないじゃない!」
「お姉ちゃん?」
「とにかく家に帰りましょう。こんなところにいては風邪を引いてしまうわ。話は帰ってからにしましょう」
お姉ちゃんは私の手を引っ張って家まで連れていく。いろいろ聞きたいことがあったが、答えてくれなさそうだったのでおとなしくついていく。
家に着くと、お姉ちゃんが二人分のココアを用意してくれた。そうして落ち着いた頃お姉ちゃんから話し始める。
「ねえ、華? どうして死のうとしたの?」
「……分からない」
「分からないのにどうして?」
死んでやり直そうと思ったけど、どうしてそう思ったのかは分からなかった。それに死んだらやり直せるなんて説明してもおかしくなったと思われるだけだろう。そう思って黙っているとお姉ちゃんが続ける。
「はあ。当ててみましょうか? 死んだら記憶を持ったまま過去に戻れるのでしょう?」
「なんでそれを?!」
言い当てられたことに驚いて大声を出してしまう。
「やっぱり。華もそうだったのね」
「華もってことはお姉ちゃんも?」
「ええそうよ。まあとにかくあんな人たちのために死ぬことないわ。華はもうこれから自由に生きればいいんだから」
衝撃の事実をさらっと言われてしまったので余計に信じられなかった。もしかしてそうなのではないかと思う時もあったが、まさか本当にお姉ちゃんも覚えていたとは。
「お父さんたちが華に何をしたか忘れたわけじゃないでしょう? だからいいのよ、もう死ななくていいのよ、華」
「う、うん」
衝撃すぎて頭に入ってこない。
「今はまだ、頭が混乱していて衝動的に動いてしまっただけよ。とりあえず、今日からは一緒に寝ることにしましょう。落ち着くまで、ううん、別に華はもう何もしなくても大丈夫。もうその分苦しんだんだから。ほら一緒に上に行って用意しましょう」
私はまだそのショックが抜けないまま、お姉ちゃんについていく。
「今日はもう遅いから一緒のベッドで寝ましょう。明日、ベッドを動かせばいいわ。ほらこっちにいらっしゃい」
「……うん。お、お邪魔します」
お姉ちゃんがベッドに寝転んだ後その隣に横たわる。
「うん。華は小柄だしこれなら一つのベッドでいいかもしれないわね。ふふっ、こんなこといつぶりかしらね」
「そうだね」
まだ私は何も考えられず、上の空な返事になってしまう。
「朝も先に起きてはだめよ。私が起きるまではどこかに行ってはだめよ。じゃあ、おやすみ」
「……うん、おやすみ」
お姉ちゃんが私を逃がさないように、私を抱き枕のようにしてくる。動きようがないので、仕方なく私は思考をやめて、逃げるように眠りにつく。
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