第23話
中学に入ってからも私はお父さんに言われた通りに勉強だけの毎日を続けている。真依さんが話しかけてくれた時もすぐに会話を終わらせ必要以上に仲良くならないように努めた。勉強をするのが苦痛というわけではない。当然のことだが、何回も繰り返しているのだから成績だって良くはなっている。だが、高い下駄を履かせてもらってもこの程度なのだ。自分の底が知れていることが何より辛い。
どうせ最後には見捨てられるのに頑張る意味があるのかと考えてしまう時がある。それでも今もまだ頑張れているのはなぜか。いや違う。頑張るしかないんだ。どうせ私には何もできない。ならせいぜいお姉ちゃんや他の人の迷惑にならないようにするしかない。何をしても結局だめなら、せめて何かの役に立ちたいと思うのはそんなにおかしなことではないはずだ。
今日も学校が終わればすぐに教室を出る。最近クラスメートと話したことはあっただろうか。そもそもお父さんたちとも話すことが少ない。ああ、あの日々が懐かしい。夢のような……いや実際夢だったんだ。そう思うことにしよう。
そんなことを考えながら歩いていると何やら様子がおかしい。私の家の周りに人が集まっているようだし、パトカーも止まっているように見える。近づいてみると、やっぱり中心に私の家があり、黄色い規制線が張られている。泥棒でも入ったのだろうか。心配になり、近くにいた警察官に『この家の住人なんですけど、何があったのですか』と聞くととても気の毒そうな顔をされた。住人であることを確認された後、警察官とともに家の中に入る。家の中にはどうしてか、いつもは私より帰りが遅いはずのお姉ちゃんもいて話を聞かれているようだった。
とりあえず自分の部屋に荷物を置きに行く。部屋は荒らされていた様子もなかったから泥棒ではないのかな? いや泥棒とかだったらまずお父さんの書斎とかを見るかな、なんて思いながらまた下に降りる。お姉ちゃんの話は終わっていたようなので、話を聞こうとする。
「お姉ちゃん。何があったか聞いた? 警察の人に聞いても答えてくれなくって」
「華。まずはおかえり。……そうね、上で話しましょうか」
そう言ってお姉ちゃんは近くの警察の人に断りを入れて階段を上って行ったので私も後ろをついていく。お姉ちゃんの部屋に入ると、いつもの様子だった。
「それで、何があったの?」
「落ち着いて聞くのよ。——お父さんたちが死んだの」
お姉ちゃんが極めて冷静に言うから私は理解ができなかった。
「えっ、ど、どういうこと?」
「どういうことも何もそれだけよ。ああ、殺されたんじゃなくて、自殺したの。そんなに長くならないだろうけど、事情聴取があるようだから華も用意しておきなさい」
お姉ちゃんが淡々と言う。なんでそんなに冷静なの? お父さんたちが死んだんだよね? そう言いたかったが口から出ていかなかった。お姉ちゃんがあまりに冷静だからまだ信じることができなかった。
どこか呆然としたまま時は進んでいった。些細な質問をいくつかされた後、お姉ちゃんと一緒にパトカーに乗って病院へ行った。病院の中を案内されていくと霊安室に着いた。霊安室には二人の人間が安置されていた。白衣を着た先生が顔にかぶせてあった布を取ると下にはお父さんとお母さんが見えた。
その後、またパトカーに乗って警察署に行った。言葉も涙も出ない私にお姉ちゃんは大丈夫よと声をかけてくれた。警察署の取調室では、お父さんやお母さんがいつもどんな様子だったか、死のうとするそぶりがあったか、などいくつも質問された。私はお父さんたちが死のうと思っていたなんて分からなかった。
事情聴取が終わると、今度は逆に警察の人が当時の状況を教えてくれた。死因は一酸化炭素中毒らしい。リビングの扉の隙間をガムテープで閉めて密閉して、練炭で自殺をしたそうだ。ただ、司法解剖の結果、先に睡眠薬を飲んでからだったそうなので苦しみは少なかったらしい。
なんでこんなことになってしまったのだろう。お姉ちゃんの事情聴取が終わるまで、待っているとそんなことを考えてしまう。こんなこと今までなかったのに。そうしてお姉ちゃんが解放された後、家まで送ってもらう。外はすっかり真っ暗になっていた。家に着き部屋に入ると、疲れからすぐに眠ってしまった。
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