第22話
「二人とも早く起きてきなさい」
階下からお母さんの声が聞こえる。この時はまだ私を見てくれていたのだろうか? とにかく早く降りよう。そしてもう何も考えず、お母さんやお父さんに言われるがままに生きよう。最初からそうしておけば良かったんだ。そう思いながらリビングに入り、何も話さず朝食を口に運ぶ。
「華、それ食べ終わったら優を起こしに行ってきてくれる?」
「うん」
すぐに食べ終わり、食器を片付け2階に上がる。部屋の前で一応ノックする。
「お姉ちゃん。いるよね? 入るよ」
返事がなかったため、ドアを開ける。部屋の中には、お姉ちゃんがすでに起きていた。大丈夫だとは思っていたが、生きていてくれて良かった。これで、無駄じゃなくなる。
「起きてたの? じゃあ起こしたからね」
「ええ、もう大丈夫よ。そうね、少し考え事をしていただけよ。すぐに行くから、準備して待っていてちょうだい」
「分かった」
自分の部屋に戻り、支度をする。たいして時間もかからず終わってしまう。ただ何となく下に行く気もせず、部屋で時間をつぶす。しばらくすると、お姉ちゃんが呼びに来た。
「もう準備は終わっているわよね。行きましょう」
「うん」
そのまま、二人で家を出る。いつもどんな風に登校していたかなんてもはや覚えていないけど、こんなに静かではなかった気がする。でも何を話せばよいのか私には分からず、黙ったままでいる。そのまま会話もなく学校に着いてしまう。無言のまま、それぞれのクラスに別れる。久しぶりの小学校の授業を受け、何事もなく終わる。お姉ちゃんが来るのを待ち、一緒に下校をする。帰りも同じように静寂に包まれるかと思っていたが、お姉ちゃんが口を開く。
「華、待ってほしいの。少しだけ待っていてちょうだい」
「靴ひもでもほどけた? 言ってくれれば待つよ」
「いいえ、そうではないの。決してどこにも行かないでほしいの。私が何とかするから」
「何? 何の話?」
「分からないならそれでいいわ。ごめんなさい。忘れてちょうだい」
変なことを言うお姉ちゃんだ。一体なんの話だったんだろう? もしかして……。まあいい、私はもう言うことをただ聞くだけだから。必要ないと言われるまで生きてその後は……。いやそんなことを考えるのはやめよう。それからはまた静寂に戻り、家まで帰る。
小学生に戻ってから数週間が経った頃、急にお姉ちゃんが部屋に来て、プレゼントをもらった。
「何これ? ネックレス?」
「お守りよ。華の学業成就と無病息災を願ったお守り。ほらペンダントになっているからいつでも持ち歩けるの」
こんなものを贈ってもらったことなんてないのにどうしたのだろう。
「あ、ありがとう。——でもどうして?」
「最近、華が浮かない顔をしていたから。いい? いつもそれを身に着けておくのよ。学校に行くときもどんなときも。そうすれば絶対ご利益があるから」
「分かった」
お守りにしては随分ずっしりしている。お姉ちゃんが神頼みをするなんて意外だった。とりあえず言われた通りペンダントを身に着ける。確かにこれなら上に服を着れば見つからないだろう。
それにしてもやっぱり顔に出てしまっていたか。お姉ちゃんに気付かれるなんて相当なものだ。でももうどう笑うのかなんて忘れてしまったよ。
それからは特に変わったこともなく受験の日を迎えた。前ほどではないものの、言われた通り勉強をしたものの手ごたえはなく、やっぱり中学受験には落ちてしまった。一度は受かったのになあ、私には結局できないのか。
「華、受からなかったようだな」
「……はい」
「俺の娘なのになぜ受からない、なぜできない! こんなにも勉強に集中できる環境を整えてやったのになぜ! 優はしっかり受かったというのに!」
お父さんにそう怒鳴られるも、何も言えない。
「何とか言ったらどうなんだ? はあ、まあ嘆いていても仕方がない。次は高校受験だ。あそこは中高一貫だが、高校からでも入ることができる。次は、受かるようにこれから死ぬ気で勉強しろ! いいな」
「はい、分かりました」
「なら、すぐ部屋に戻って勉強しろ。お前は周りから遅れているんだ。周りの何倍も何十倍も勉強しないと追いつけないぞ」
そうして部屋に戻る。予想通りの反応だった。もう悲しくはない。むしろまだ言ってくれることが嬉しかった。まだお父さんの視界に私はいるのだろうか、いついなくなってしまうだろうか? どうせ私には何も成せないだろうが、いつかいらないと言われるその日まで頑張ろう。
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