第21話
お姉ちゃんの葬式も終わり、数日が経った。不気味なほどお母さんは優しいし、あんな喧嘩別れをしたのにお父さんはそれについて何も言わない。結局家出もなあなあで終わってしまった。と言うよりお姉ちゃんがいなくなってしまった今、私はいないといけない、となんとなくそう思っていた。
「華、頑張ってね。応援しているわよ」
「うん」
いつもと変わらないように一緒に朝ご飯を取る。久しく聞けていなかったお母さんの励ましの声。何を頑張ればいいかも分からないのに私は返事をする。お姉ちゃんがいなくなってからこの家は静かだ。私を含め皆、ほとんど話すことはなく、話したとしても一言か二言だ。以前なら確実にこんな腑抜けな私を怒っていたであろうお父さんもどうしてか静かだ。悲しみとはまた違う何かがこの家を覆っていた。私が死んだときもこうなっていたのかな。
部屋に戻っても何も手に付かない。あの日からもう何もする気が起きない。お母さんが励ましてくれたのに勉強もしていないし、真依さんたちに会おうと外に出ることもしていない。
私にとってお姉ちゃんはそんなに大きな存在だったのだろうか? それとも……。自分の心が、気持ちが分からない。お姉ちゃんが死んで私は悲しんでいるのか? それとも今は混乱しているだけで、本当は喜んでいるのか? お姉ちゃんがいなくなればと思ったこともあったはずなのに今はもうそう思えない。
目を瞑っているとあの感触を思い出してしまいなかなか眠れず、お茶でも飲もうと階段を下りる。するとまだ電気がついていた。お父さんたちがまだ起きているようだ。何か話しているようだから、いけないことだと思いつつ盗み聞く。
「優が死んだのはあいつのせいだ。優の代わりにあいつが死ねば良かったのに」
「そんなこと言っても仕方がないでしょう? もう華しかいないのよ」
ああ、これ以上は聞いてはいけないと思って、静かに部屋に戻る。不思議と涙は出なかった。私だってそう思うから。なんで、なんでお姉ちゃんは私の代わりに死んでしまったのだろう。こんなことになるんだったら、あそこで死んでおけば良かった。……そうだ。そうだよ。死んでしまえばいいんだ。何で忘れていたんだ。死ねばやり直せるじゃないか。
今この状況は何かが違う。違うんだ。……お姉ちゃんがいないのはおかしい。そうだよ、お姉ちゃんがいなくなったからおかしくなった。きっとそうだ。そうに違いない。
ようやく私は動き出せた。パジャマのまま着替えもしないで、外に飛び出す。どうせお父さんたちは追ってこない。橋まで止まることなく走っていく。その橋だけはいつもと変わらず私を迎え入れてくれた。これで元に戻る。元に戻るんだ。この記憶も元に戻ればいいのに。そうして私はまた身を投げ出す。
ああ、お月様。欠けても美しいままのお月様。私は結局今回もだめだったよ。一体どうすれば良かったのかな。私はきっともう
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「はっ」
どうやら成功したようだ。これでまた元に戻る。ふふふ、そうだよ、これで全部元通り、何も変わらない。今まで通りの日常を取り戻そう、何事もなかったように。いや実際何もなかったんだ。そうだよな、私しか覚えていないんだから。
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