第19話
終業式が終わり、冬休みが始まった。お父さんたちが様子を見に来ることはついぞなかった。冬休み初日は、友達と一緒にスケートをしに行った。初めてのことで、よく転びそうになったが、支えてもらうことで何とか滑れるようになった。その後、カラオケにも行った。知らない曲ばっかりだったけど、皆が楽しそうに歌っているのを見て私も楽しかった。そんな風に今まででは考えられないような冬休みを過ごした。
明日はとうとうクリスマス、つまり今日はクリスマスイブだ。
「ホントに行くの?」
「はい。やっぱりクリスマスは、皆さんで楽しんでください」
真依さんのお父さんは、今日の夜ご飯には間に合うように帰ってくるそうだ。そのため、夜ご飯はいつもより豪勢にしてクリスマスを家族で祝うのだそうだ。だけど、私はそれには参加しないことにした。もちろん真依さんたちが私を疎んでいるわけはなく、ぜひ一緒に楽しもうと言われたが私が断ったのだ。
「華ちゃん、ホントに遠慮してない?」
「そうだよ。やっぱり一緒に居ようよ」
「遠慮なんてしてません。皆さんが家族で過ごすのですからこの機会に私も一度家に帰ってみようと思いまして」
「そう? でも何かあったらすぐに帰ってくるのよ。華ちゃんがいつ来ても大丈夫なようにしておくから」
「お気遣いありがとうございます。では、荷物だけ置いたままでもいいですか?」
「もちろん。家出が終わることになってもゆっくり戻っていけばいいのだから」
「いやなことあったらすぐ私に連絡してね。向かいに行くから」
「分かりました。では、行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
もはやこの家から出るのに、行ってきますと言うのにも違和感を覚えなくなってしまった。そうして、私は財布やスマホなど必要最低限のものだけ持って家を出た。
真依さんたちには私の家に帰ると言ったがあれは真っ赤な嘘だ。本当は家に帰るつもりなんてさらさらない。それでも私が家を出たのはそうしないといけないと思ったからだった。真依さんたちと過ごした日々は本当に楽しいものだった。真依さんとは前よりずっと仲良くなれたし、恵美さんには娘が一人増えたようだなんて言ってくれた。嬉しかった。こんな日々が続けばどれだけ幸せなことだろうか。
だけど、心のどこかで思ってしまった。頭の片隅で考えてしまった。私はどこまで言っても二人の家族ではない、と。真依さんたちは本当に優しくて、一緒にいるだけで心が安らいだ。だけどやっぱり真依さんと恵美さんには私には対してはない気安さがあり、私はどうしたって部外者なのだと思わされてしまう。もちろん、二人にそんな気はないだろうし、実際にそんなことはないのかもしれない。でも一度そう思ってしまうと駄目だった。私は邪魔者なんだ。家族の再会という大事な一幕に私なんかが居ていいはずがない。だから私は家を出た。
いや、これは言い訳かもしれない。単純に私が見たくなかったのだ。そんな家族の形があることを。それを見てしまえば私は、私は……。だからそうなる前に、そうなりたくなかったから私は家を出た。
真依さんの家に居てはいけない、そんな風に考えながらもそれでもあの家に帰ることは考えられなかった。むしろ、自分の家と言ったら真依さんの家の方が思い浮かんでしまう。これからどうしようか。とりあえずカフェにでも入り、これからのことを考えていると、名案を思い付く。
今私は真依さんの家にお客さんとして暮らしている。ならば実際そうなってしまえばいいのでは? お金を稼いで、それを恵美さんたちに渡せばいいのではないか? 前に恵美さんが生活費をもらったと言っていたが、私の両親はもう私のことを見限ったのだからこれからさきはないだろう。それに恵美さんのことだから、私が遠慮しないで済むように生活費をもらったと嘘をついたのかもしれない。でも、私が自分でお金を稼いで生活費をだせれば、優しい恵美さんたちならきっと一緒に住まわせてくれるはず。それにそれだったら私もこんな気持ちにならなくて済むかもしれない。
なんだか、考えれば考えるほどいい気がしてきた。問題は稼ぐ方法だ。私はまだ中学生だから普通の方法ではお金を稼ぐことはできないだろう。どうすればいいだろうか。——いや、確か友達が前に何か言っていたような。大人の男性と一緒にご飯を食べるだけでお金がもらえると。華も気を付けなよ~、だなんて言われた気もするが、今の私にとっては光明だ。
そうと決まればすぐに実行しよう。外を見るとだいぶ日が傾いてきていた。きっといい時間帯だろう。そう思い急いで近くで一番の歓楽街に向かう。あそこならきっといろんな人がいるから上手くいくかもしれない。
歓楽街に着いた頃には日は完全に落ちてしまっていた。ギラギラとネオンの光がそれに対抗するかのように光っていた。まるでここだけ世界が違うようだ。いつもいる場所とは漂う雰囲気が異なっていたが、その雰囲気に飲まれないように、私は目的を遂行しようとする。でもどう声を掛ければいいか分からず、右往左往してしまう。しばらく時間を無駄にしてしまい、意を決して近くにいる男の人に声を掛けようとしたその時、「華!」という声が聞こえた。
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