第18話
私が家出してから一週間が経った。家出をしたというのに劇的に何かが変わるというでもなく、いつも通りの学校生活を送っていた。むしろ、今までより過ごしやすくなった気さえする。そうして今日も今日とて、真依さんと一緒に家に帰る。
「もう華が来てから一週間か~。どう? 何か不便に思うこととかない?」
「いえ。そんなことは。恵美さんも真依さんを私に本当に優しくしてくださっているので」
「それは良かったんだけど、ま~た敬語に戻ってる。さん付けもいらないって。ほらさん無しで真依って言ってみ」
「……真依——さん。……すみません。やっぱりなかなか難しいです」
真依さんともより親密になり、敬語を使わないでほしいと先日言われた。頑張ってそうしていくつもりだが、なかなかどうして直せない。
「まあ、すぐには無理か。でも、諦めるつもりないからね。時間はたっぷりあるんだし、おいおいね。——それにしても、そろそろ冬休みだね。クリスマスが待ち遠しいな」
「クリスマスに何かあるのですか?」
「うん? そう、実はね、クリスマスにはパパが帰ってくるの」
そうだったのか。この一週間、真依さんのお父様を見たことがなかったからてっきりいないものかと。
「いつもはどこにいるんですか?」
「今はね、どこだったかな? ——ごめん、ちょっと覚えてないや。お父さんさ、裁判官やってて、3年ぐらいで異動しなきゃいけないらしくて。私が小学校に上がるまではついていったんだけど、上がってからはお母さんも仕事に戻るためにここで暮らすようになったんだよね。それに忙しいからさ、あんまり帰ってこないんだ。でもいつもクリスマスには仕事を切り上げて帰ってくるの。だから、楽しみなの」
なるほど、だからいなかったのか。これまでに恵美さんが公認心理士の資格を取っていて、近くの大学や小学校のスクールカウンセラーを掛け持ちしていることは聞いていたが、お父さんは裁判官だったとは。真依さんの優しさや責任感の強さのルーツを垣間見た気がする。
「そうだったんですね」
「うん! それにね、クリスマスはプレゼントももらえるからね。ふふっ、変なプレゼントのときもあったけどね。昔さ、テディベアが欲しいって言ったことがあるの。うちとしては抱えられるぐらいの小さなものを想像してたんだけど、何を思ったのか当時の私の背すら超えるものが来たのね。うちの部屋にあるやつ見たでしょ? そんときはびっくりしたなあ。華はさ、何かもらってうれしかったものとかある?」
そう聞かれるも、答えることができない。
「すみません。実は、クリスマスとかそういった行事を祝う習慣がなかったので、プレゼントをもらったこともないんです」
「そうだったの。じゃあ今年はうちの家で一緒に祝おうよ。華がいたら楽しいだろうし」
「……そうですね」
そんなことを話しているとすぐに家についてしまう。家に着いた後は、二人で遊んだり勉強を教えたりして過ごす。恵美さんが帰ってきて、夜ご飯の支度をするのでそれを手伝う。真依さんたちの話を聞きながら夕食を取り、お風呂などを終えてまたリビングで話をする。そうして一日が終わり、眠りにつく。
この一週間は本当に目まぐるしく過ぎていった。休日には、3人でお買い物にも行った。真依さんがいろいろな服を試着しているのを見ていたら、私も試着させられる。いろんな服を着るのは初めてだったが、二人とも似合っていると言ってくれて真依さんと私にそれぞれ数着、恵美さんが服を買ってくれた。その後、カフェに入って少しお茶をした。真依さんの頼んだパンケーキがクリームが多すぎて食べきれるのかと思っていたら案外ぺろりと食べていた。私も少し食べさせてもらったが、あの甘いものをよくそんなに食べられると驚いてしまった。
その翌日には、恵美さんが『今日は映画デーだ』と言って皆で家で映画を見ることになった。映画なんてほとんど見たことはなかったが、コメディ映画では皆で笑い、ホラー映画では皆で肩を寄せ合い、怖がることを楽しんだ。最後に見たヒューマンドラマの映画では、感動するシーンであまりにも恵美さんが号泣するので真依さんと顔を見合わせて少し笑ってしまった。
真依さんたちと一緒に過ごす日々は本当に良かった。良すぎたのだ。
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