第16話
ガチャと鍵の開く音がする。『あ、お母さんが帰ってきたみたい。ちょっと見てくるから待ってて』と真依さんは行ってしまった。もうすぐと言った通り30分もしないで帰ってきたようだ。その間にしていたゲームはテレビゲームというテレビで行うもので、新鮮だった。テレビでゲームができるなんて知らなかった。なかなか操作に慣れず上手くできなかったが友達と遊ぶという行為自体が楽しかった。
そんなことを考えていると、ドアが開き真依さんが帰ってくる。『ちょっと来てくれる? お母さんに紹介しないと』と言うので、真依さんについていきリビングに向かう。リビングに行くとそこには女性がいた。なるほど、この方が真依さんのお母様なのだろう。面影が見て取れる。真依さんに似てというか真依さんがお母様に似て美人なのだろう。真依さんは活発な印象を受けるが、どこか落ち着いた雰囲気の大人の女性だ。
「マ……じゃなくてお母さん、この子が廻夜華さん。で、華、こっちが私のお母さん」
「廻夜華と申します。お邪魔しています」
「あら、ご丁寧にどうも。真依の母の
「いえ、こちらこそ真依さんにはいつも良くしてもらっていますので」
「ふふ、本当に話に聞いていた通りね。それで、話があるんですってね。とりあえず座りましょうか。飲み物は麦茶でいいかしら」
そう促され席につく。皆が椅子に座ったところで真依さんが話し出す。
「だからね、華がお父さんといろいろあって、家出してきたの。でさ、うちの家に泊めてもいいでしょ? ね?」
「華ちゃん、それは本当かしら」
「はい、家出したのは本当です。でも、泊めていただかなくて大丈夫ですから」
人のいい真依さんの家族だ、これでは断りづらいだろうから、心苦しくならないようにと思い発言する。
「華! お母さんが良いって言ったら泊まるって決めたじゃん」
「そうでしたけど、なかなか断りづらいでしょうから。お母様『恵美でいいわよ』……恵美さんも帰ってきたようですし、もう出ようかと」
「家に帰るの?」
「いえ、家には帰りません」
「じゃあどこに行くのさ! 行く当てもないのに!」
「真依、ちょっと静かにしてなさい。私が華ちゃんと話すから。貴女、家に帰らないと言ったわね。これからどうしようと思っているの?」
少し取り乱した様子の真依さんを恵美さんが諫め、落ち着いた声で問われる。
「まだ、考えてはいません。ただ、家に帰るつもりは今のところないので、なんとかしようと思います」
「そう。いろいろ事情があるものね。分かりました。家に泊めるのは構いません。ただ条件があります」
「条件だなんてそんなけちけちしないでよ」
「真~依。はあ、保護者の許可なく未成年を家に泊めることはできないの。だから条件というのは真依さんの保護者、ご両親と話させてもらうことよ」
どうしよう。連絡するべきだろうか? 確かに家に泊めさせてもらうのはとても助かるが、これ以上迷惑をかけたくないし、それに……と悩んでいると私が結論を出す前に、真依さんが言う。
「お願い、華。そうしよ? 一回連絡して許可をもらおうよ。変なとこに行かないで」
「真依さんがそこまで言うのなら、……分かりました。すみませんが電話を貸していただけますか? スマホも家に置いてきてしまったので、連絡できなくて」
まあどうせお母さんたちからの許可は出ないでしょうし、とりあえずかけることにしましょう。そうして、電話を貸してもらい家にかける。もしかしたら、お母さんが心配して不安になっているかもしれない。お父さんも心配して心が変わっているかもしれない。そんな淡い期待を持ちながら待つ。2コールしたのちに電話を取る音がする。緊張で声が出せないでいると『あの、どなたでしょうか?』と声が聞こえる。お母さんだ。
「もしもし、私です、華です」
「華? どこにいるの? 人様に迷惑をかけてないでしょうね? とにかく早く家に帰ってきなさい」
ふふふ、分かっていたけれどやっぱり私の心配よりも体面を気にするところがお母さんらしい。……心配してほしかったなあ。
「今、友達の家にいるの。その友達のお母様に変わるね」
と言い、恵美さんに私の母ですと電話を渡す。
「お電話変わりました。ご息女の友人、眞渋真依の母です。現在華さんは私たちの家に居ます。——」
私がいると話しづらいこともあるだろうと思い、その場を離れる。
「どう? つながった?」
「はい。後はお母さんたち次第です」
そうして、別の部屋で待つこと数分、ようやく電話が終わったようで、恵美さんが部屋から出てきた。
「話がまとまったわ。華ちゃん、私たちの家に泊まりなさい」
まさか、お母さんたちがそんなことを許すなんて信じられなかった。
「良かった。これで泊まれるね」
「は、はい。そうですね。……お母さんたちは何と?」
「……一度くらいそういう経験があってもいいだろうとのことだそうよ。部屋はどこにしましょうか? 客間があるからそこでいいかしら」
「……はい。どこでも大丈夫です。えっと、これからお世話になります」
本当だろうか? 私の両親はそんなことを言う人たちだっただろうか? そう疑問に思ったところで、真依さんのうれしそうな、安心したような顔を見るとなんとも言えず、結局お世話になることになってしまった。
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