第27話 魔人には魔人の考えがある


「そんな......シュガー......」



 もっと絶望しなさい騎士団長、貴女の絶望する顔を見るたびにワタシのお股が疼いちゃう......。



「うわあぁあぁあぁあぁあぁ.......





















 あ? なんだ今の?」



「「......は?」」




 私の術にかかったはずの男は、かったるそうに目とお尻をこすりながら再び立ち上がった━━。



「あー目がめっちゃ痒い......。まさかコレが異世界の花粉症か?」


「いやいやそんなはずは......これは何かの間違いよ間違い......。さぁオス奴隷! あの騎士団長を拘束して私の前に差し出しなさいっ!」



 そうよ......ワタシの魅了に掛からなかった男なんてこの世界に誰一人存在なんてしない! そして私は最強のサキュバスライムなのよ! こんなふざけた男なんかがワタシの魅了に掛からない訳━━!



「ふざけるなよ痴女スライム。ソシャゲの女キャラみたいなエロい見た目しやがって......ウチの貴重な冷蔵庫をみすみす敵に渡す訳ねーだろ」


「れ、冷蔵係じゃと!? ワシをバカにするのも大概にしろっ!」


「おいおいバアちゃん、そんなにデカい声出すと総入れ歯が外れちゃうぞ?」


「そんなもの使っとらんわ!!」



 まさか......ただのニンゲンが平然とした顔で私に口答えをするなんて......。そんなのあり得ない.......!



「この私の魅了が効かないのか!? そんなバカなことあるわけ......もう一回堕としてあげる! 魅了チャーム!」



 絶対にこれでアイツの精神は破壊され私の人形になる......! 油断したわね、今度こそ終わりよ!



「さっきから怪しい粉を撒き散らすんじゃないよ。あんたサキュバスより密売人の方が向いてるんじゃないのか?」


「なんで......私の魅了が効かないの!?」


「そりゃ俺の心身は健康だからね、健全な肉体には健全な精神が宿るんだ。毎日ラジオ体操を欠かさない俺にはお前のバイアグラなんか効かねーよ、今度から紅蜘蛛でも持ってこい」


「そんな......バカな......!」



 男がヘラヘラとしながら徐々に近づく......。

 顔は笑っているのに目が笑っていない彼の底知れぬ違和感に、私は生まれて初めて恐怖を覚え声を発することしか出来ない━━。



「いや......いやちょっと待って......こっちに来ないで!」


「待つのはカップ焼きそば作る時だけで充分なんだよ。さっさと俺の飼い猫を吐き出せ」


「ゆ......指を構えて何をする気だ......!」


「お腹をちょいとピンってさするだけさ」




 ピンッ......ハ゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ━━!




「ぐぉぶぇぇぇぇっ......!」




 男のたった1発のデコピンは私の下腹部に直撃し、今まで体感した事が無い程の凄まじい衝撃により下腹部は瞬時に"蒸発"してしまった。

 なんとか損傷した腹部を復元するが、吐き気が止まらす粘液が口や鼻から溢れ出ると同時に体内に閉じ込めていた大切な人質もその粘液と共に吐き出してしまった。



「なん......だ......今のは......!」


「ヨル......大丈夫か?」


「うぅ......ゴホッゴホッ......! ご主人遅いよ......」


「ごめんな、マイナンバーを作りに行ってたら遅くなっちまって......。けどもう大丈夫だ、安心して休んでくれ」


「うん......。あれ? なんか体が軽いような━━」




 拳に倒れたワタシを見下す男の表情は今まで見てきたどんな人間や魔人よりも鋭く凶暴で、氷のような目つきだった━━。



「さてと。やってくれたな......お前━━」


「バカな......! 私の......体は物理攻撃が効かないはずなのに....アナタ何者よ......!」


「魔人には常識が無いのか? 人に名を尋ねるときはまず自分から名乗る。違うか......?」


「名前.....? ワタシのなま━━」



 ク゛シ゛ャ゛ッ━━!



「コ゛フ゛ェ゛ェ゛ッ......!」


「コラっ! 戦いの場で自分から個人情報を漏らそうとするなんて......アンタ戦いを舐めているのかっ!?」



 ト゛コ゛ォ゛ッ━━!



「ぐぶぇっ!! いや......あんた......が.......!」


「アンタだって......? 魔人ってのは初対面の人に対する言葉遣いすら親から教わらなかったのか? なぁ?」


「いや、お主も言葉遣いは大概じゃろ.......」


「え」



 コイツイカれてる! ニンゲンじゃない......人の皮を被った悪魔だ......!



「さぁ教えろ......なぜヨルを食った? なぜ御老人であるディアナさんをあそこまでボコボコに痛めつけた? 返答次第ではお前の"ケツ"からところてんにするぞ」


「待って......! 話を聞いて......! ワタシはただ騎士団に恨みがあって......!」


「騎士団に? どういう事だ?」


「ワタシ達種族はかつて騎士団に滅ぼされたのよ......。ワタシの母はコイツら騎士団が散々痛めつけた後でワタシの目の前で......!」



 私達サキュバスライム一族はその珍しさと能力から魔人達の中でも特異な存在とされ、他の魔人からは最初は恐怖の対象とされていたが私達が彼らに何もしなかった大人しい種族だと知られ始めてからはその反動でイジメのようなものを受け、魔人達の中ですら居場所が無かった。

 そんな魔人の住処から離れてひっそりと暮らしていたワタシ達を突如襲ったのはニンゲンが編成する王都の騎士団だった━━。



「王都の騎士団はワタシ達を見つけた瞬間話も聞かずに惨殺し始めたわ......。そんな中ワタシの母はワタシを逃すために彼らに捕まり、ワタシ達の目の前で母を集団で......!」



 話すたびに思い出す......母の苦痛で顔を歪めながらワタシ達に心配させまいと唇を噛み締めて強がる姿が......。そしてニンゲンなんて欲望に満ちた最低な連中だと.......!



「母は最初反撃しようとしたが魔術師によって魔力を奪われてたわ......いくらサキュバスでも男から精気を奪ったところでそれ以上に奪われた魔力は回復できないまま犯されて最後は生きたまま燃やされた! アンタ達に目の前で仲間を奪われて母親まで奪われたワタシの気持ちがわかる!?」



 気がつけばワタシは目にいっぱい涙を貯めてパンイチの男に叫んだ━━。



「そうか......。なぁディアナさん、今の話は本当か?」


「ああ......。ワシはその部隊にいなかったから詳細は分からんが騎士団がそやつらの一族を滅ぼしたのは確かだ━━」


「そうか......それじゃあこの半透明女とどっちが化け物かわかんねぇな。そんな間に挟まれたニンゲンの俺......可哀想......」


「いやアンタは化け物よっ!」


「うわっ、スライムにツッコまれた。ぴえん」


「はぁ......なんかもう戦う気が失せた。どうせアナタには勝てないしこの子達も解放するわ」


「ワシの孫は......?」


「アレはウソよ......アナタを挑発するためのね」


「ほ、本当か!? でも何故ワシの孫が病気だと知っているんだ?」


「それは......騎士団を殺すための情報を集めていた時にたまたま知っただけなの、だからワタシは何もしてない。それより━━」


「それより......?」


「ワタシならアナタの孫の病気を治せるかも」


「マジ!? アンタチョッパーか!? すげぇな!」


「チョ......誰それ? ワタシは元々液体だから人の体内に入ってあらゆる臓器を内部から見る事ができるの。まぁそれで人を殺すことも出来るんだけど......。とにかくワタシに掛かれば治せるかもね」


「ふーん......。なぁチョッパー、その話は少しムシが良すぎねぇか? さっきまでうちの冷蔵庫を殺そうとしてたのに今は助ける側なんてさ。一体何を企んでる?」


「別に......ただそこの老騎士を殺すためにはまずアナタをなんとかしないと手出し出来ないでしょ? でもアナタを倒す未来はどう思考を巡らせても考えつかないもの。だから諦めて一回くらい手を貸すわ」



 なるほど......まぁ確かにこの程度の能力じゃ俺を殺せないもんな......。



「それにアナタ魔人を倒してるんでしょ? ワタシは騎士団と魔人に恨みがあるからアナタを味方につけるのはメリットになると思ってね。でも魔王様は殺さないでね? 恩人だから━━」


「そうか......まぁそうは言ってもいずれ倒さないといけないが、俺が殺したいのはまず勇者だからな。ディアナさんはコイツの案に乗ってくれるか?」


「ああ......孫が助かるなら僅かな望みにも賭けたいからな。頼む......」


「じゃあ交渉成立ね。早速案内してちょうだい━━」

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飼い猫と共に異世界転移した俺の役割はサンドバッグでした 〜勇者パーティ最弱と罵られた男は過酷なイジメによるパーティ追放後最強となる〜 くじけ @Kjike17

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