第25話 ロリおばあちゃんディアナの苦戦


 バーミンの屋敷跡を後にした俺はヨルが待つユニオンへ戻っていた。

 すると見回りの軍兵の格好をした複数の女性が屋敷の方へと急ぎ足で駆けていった━━。



「通報があった現場はバーミンファミリーの屋敷か!?」


「そうだ、っておいおい冗談だろ......こりゃとんでもねー事になってるぞ!」


「嘘だろ......屋敷が......しかもそれだけじゃねぇ、道路や奥の林も......」


「一体誰の仕業だ......? これじゃ中に居たバーミン達だってもう生きては......」



 それぞれの兵士たちは屋敷の惨状を見て唖然としていた━━。



「だろうな......しかも屋敷の外もこんな状態じゃ被害額だって途方もないだろう。まったく、こんなメチャクチャなことしやがったのは一体何者なんだ。そいつを捕まえて賠償させないとこの街もヤバいぞ!」



 ば......賠償?

 こんな騒ぎになる程の事を無一文の俺がやったと知られれば復讐どころじゃない、確実にこの異世界で死ぬまで借金返済生活だ......! そんなおの冗談じゃない! 早くここから逃げよう!



「あ、おい君っ! そこの布一枚のハレンチな君! 止まりなさい! そんな格好でこんなところで何をしているんだ!」


「あ......」


「あ、じゃなくて何をしていると聞いているんだ。公然猥褻で捕まりたいのか!」



 早速職質されちまったよ! この世界に救いの女神はいないのか!? 居るのはあの太った豚女神だけなのか!?



「ふざけんな! 好きでこんな格好してると思うか!? さっきそこを歩いてたら屋敷からものすごい風が吹いてきてその風圧で屋敷は崩壊したんだ! それで俺はこんな姿になっちまったんだよ......! あーあ、こうなったら最近販売中止にになったしま◯らバースデイのパパディスTシャツ着ようかなぁぁ」


「......それは災難だったな少年」



 コイツら信じてくれた......こんな適当に作った嘘を。



「そ、そうですよ! だから俺を捕まえる暇があるなら大麻パーティしてる北海道アサ○川市のサツをさっさとひっ捕えてください! イジメの隠蔽に加害者と担当刑事の不倫とか作者の小説よりも魔境過ぎるでしょうがっ!!」


「それは......一体何の話だ? それより犯人をみなかったか? こんな事をするヤツだ、恐らくとんでもない正体に違いない!」


「えーっと、なんか跡地から俺の背丈の3倍くらいのサラマンダーみたいなやつがあの林の方へ走って行きましたッ!」


「そうか! 情報ありがとう! あの先は確か攻略困難なダンジョンがある......。最近街の女性や我々の後輩があの辺りで行方不明になっている件ももしかして......」


「かもしれないな......くそっ! 同姓としても仲間としても犯人を許せん! それより.....君は早く服を着るんだ、いくらこの街が安全に近いと言っても鎧も着ずにうろつくのは危険極まりない。その顔じゃ女と間違われて狙われる可能性も高いしな、それじゃあ気をつけてね」


「あ......ああ、ありがとうございます」


「とりあえず安全を確保してから一旦装備を整えよう。この破壊力だ......最近噂になっている王国消失事件の犯人である可能性も━━」



 兵たちはブツブツと話しながら林の方へと向かっていった━━。



*      *      *



『おい......あのイカれパンツが戻ってきたぞ......!』


『嘘だろ......無傷じゃねーか.....! バーミンの屋敷に行ってあんな元気で帰ってくるなんて一体何なんだアイツ!』


『そう言えばさっきものすごい物音が向こうからしたけどそれってまさか......』


『いやいや、あんな華奢で女みたいな顔のヤツだぞ? いくら息子をコテンパンにしたとはいえいくらなんでも......碌な装備も無しに━━』



 俺はユニオンに到着し辺りを見回すがヨルとディアナさんの姿は無く、俺を見てヒソヒソと話す連中ばかりで二人は見当たらなかった。


 取り敢えずあそこで突っ立ってる受付のお姉さんに聞いてみよう━━。






「......え? あの二人戻ってないんですか?」


「はい、あなたが例の息子をボコボコにした後、私たちと一緒に怪我人を診療所に託してからは━━」



 どういう事だ? 診療所に託してからココに来ていないとなるとかれこれ一時間は経過しているはず......まさかあの二人に何かあったのか!?



「そうですか......二人がどこに向かったかわかりますか?」


「このユニオンから東の方に......てっきり貴方を追いかけて行ったものだと━━」



 東か......あのヨルが理由無しにここから勝手に動くわけがない。

 もしかしてさっき兵が話していた例の行方不明事件に巻き込まれたか? だとしたらマズイな......。



「ありがとうございます。では━━!」


「あっ! ちょっと! お兄さんに私たちから防具を渡━━!」


「後で貰います! ではまたっ!」



 俺は急ぎ足でユニオンを後にしたが━━、



「あっ......」



 ト゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン ッ━━!



 急ぎすぎたせいで脚に力が入り、ユニオンの建屋が半壊してしまった......。



「すみません......マジすみません......!」


「あのイカれパンツまたやりやがった!」


「お......お気をつけて......」


「あいつ.....やっぱムチャクチャだ.....」



 半壊の衝撃でボンバーヘッドになった受付のお姉さんや住人たちは、怒りを必死に抑え歯軋りをしながら引き攣った苦笑いで俺を見送ってくれた。



「い......いつか弁償します......」


「無論です」



 強すぎる・・・・力というのも不便なものだ━━。



*      *      *



「フフフ......その程度なのかしら? 騎士団長様の実力なんて♡」



 パキパキッ......!



「はぁ.....はぁ......その程度も何もあるか......! オヌシみたいな高身長美人の化け物相手にこれだけ耐えているんだ.....少しは褒めて欲しいものじゃ」



 此奴......正四位の攻撃とはいえワシの氷剣撃ひょうけんげきに余裕で耐えるとは......。

 それに物理攻撃も何度か行ってみたがまるで手応えが無い......!



「ふふ、攻撃は効かなくてびっくりしているようね.....私たち一族は貴女のような騎士団長様でも滅多にお目にかかれない程特殊な混血種の魔人なの。しかし可愛いわぁ.....その小さな体に高いプライド......へし折りたくなっちゃう♡」


「ワシも......随分舐められたもんじゃな......」


「ふふ......後でいくらでも舐め回したあげる......♡ 貴女のお仲間が昔私たち一族を滅ぼした分まで......」


「ちっ......ヨルちゃん、此処はワシに任せて街の騎士団と主人公シュガーを呼んできてくれっ!」


「でもっ! それだとディアナさんが!」


「大丈夫じゃ、足止めくらいはできる! これ以上他の者に被害が出る前に行けっ! それに......あいつの後ろにあるモノ達を元に戻さんといけないのじゃ......」


「うん......わかった!」



 此奴に尾けられ住処に誘導されていたのは油断した.....。

 それに住処でまさかこんな事が起きていたとは......!



「逃がさないわよ子猫ちゃん? 後ろで眠るこの子達のように熟成させてから私の仲間にしてあげる。でもまずは騎士様からよ━━!」



 ヤツは腕の色を肌色から半透明の不気味な青色に変色させて普通の人間・・ではありえない長さでその腕を伸ばす、すると目で追うのもやっとの速さでワシに襲いかかる━━。



「くっ.....! 正三位氷剣撃.......《氷結の結晶《スネェーフリンガ》》!」



 カ゛キ゛ィ゛ィ゛ィ゛ン ッ━━!



「......やったか!?」



 氷柱が弾け辺りが白い雪の霧に包まれるが━━、



「さんねーん......♡」



 その霧が風によって晴れて見えたのは無傷のソイツだった......。



「そんな......」


「そう落ち込まないで? 決して貴女が弱いワケじゃ無い......ただ貴女と私じゃ相性が悪いの♡ それじゃあじゃあそろそろ私の卵になってくれる━━?」



 ヒ ュ ン ッ━━!



「ディアナさん危ないっっ!!」



 にゅるん......。



「可愛い子猫ちゃんゲット......♡」


「......」


「っ......! ヨルちゃんっ━━!!」

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