第24話 召喚された悪魔


「き、貴様......こんな状況で要望だと!? ふざけているのか!」



 この男は一体何を考えているんだ......!?

 勝手にやってきて人の屋敷をパンツ一丁で踏み荒らして部下をぶち殺した挙句、俺が集めた高級ワインを吐き出し俺の息子をこんな目に遭わせた癖に.......!



「はぁ.......ふざけてるのはアンタの性癖だろ? なんだあの牢屋は......SMプレイするなら五反田の専門店にいけよ気持ち悪いなぁ」



しかもなんなんだ......この人を歯牙にもかけていないヤル気の無さそうなツラは.......!



「黙れっ! ガキには分からないだろうがこの世はなぁ......金と力があれば何をしても許されるのだっ!」


「そうかい、じゃあ俺はお前より力持ちだから今からこの土地を分譲地にするよ。お前は花壇の肥料担当な━━」



 コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛ッ.......!



「っ......!」



 ソイツは座っている体勢のまま即座に拳を構える。

 その恐怖によって俺は幻覚を見たのか分からないが、その拳は今までの人生で見た事がない程巨大なドス黒いオーラを放ち、一瞬で俺に死を予感させた。


 確かにコイツなら本気でここを更地にしかねない......非常に不愉快な事だがここで無様に死ぬより奴の要望を素直に聞いた後、この男を殺した方が得策だろう━━。



「分かった......それで何が望みだ? この街の裏を牛耳るマフィアを一瞬で再起不能にするほど大事な要望なんだろう?」


「ああ......実はこう見えて身分証持ってなくてユニオンに行ってもまともな職につけなくてね、だから貴方のコネで身分証を作って欲しいなぁーと思って訪問したんだよ」






 はぁ?





「......なんだと?」


「アンタこの距離で聞こえないのかよ耳悪っ。俺は今見ての通り身分証はおろか服すら持ち合わせていない哀れなニートだ......そんな生活から脱出して働くためには身分証が必要でね、王都にも顔が利くアンタならそんなの簡単に作れるだろ? 頼むよ」



 コイツ......! たかがそんなことのために......こんなふざけた理由のために俺の血と汗の結晶をガキが飽きたおもちゃを捨てるようにぶっ壊したってのか......!? このクソガキがぁぁ......!



「貴様......まさかそんなことのために俺の大切な部下を殺して俺の女を逃し、この大事な屋敷を再起不能に破壊したってのか......?」


「......そうだよ?」


「ふざけるなぁぁっ!」


「そうカッカするなよ更年期か? 俺にとっちゃアンタの屋敷や部下なんて身分証以下の存在だ......だがそれはお互い様だろ?」


「なんだと......どういう意味だ!」


「俺の後ろに隠れてる金髪美人から話を聞いたけどさ......アンタだって他人の女房寝取った挙句虫けらのようにその旦那を殺したり、法外な借金背負わせた後馬車馬のように働かせて用が済んだら海に沈めたり人の大事なものを好き勝手してたじゃねーか。しかもその真相を問い詰めようならどんな人間でも殺してきたんだろ? アンタの所業に比べたら俺の自宅訪問なんて可愛いもんだよ」



 アニアめ......この短期間でコイツにそんな事まで喋ったのか......!



「アニアぁっ......! その男の後ろに隠れてないでこっちに来い! お前この後どうなるか分かってるだろうなぁ!?」



 アニアは伏せていた目を一瞬上げて俺を睨みつけ、またパンイチ男の背後に隠れた。

 そしてそれを分かっていたように男は俺と目線を合わせる━━。



「いや、アンタとこの美人の間に"この後"なんか来ないよ。アンタには身分証を作るか股にぶら下がってる息子共々もんじゃ焼きになるかの二択しかないんだ、さぁどうする? まぁ俺がその立場なら......今すぐ身分証を作るね」



 コイツやアニアの事は腹立たしいが今は我慢だ.......このガキは俺の力の源を"召喚"して地獄に叩き落としてやる━━!



「分かった......取り掛かろう」


「交渉成立だな、さっさと作ってくれよボス。俺はこう見えて暇じゃないんだ」



 このクソガキィィッ! 絶対に殺す......!



*      *      *



 ━━1時間後━━



「出来たぞ」


「おおー」



 俺は言われた通りヤツとヤツの仲間の身分証を作った。

 これでヤツもココから帰ろうとするだろう......だが俺は絶対に許さない......! 息子と俺のプライドをズタズタにしたコイツだけはっ━━!



「やっとこれでまともな生活が出来るなぁ。ウニクロ行ってジーヨー行ってH&N行って、それからまだ俺15歳だけどこの世界なら恐らく風俗に━━」


「いや......残念ながら貴様には明日は来ないぞ小僧」



 俺は絶対に殺す......ここまで積み上げてきたモノをこんな男に消される訳にはいかんのだ━━!



「貴様はここで死ぬ......《ヴィーゾフ召喚》!」



 コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛ッ......!



「ん? なんだ?」



 俺が呪文を唱えると、奴によって破壊された床の亀裂を中心に紫色に光る魔法陣が展開されそこから黒い影が姿を現す━━。



「残念だったな小僧......俺が何故ここまでの権力と金を手に入れたか分かるか?」


「いや全然。共産党とズブズブだからか?」


「ふざけたことを.......俺はなぁ、契約したんだよ"悪魔"となぁぁっ!」


「悪魔?」



 魔法陣から完全に姿を現したソイツはドス黒いオーラを放ち、紫色の肌色に筋肉隆々な肉体とネズミのような獣の顔をしたモノ......それが俺が契約した悪魔そのものであった。



「なんだコイツ? 魔人か?」


「そんな半端モノと一緒にするなニンゲン......我の名は《アマイモン》。この男と契約を交わし、願いと引き換えに我は男が手に入れた女から魂を奪う悪魔......我らの邪魔をするなら貴様には消えてもらう━━」


「というワケだクソガキ......牢屋に居た女共は俺の慰めモノにした後この《アマイモン》の養分になったのだよ」


「へぇ、魔人ではない悪魔......ね。今まで色々な場所を旅をしてきたがそんなモノ初耳だよ」


「我ら悪魔は普段姿を隠しているからな......この地にやってくるのは何か独自の目的、あるいは契約者の命が危機に晒された事態になった時だけだ。そしてこの姿を見たモノは"死"あるのみ......ハ ァ ァ ァ ァ ァ ッ━━!」



 俺が召喚したネズミの悪魔アマイモンは叫び声と共にドス黒いオーラを身体から放ち、そのオーラを掲げた右手に集中させる。

 するとそのブラックホールのような黒いオーラから目も開けていられないような強風が発生し、屋敷の瓦礫達は徐々に吸い込まれ、床やドアもその吸引力に負けて吸い込まれる。

 そしてそれに比例してオーラはさらに大きくなっていった。



「ニンゲン......これが何か分かるか......?」


「さぁ? アインシュ○イン稲田がフォロワーの女に送らせた卑猥画像か? アレも真実は真っ黒だったもんな」


「ふざけるな! 我々の能力は次元をも操る......今ここに発生している"ホール"は言わば別空間へ閉じ込めるゲートなのだ。貴様をそこに放り込んで永遠に閉じ込めてやる━━!」



 すごい......流石は悪魔だ......!

 いくらこのパンイチ男が強いと言えど、人の理を超えた能力を発揮するこの悪魔には手も足も出るはずがない!



「バカガキが......俺を甘く見てるからこう言うことになるんだ! さっさと死ねぇぇっ!」


「さぁこれで最後だニンゲン......! 言い残す事はあるか?」


「あ、しかのこのこのここし○んたん観なきゃ......」

 

「死 ね ぇ ぇ ぇ ぇ 「うるせぇ出オチ野郎」」



 フ゛シ゛ャ゛ァ゛ァ゛ッ━━!



「え......?」



 ト゛コ゛コ゛コ゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン ッ━━!



「あっ、やりすぎた......」



 地割れのような凄まじい轟音と共に、肉が弾け飛ぶ音とハリケーンのような風圧が俺に襲いかかり、建屋が遥か彼方へすっ飛び地面が部分円環状に抉れていた━━。

 


「そんな......俺の屋敷が.......一体何が起きたんだ.......? アマイモン......? アマイモンっ!!!!」



 俺はふと地面に目をやるが......そこには━━、



「アマイモン......そんな......」


「......」



 もはやコレをなんと言うべきか分からないほど原型を留めていない......物体がすり潰され最早人影のような姿になって地面に紫の肉がへばりついている人智を超えた存在アマイモンだった......そして━━。



「なぁ......とっておきの切り札はもうおしまいか? 退屈だよ。次から確実に仕留めたきゃ演説中に狙撃でもするんだな━━」



 そしてソレを粉砕した男はとても退屈そうな顔をして、碌に力を入れていないような拳から蒸気のようなモノを放っていた━━。



*      *      *



 マフィアの頭目は俺が軽く放った一撃で跡だけになった"悪魔"とやらの影を見つめて呆然と立ち尽くし、俺の後ろに隠れていた金髪の美人アニアは自分の頭を抑えながら立ち上がる━━。



「一体......何が起きたの......?」


「その......強いのかなと思って悪魔を軽くこづいたら死んじゃった」


「......は?」



 金髪は唖然とした顔で今起きた惨劇を凝視する。

 そしてそれでもまだ信じられないような表情で俺と悪魔の跡を首をキョロキョロと振りながら交互に見ていた━━。



「そんな......俺の......俺の悪魔が......俺の命はもうおしまいだぁぁ......っ.......!」


「だろうな、金も力も悪魔の協力も無くしたアンタはタダのハゲた悪党だ。さて、お前にはもう用は無いしココで息子共々死んでおくか? コネがある王都はお前に何もしないだろうしな」


「そ、そうじゃないんだ! 頼む! 君の言う事は何でも聞く! だから俺の命をたすけ......ク゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!」


「おい!? どうした!?」



 頭目のバーミンはつんざくばかりの悲鳴をあげてその場に跪く。

 すると足元から徐々に白い結晶のようなモノに肌が変化し結晶化していく。



「た゛す゛......け゛.......!」



 頭目は最後の言葉を発した瞬間全身が白い結晶になってしまい砂のようにようにその場に崩れ落ちた━━。



「何だこれ......一体何が起こったんだ?」



 ふとテーブルを見ると頭目の息子とその恋人も頭目と同じように白い結晶へと身体が変化し、その場に崩れ落ちていた。

 その結晶を指で触ると少しだけ甘い匂いがする━━。



「これは......砂糖......?」



 塩の柱なら神話で聞いた事あるがまさか"砂糖"とはな━━。



「ねぇアニアさん、コレ一体どう言うワケか分かりますか......?」


「......分かりません。こんな事今まで見たことも無いです」


「ですよねぇ......もしかすると悪魔と契約した人間はその悪魔が死ぬとこうなっちまうのかもな。それに関わった関係者も━━」


「そう......かもしれませんね」


「それで、貴女はこれからどうするんですか? ヤツから解放された事だし自由の身なんですよね?」


「ええ、でも私にはもう居場所なんてありません......。夫はこの人に殺され、一緒に経営していたバーはこの人に取られて無くなったので帰る場所が無いんです......だから私......アナタと......」


「なるほど......」



 俺は席を立ち━━、













「それじゃ」


「え......ちよっとまっ......!」


「俺、未亡人スキル持ちは流石に相手できないっす。そうだ、女が大好きなあの・・勇者パーティにでも応募してください」



 俺はヨルの元へ帰るため、ボロボロになった屋敷にアニアさんを放置してさっさと引き上げた━━。



「あんな境遇の人を仲間になんて出来るか。こっちはロリババアとツンデレ発情猫の世話で精一杯なんだよ......」



 まぁ何はともあれ身分証を手に入れる事が出来た。

 これで他の異世界ラノベと同じクエストを受けてお金を稼げると言うスタート地点にやっと立つことが出来る......。


 見てろよクソ勇者パーティ......この腐った世界を救う片手間でお前らを叩き落としてやる━━!












「ふふふ......まさか私のオーラを察知して逃げたのかしら......? シュガー・サンドとか言ってたわねあの男......細かく調べる必要がありそうね━━」



*      *      *


作者より。

更新が遅れて申し訳ありません!

体調が回復してきたのでこれから徐々に更新して参りますのでよろしくお願いします!

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