第23話 ゴッドファーザー


 バーミンファミリー邸内にて一人の恰幅の良い男が、泣きじゃくり助けを乞う女に履いている革靴を舐めさせながらその女を見下していた━━。



「お許し下さい......ウラージ様......」


「許す? 何を言っている? 貴様が王都重役との裏接待・・・を無碍にしたおかげで今回の取引はパーになる寸前だったんだ。どの道バラすしか無いだろう?」


「申し訳ありません! 次はうまくやります、うまくやりますから命だけは......!」



 女は靴から顔を離し、その男に向かって何度も床に頭を擦り付ける━━。



「アイリス......うちのファミリーに”次”なんて言葉は無いんだ。男共を惑わす貴様のその妖艶な肉体は一体何のためにある? 彫刻のように整ったその顔は誰が活用させてやったと思っている? 男の一人もハニートラップに掛けられないようなアバズレなんざ最早用済みなんだよ」


「そんな.....」


「恨むなら俺に命もろとも全て奪われたお前の旦那を恨むんだな。おい......コイツを例の穴倉に連れてゆけ!」


「OKボス。ではバラす前にコイツの映像を━━」


「ああ、いつも通り裏ルートで出せ。終わったら死体は綺麗に処理しろよ? 綺麗であれば綺麗であるほどその手の好きものに高く売れる」


「では殺す前に好きにしても......」


「無論だ、どうせお前がやらなくても魔像機の前で誰かがやる。さぁ......愛した旦那とあの世で念願の再会を果たせるぞ、よかったなアイリス」


「いや......いやぁぁぁぁっ! チクショウ......呪ってやる......! アンタだけはこの手で呪ってやるっ! ウ ラ゛ー ジ い゛ぃ゛ぃ゛っ!」


「ふん......薄汚いアクセサリーの分際で俺の名を吠えるな負け犬が。それと.....そいつの処理が終わったらここに散らばってる死体ゴミは片付けておけ、飯が不味くなる」


「OKボス━━」



*      *      *



「ふっ......今日も平和な1日だな━━」



 俺の名前は《ウラージ・バーミン》、一代で王都にまで勢力を広げたマフィア《バーミンファミリー》の頭目だ。


 どうやって勢力を広めたかって? そりゃ非道と呼ばれることをこの国の誰よりもやり抜いてきたからだ。

 この世は弱肉強食......平等だの格差のない世界だのどれだけ綺麗な言葉を紡ごうとも結局は食われた方が悪い、俺はそれを痛いほど知っている。

 だからこそ俺は誰よりも力を手に入れ他人の者を奪い取り自分のものにする、武力も金も女も......だが.......。



「......退屈だな」



 王都とのコネが出来てから俺の力は本物になった。

 男共は俺を見て恐れ慄き、女は俺の前に誰もがひれ伏す。

 しかしそんなことが長く続くと流石に少し飽きてくる......だから最近は巷を牛耳りつつビジネスの一端として美しい見た目使えそうな未婚の女や人妻を使って色々なところへ斡旋している。

 特に人妻もの場合、旦那の方は妻の目の前で始末する......その間その妻には俺の手下にクスリを使って堕とし犯させてな。

 そうでもしないと退屈を嫌というほど味わった俺には刺激がない......大切なものを奪われながら死ぬ男と、その男が自分を犯している男に殺され絶望しながらも従うしかない女の絶望した顔しか俺の乾きは癒せない......そう思っていた。


 今日が来るまでは━━。



「アニア、入れ」


「......失礼します、旦那様」



 嫌そうに俺の部屋に入ってくる女......コイツの名前はアニアだ。

 二ヶ月前俺が旅行に訪れた街のバーで働いていたマスターの嫁だったが、俺はその吸い込まれそうな瞳とシルクのような手触りの金髪、そして生半可な舞台女優より整ったスタイルに惚れ込み、旦那の目の前で犯して旦那を殺した後連れ帰ってきた━━。



「今日は言いつけ通り、旦那の形見の髪留めはつけていないようだな」


「はい......」


「そうか......始めろ━━」



 無表情の中にも俺に対する恐怖で瞳が染まるアニアはソファに座り股を広げた俺の股間に顔を近づけ、ゆっくりとリベットをその細い指で外していく。

 そしてズボン長ホーズを完全に下ろすと俺のモノは完全に露わになり、アニアはいやらしい顔つきで喉奥まで咥え始める━━。



「次に髪留めをつけたら殺すからな━━」


「......はい」



 アニアは以前髪留め付けた状態で行為に及ばせたが髪留めの所為で俺の子種が髪の毛にかからず綺麗な状態で終わろうとした。

綺麗な金髪が俺のモノで汚されなかった事を気に入らなかった俺は次から髪を纏めないように命令した。

 その方がアニア自身の唾液と俺の精液で濡れ、コイツを髪の毛まで犯したような気分になるからだ。

 それにコイツはあの髪留めがないと不安になるようでその顔がまたそそる━━。



「良いぞ......アニア......もっとだ......その悲しみの顔で俺をもっと喜ばせろ......!」



 俺はアニアの髪の毛を手で引っ張り、無理やり喉奥までブチ込ませる━━。



「......っ! お゛ぇ っ......!」


 

 悶絶した表情で涙を浮かべるアニアに俺はますます興奮し、掴んだ激しく髪の毛を揺さぶる。

 その度にアニアは嘔吐き、苦しそうにしながらも健気にしゃぶる姿に俺は果てそうになった━━。



「くくっ......そろそろ出そうだ......アニア......!」


「ン゛ン゛っ.......!」


「さあ......出すぞ......アニア! 一滴残らず受け止めるんだ......!」














 ハ゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ━━!




「なんだっ! 今の音はっ!」



 俺はアニアの顔を股間から思いっきり剥がし、ガラス窓へと駆け足で向かう━━。



「一体何が起こった!」



 窓から庭を見下ろすとそこには砂煙が立ち込め、この社を守るレンガの壁が何者かに破壊されているのが見えた━━。



「クソがッ! バーミンファミリーのアジトと分かっての襲撃か!? いや......なんだアレ!」



俺は目を疑った......砂煙が風に飛ばされ視界が開けるとそこには何かに踏み潰されたような肉片が無数に転がっており、目を凝らすと俺の部下が来ている服がビリビリに破れた状態でそこら中に散らばっていたのだ。


 そしてその中から一人のニンゲンが現れる━━。



「すみませーん夕日新聞のものでーす! インターホン無いんでノックしたんですけどー! 頭目さんは居ませんかー! それとも左寄りの新聞社は取材拒否ですかー!?」



 その少年は全身に真っ赤な血を浴び、両手に何かをズルズルと引きずりニヤニヤとしながらこちらに向かうパンツ一丁のイカれ野郎だった。



「......冗談だろ......」



*      *      *



「くそっ......! 何者だアイツ!」


「お願い......お願い助けて!」


「あ、アニアお前何処へ行くっ! チッ......今は女は後回しだ!」



 俺は逃げるアニアを後に急いで部屋を飛び出し、女と牢に向かった部下のアームストロングが居るであろう一階に降りる。

 すると一階はさっき壁を壊した男の攻撃の所為なのか壁に大きな穴が空いていた━━。



「こ......これはアイツの攻撃か......? 一体どんな化け物だっ! アームストロングっ! 返事をしろぉぉっ!」



 アームストロングは女と一緒に牢屋が並べられている穴倉へ続く通路の前にこちらを見て立っていた━━。



「なんだ居るじゃないか! 屋敷が襲撃された、今すぐ戦闘体勢に入れっ!」


「ボ.....ス......」


「そんな女など捨て置いて今す━━」


「く゛ぁ......ぁ......」



 変な呻き声を共にアームストロングの体は弾け飛び、部屋中を血で真っ赤に染める。



「なっ......アームストロング!」



 嘘だろ......アームストロングは王都の騎士団で第三分団団長を務めていた男なんだぞ......? そんな強靭な男が一瞬で粉々になるなんて.......ありえないっ.......!



「バカな......これは夢か......?」



「いいや、紛れも無い現実だぜおじさん━━」



 声のする方を見ると先ほどのパンイチが血まみれの姿でソファに腰掛け、人のワインを勝手に開けて飲もうとしていた。

 見覚えのある2人のニンゲンを無造作にテーブルの上に重ねて━━。

 


「うぇぇ、これ本物のお酒だ......まっず」


「な、何者だお前ぇぇっ!」


「初めまして、俺の名前はシュガー・サンド。そこに名刺を二つ置いたんで大人しくご覧になって下さい」



 テーブルに置かれた人間は顔面が原型を留めないほどに崩れ落ちていた。

 だがそれを見た瞬間その人間は紛れもない俺の息子ムーソルだとすぐに分かった━━。



「ムーソルっ! 貴様ぁぁ俺の息子に何をしやがったっ! 誰か━━!」


「おいおい人を呼んでどうするんだ......? 単独取材拒否をした瞬間アンタの五臓六腑個人情報を世間にばら撒まくぞ。二度とその身体で都知事選に出馬出来なくなるけど良いのか━━?」


「っ......!」



 そう言い放った瞬間に見たヤツのその獣のような目に俺は凍りつく。

 今まで裏社会で生きてきた俺はそいつの目を見た瞬間に人と成りが瞬時に分かる......コイツは普通じゃない、身体中から冷や汗がドッと吹き出すくらい俺の本能が危険信号をバカバカと鳴らしている━━。



「お、お前一体何しに来たんだ.......! 誰の差金だ! 今まで攫ってきた女の恋人か? それとも財産目当てか!? 俺の屋敷と部下をめちゃくちゃにしやがってぇっ......!」


「ふふ......ビビったからって多弁になるなよ、仮にもゴッドファーザーなんだろ? アンタを守ってたマ○ケル・コルレオーネはさっき粉洗剤になったが俺のちっちゃな要望を聞く程度アンタ1人でも問題ないよな......?」



 つい先程まであれほど退屈だと嘆いていた日々は、この男に出現により突如として終わりを告げるのだった━━。



*      *      *



「ヨルちゃん......彼奴と離れからワシらは何者かに尾けられているようだな」


「うん、足音がずっと聞こえてた。一旦逃げよう━━!」

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