第22話 オカマ使い


「お前......俺の正体を分かった上でそんな軽口を叩いているのか?」


「さあ? 俺は最近ログインしたばかりの無課金ユーザーでね、見ての通り服どころか身分証すら持ってないんだ。そんなに有名ならアイコンに金バッジでもつけてくれよ」



 カマキリみたいな顔をした男はさっきルイスを刺した鎌のような武器を腰にしまって受付の女とヘラヘラ笑い始める━━。



「ふふふっ......あっははははは! コイツアナタにの事何を知らずに楯突いてるわよ? あっはははは! ホントに笑わせてくれるわ!」


「くくく......まさかこの街で俺の事を知らない奴が居るなんてな。まぁいい......俺の名前は《ムーソル》、この街で恐れられている"バーミンファミリー"頭目の息子だっ!」


「息子......」



 なるほど......その話が本当なら使えるかもしれないな━━。



「どうだ、恐れ慄いたか〜? 俺はあの悪名高いバーミンファミリーの次期頭目なんだよ。俺は今まで女も金も好きにし放題、気に入らない奴はこの手で何百人もぶっ殺してきた......この武器と俺が繰り出す風魔法は最強だからよぉ〜」


「へぇ......その手に持ってるプロペラと風魔法で最強のハンディ扇風機でも作るんか? 夏フェスで突っ立ってる女子みたいにさぞ涼しいだろうな。でもそれならこんな所に居ないで大好きな頭目のおっぱいから絞り出したタピオカミルクティーでも啜ってろよ」


「くくっ、生意気な軽口を叩いてくれるなぁ〜。まぁちょうど良いや......お前を殺してさっきお前に声をかけていた可愛い女の子と猫耳女を俺のモノにする━━、お前はそれをあのルイスのように血まみれになって眺めてるんだな」


「ふふふっ、全く......私という婚約者が居ながら他の女にも手を出すなんて酷い男ねムーソル」


「くくっ! アイツらは俺がガッツリ首輪をつけて金稼ぎの道具にしてやるんだ。まあ飼い殺しって奴だな......」


「良いわねぇ、それで稼いだお金で私をまた綺麗にしてちょうだい。それじゃあんな男さっさと殺してよぉ」


「ああもちろん。男ってのは女の前じゃいつだって強いところを見せたいからな━━」



 奴は再び腰から武器を引き抜き戦闘体勢に入ると奴は自分に風を纏わせ始めた━━。



「やばい......アイツの風魔法から逃げ切れた奴はヤツの言う通り今まで居ないんだ! みんな逃げないと手遅れになるぞ!」


「あの兄ちゃん確実に死ぬぞ......!」


「ヤツの名前は別名"風切りのムーソルヴィエーチェルーソル"。今まで何人もの人間がバラバラの死体になったことか.......。もう終わりだ......」


「それどころじゃない。ここのユニオンだっていくら対魔法用に壁をミラーコーティングされているとはいえ無事では済まないぞ!」



 ユニオン内部に居た人々はムーソルが壊したドアから一目散に逃げる。

 そして残ったのは俺達とこの争いの行く末を見届けたい数人の酔狂な人間、そしてルーソル達だけとなった━━。



「丸腰の人間相手に両手でオカマ・・・を構えちゃって......。アンタがそれぞれ後生大事に持ってる武器の愛称は何て言うんだ? ミッツか? マングローブか? それともデラックスか?」


「くくっ......そうやってお前がバカな口を叩いてる間にお利口な弱者共は全員外に逃げた。さぁ殺しの時間だ━━」


「良いねぇ、来いよチンピラ。親の七光り程度の光量じゃ豆電球にすらならないって事を教えてやる」


「くくく......はははははっ! お前こそそんなパンツ一丁で一体何が出来る? お前に苦しい死に方を教えてやるよ......《カマイタチスィエールラースカ》」



 ムーソルが呪文を唱えた瞬間ヤツはその場から姿を消し、残り風だけがその場に留まった━━。



「速いっ......! やはりあの者口だけではないようだ......!」


「うん、確かにあの速さは私の目でも簡単には追えなかったよ」


「ふむ......それにしては随分落ち着いているな君は。やはり彼に絶対の信頼があるのか?」


「どうかなぁ? でもこれだけは言えるの......」



 奴がその場から姿を消してから数秒が経ち、俺の周りには風を切り裂く音がヒュンヒュンとそこかしこに聞こえ始める。



「くくくっ! 俺が何処にいるか分からないって顔してるなぁ〜? だがそれで良い......お前が俺を目で追おうとしているうちにお前の身体はバラバラに切り裂かれる━━」


「その通りよ、ムーソルの鎌からは何人たりとも逃げることは出来ない。さぁて私はあそこで隠れている子猫ちゃん達を拘束しようかしら......」


「くくく......頼むぜユナぁ、俺はコイツをさっさと仕留める。死ねぇぇぇっ!」


「今まで絶望する程の攻撃をその身に受けてきたご主人は誰よりも.......」



 カ゛キ ィ ン ッ━━!



「簡単に攻撃を見切ることが出来る━━」


「何っ!」


「おいおいどうした? そんな鎌の使い方じゃ庭の草だって刈り取れやしないぞ━━?」



*      *      *



「うそっ......ムーソルの鎌が......!!」


「彼奴め、なんと凄まじい動体視力じゃ......」


「馬鹿な......俺の鎌が受け止められた......? 今確実にお前の頸動脈を捉えたはずなのに!」



 鎌が俺の指の中で煙を出しながらギチギチと音を立てている中、ヤツは驚きの表情を浮かべていた━━。



「残念ながら捉えたのは俺の方だよオカマちゃん。さて次は俺の番だ、しっかり歯ぁ食いしばれよ━━!」


「な......まっ......!」



 ト゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン ッ━━!



「く゛ぁ ぉ ぁ っ.......!」


 ヤツは俺の拳によってユニオンの頑丈とされる壁を貫通し、道を跨いだ隣の家の壁に鈍い音を立てて叩きつけられた。



「う、嘘だろ.......あのふざけた兄ちゃんムーソルを一撃で......」


「ユニオンの壁をあんな簡単に破壊するなんて......。とてもじゃねーが今見たものが信じられねぇ.......!」


「只者じゃねぇぞあのパンツ━━!」



 人々が混乱と衝撃を受けている中、俺は真っ青な顔をしてその場から離れようとする受付嬢に近づく━━。




「なんなのよ.......嘘でしょムーソル? 私を揶揄っているのよね......? 早く起き上がっていつもみたいに殺してよムーソルっ!!」


「はははっ、お前からアイザック◯ォスターを取ったらただの置物だなオイ」


「アンタ......一体何なのよぉっ!」


「おいおい仲間を置いて逃げるのか? お前のアイボーは向こうでノビてるぞ、介抱してやれよ」



「冗談......冗談よさっきの言葉は......取り消す! もう取り消すから私を許して!」


「残念ながら炎上した呟きは取り消すと更に拡散されるんだよ。イカついMV作ったどっかのバンドと一緒に正しい火消しの仕方を学んでくるんだな━━」


 俺は受付嬢の首を思いっきり掴んで中に持ち上げるとそいつの顔はみるみる青ざめていく。



「いや.......やめで......ぐるじ......!」


「囀るな。それ以上鳴いたら猟友会呼んで熊の代わりにお前を駆除させるぞ?」


「うぐっ......ゆるじで......わだじ.....おんななのに......」


「おいおい、人を簡単に殺そうとしておいて自分の時は性別振り翳して命乞いか? ダサいねぇ......そんなんだからお前らみたいな男のおこぼれでイキる女は馬鹿にされるんだよ。港区からさっさと土浦に帰れ━━」


「や......」



 ハ゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ━━!



「う゛ふ゛ぉ゛ぁ......!」



 俺に放り投げられたウケツケジョーも壁を貫通し、彼氏と同じく向かいの建物の壁に叩きつけられた━━。



「ひ.....ひでぇ.....。いくら何でも女相手にやりすぎだろ......」


「あのパンツ野郎イかれてるぜ......」


「あやつ女子おなごにも容赦無いな......」


「まぁ色々されてきたからね、ご主人は━━」


「......そうなのか?」



 俺は砂煙が立ち込める壁の穴からユニオンを出て2人の元へ向かう......。

 2人は全身の骨が折れてタコみたいになってるが、そんな事は俺に関係ないのでそれぞれの裾を掴んで身体を立たせる━━。



「......おま......え......」


「お? まだ意識はあるようで良かった。あの程度のマシュマロジャブで死んじゃったらどうしようかと思ったよ」


「なん......だと......! クソ......がぁ......!」



 ハ゛キ ィ ッ━━!



「うぶぇ......!」


「おっと悪い、手が滑った」


「ふ......ふじゃけ.......」



 ホ゛キ ィ ッ━━!



「ぼぁ.......!」


「あらら歯が全部取れちゃった。今後はスムージーしか食えないだろうが俺を責めるなよ? それから手加減を調整する良い練習台になってくれてありがとな」


「あ......うっ.......っ......」


「もう御就寝かよ......そんなメンタルでどうやって今までマフィアとして生きてきたんだコイツ」



 俺は2人の裾を掴んでタイヤ引きの様に地面を引き摺りながらユニオンの中にいるヨルの元へ向かう。



「じゃあ手土産も手に入れた事だしちょっくら身分証を取りに市役所へ行ってくるよ」


「うん。これでやっとまともな職に就けるねニートご主人」


「うるせぇっ! それ以上ニートを弄るならジモティーで里親に募集かけるぞ?」


「いやいや何を呑気なこと言っとるんじゃオヌシ! ファミリーに手を出したと頭目の耳に入ればオヌシ1人で大人数相手に戦争だぞ!? それでも良いのか!?」


「その時は土下座して丸く収めてくるさ。それよりディアナさんは心臓を突かれたルイスさんを早く診療所に頼む、傷口を凍らせたお陰で助かる見込みはまだ有るはずだよ」


「オヌシ医者でもないのに何故それが......」


「......ドMってのは普通の人より傷への理解が深いんだ。じゃあ行ってくるね」



 俺はズルズルと2人を引き摺りながらバーミンファミリーのアジトへ単身で身分証を取りに向かった━━。



*      *     *



「勇者様......お話が━━」


「なんだお前、王都の使いか? 俺に何の用だ?」


「はっ......勇者様が4年程前に治めたミエルダ共和国につきましてご報告が」


「懐かしいな......あの王は元気か?」


「それが.......先日何者かにより国王の領地が跡形も無く消失しました━━」


「......なんだと?」

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