第21話 美人局、おっかないね......
「おばあちゃん......?」
「その......ラディアちゃんだっけ? 今の話は本当なのかい?」
「うん。私のおばあちゃんはディアナおばあちゃんだけだよ? 裸のお兄ちゃん」
「まじかよ......」
「だから言ったじゃろ? この子は唯一の家族でワシの孫の《ラディア・ソラーレ》だ!」
なんか喋り方もおばあちゃんの
「お、お歳はおいくつで......?」
「女子にそれを聞くのは失礼じゃぞ? まあ良い、ワシは今年で八十八じゃ」
「その......さっきは失礼なこと言ってすみませんでしたぁぁっ!!」
俺はその場で膝を落とし頭を地面に擦り付けた━━。
「ふん、年上は敬わないといけないよなぁ......? 若者よ━━!」
「は......ははぁぁぁっっ!」
胸に腕を組みドヤ顔をするディアナさんは俺の事を完全に見下しながらニヤリとしていた。
「......まぁ今回は許してやろう。
「ありがとうございます! じゃあ家族の無事も確認出来たし俺たちはこれで━━」
「待て、オヌシ達はさっき職を探しに行くと言っていたな? ワシもそれに付き合って良いか?」
「え? そんなの一人で行ってくださいよ。俺達は職を見つけた後、ウニクロにズィーユーに忙しいんだ」
「へぇぇぇ! 誰かさんのせいでワシさっき職を無くしたばかりなのになぁぁぁっ! そんなこと言うなんて酷いなぁー寂しいなぁー! 一人ぼっちでこれから旅に出るの嫌だなぁ! うぅぅっ......うわぁぁぁん!」
「あっ......お兄ちゃんがおばあちゃん泣かした!」
「うーわ、女の子を泣かすなんて最低なご主人......」
「ふざけんなよクソババァ! こんな下手くそな嘘泣きがあるかよっ! 前田◯子だってもっとマシな演技するぞ!」
「うーわ、こんな可愛い女の子がエンエン泣いてるのに嘘泣き認定とか最っ低。ディアナさんと前田◯子に謝りなさい」
「お兄ちゃん、悪いことしたら謝るんだよ? おばぁちゃん大丈夫......?」
「うぅっ......優しいなぁ二人は。それに比べ━━」
三人は俺をまるでさっきの氷魔法のような冷たい目で睨みつける━━。
「え......なんで俺が悪いみたいになってるの? ババァの涙は俺が悪いの? ていうか相棒のお前までなんでそっちの味方なんだっ!」
「しょうがないじゃん。ディアナさんは日向の縁側みたいな落ち着く匂いするから......クンクン......」
「それただババァのマタタビフレーババァに懐いてるだけじゃねぇか! お前そういう所で無駄に猫なのな! 作者が紛失したキャラのブレを勝手に修正してくれるのな!」
くっそぉ......このパターンはこの後なんやかんやあって仲間になるという典型的なやつだ。
ヨルは今懐いちゃいるが俺の復讐の旅に人数は不要......ここは心を鬼にして━━。
「悪いなロリさん、嘘泣きしてるとこ悪いんだが今回は断「いいよディアナさん」」
「お前が先に答えるんじゃねぇっ!」
「本当に良いのか!? ありがとうなヨシオ!」
「良いよなんて言ってねーよ! それに俺はそんな名前じゃねぇ!」
「そうなのか? でもさっきはそう言っておったではないか?」
「そんなの偽名だよ偽名。俺の本当の名前は━━」
そうだ......冗談ばかりも言ってられねぇ、サトウタケルなんて本名乗ったら勇者パーティの”サトウ元メンバー”だとバレちまう。俺だとバレない上ユニオンに登録出来る且つ皮肉を込めた名前......そうだっ!
「俺の名前はシュガー・サンド。よろしく」
「シュガーサンド? なんか美味しそうで変な名前じゃな.....。まぁこれからよろしくな」
「じゃあ決まりで良いよねご主人? ディアナさんも一緒に行動しても」
「ちっ......しゃーねーなぁ、まぁこの人氷魔法使えるから冷蔵庫くらいにはなるだろうしな。じゃあしっかりついてこいよ真空チルド」
「......オヌシ一体ワシの事をなんだと思ってるんだ?」
なんやかんやいざこざを起こしながらも俺たちは
* * *
「ここがこの街のユニオン......」
俺たちの前に聳え立つのは煉瓦で造られた頑丈そうな赤色の建物だった。
屋根のテッペンにはこの街の象徴なのかライオンのような顔を模したマークが刺繍された旗が風でゆらめいている。
そしてその建物の中に入ると石畳でできた床に大きい広間待ち受け、木でできた長テーブルと椅子が幾つも並べられており、老若男女問わず大勢の人間がそのテーブルで食事をしたりクエストの会議をしていたりと様々だった。
また奥を見るとそれぞれの目的に応じた窓口がいくつもあり、受付の女性達はそれぞれの窓口で色々な人と対面しながら話をしていた━━。
「あそこで職の受付をしておる。受付にプロフィールカードを渡せばすぐに相談できるぞ」
「「......そんなカード持ってないです」」
「......はい?」
「なぁヨル、俺たちそんなカードどころか保険証もマイナンバーも無いもんな?」
「うん。何にもないよ」
「なんじゃと!? お、オヌシ達一体ここに何しに来たんじゃ!?」
「......生活費」
「なら尚更必要じゃろっ! なぜそれを今所持しておらぬ!?」
「その前に......そもそもそのカードってなんですか?」
「なっ......! それすらわからないとはオヌシ達一体何者なんじゃ!? まぁ良い、説明しよう━━」
ディアナさんから詳しい話を聞くとこの世界にはプロフィールカードというものが存在し、そこに自分の名前や年齢や能力などが記載されるとのこと。
まぁざっくり言えば元居た世界でいう戸籍のようなものらしい、そしてそれを持っていない俺たちは無戸籍のようなもので労働もろくに出来ないとのことだ。
俺にその知識が無かったのは転移者である事と勇者パーティに突然加入した事によりその申請がスキップされてしまっていたからだ━━。
「わかったか? というかオヌシ達よくそんな状態で今まで生きてこれたな......」
「まぁ生命力だけはありますからね。この通り上も
「ああ、分かったからそんな姿で堂々としないでくれ。周りの目が冷たくて困るんじゃ......」
いつも通りパンイチの俺には周囲の好奇の目が押し寄せ、ヨルはその可愛さから男達の視線を一気に集めていた━━。
『何あれ......服すら持ってないのかしら』
『変質者なんじゃない?』
『でも隣の獣人とちっちゃい子はかなり可愛いぞ。一体どういう事だ?』
『もしかして奴隷として引き連れてるのかな? 可哀想......』
『それかあの例のファミリーにあいつだけ何かやらかしたんじゃね? とにかくあんな変態とは関わらない方が良いって......』
周囲の奇異な目やヒソヒソ話がヨルは俺のトランクスを指でつまんで引っ張る。
「ご主人......」
「ああ......やることやってさっさとここを出よう。それで俺たちはどうやったらそのカードを手に入れられるんだ?」
「うーん。ワシが二人引き取る後見人として申請する手もあるが、申請完了までに時間が少々掛かるしなぁ......困ったなぁ......」
ディアナさんがその小さい手を頭に抱えて悩んでいると......。
「頼むっ! 助けてくれぇっ!」
「ですからそう言ったこは━━」
受付のお姉さんに何かを必死に訴える男性とその対応に困っている会話が広場中に響き渡る━━。
「......申し訳ございませんが軍の詰所には行かれたのですか?」
「言ったって何にもしちゃくれねぇよ! この街を仕切ってる”バーミンファミリー”には手も足もでねぇのはお前もわかってるだろ! ユナ!」
なんとかファミリーの名前を出して必死で訴える男に対し、周囲の反応は触らぬ神に祟り無しという感じでその男から徐々に遠ざかっていく━━。
『おいおいバーミンファミリーだって!? やばいなアイツ』
『あのファミリーか......そりゃダメだな』
『ああ......おそらく何かに巻き込まれたんだろうな』
『ていうかあの受付の子どこかで......』
そして周囲が遠ざかる中、その受付のお姉さんの顔が少し冷たくなる━━。
「その名前で呼ぶのはやめてください。今は仕事中なので」
「馬鹿野郎......俺はお前の為にヤツらから借金までしたってのに!」
「はい? 借金? 一体なんのことですか?」
「はぁ!? お前が独立して事業を始めたいっていうからこの街の土地と高級な馬車を手配したのにその言い方は無いだろ!」
「何言ってんの? そもそもあなたが勝手に私に貢いだんでしょ? これ以上営業を妨害すると出入禁止にしますよ?」
「くっ......このクソ女ぁ.....!」
おいおい痴情のもつれか? こういう話はどこの世界でも共通なんだな。
しかし男の話が本当ならあのお姉さん見かけによらず相当タチが悪い人だ......。
「なぁディアナさん、あの男が言ってた”バーミアンファミリー”てのはなんなんだ?」
「”バーミン”じゃよ、なんだその名前は。オヌシはそれも知らぬのか?」
「全然。そいつらはまとめサイトか何かで今話題になってるのか?」
「はい? バーミンファミリーはここ一帯を仕切っている
「へぇ〜、まるで警察や政治家と癒着してるヤクザみたいだな」
「ヤク......なんじゃそれは? とにかく奴らに関わらない事がこの街や国の暗黙のルールなんじゃ。奴らは依頼された事は何でもやるし盗みや脅迫、殺しまで躊躇せずこなす......その手口は軍の奴らよりもえげつないモノがあるほどじゃ━━」
王都にまで権力が行き届いてる......なるほどそいつは使えるかもな━━。
「だからオヌシもこの忠告はしっかり聞いておくのだ。もし何かあっても奴らには手を出すなよ? いくら強いとはいえ生身のオヌシ1人では......っておい! 何処へ行く!」
俺はディアナさんの忠告を無視し、受付の人に門前払いされて床にうずくまっている男に話しかけた━━。
「おにーさん、なんかお困り事ですか?」
「ああ俺はもうおしま......悪い、君の方が困ってそうだな。服ごと借金取りにはぎ取られたのか?」
「違いますよウシ◯マくんじゃないんだから......それよりあのお姉さんと一体何があったんですか?」
「......それは━━」
ガ ッ シ ャ ァ ァ ン ッ━━!
突如としてユニオン入口のドアが破壊され、ドアと備え付けられていた曇りガラスが床に散らばる。
その残骸をパキパキと踏みつけながらゆっくりと歩くヤツに人々は目を逸らし、ルイスと思われる男は俺の手を引っ張りながらテーブルの陰に隠れた。
「ルイスちゃ〜ん! ここにいるのはわかってんだぞ〜? 隠れてないで出てこ〜い」
「奴らこんなところまで.......! すまん、こっちに来てくれ!」
「え? なっ、ちょっ!」
「ルイスキャンベル〜! 出てこないとも〜っと痛い目に遭うよ〜? それともし、ルイスくんを庇うヤツがいたらオイコット湾にそいつも沈めちゃうよ〜?」
ドアを簡単い俳諧したそいつはニヤニヤとしながら俺の腕を引っ張って物陰に隠れた男を探し始める。
「お兄さん! アイツらに一体いくら借金したんですか!?」
「たくさんだよ......。頼む裸のあんちゃん、初対面で悪いがアイツから俺の身を守ってくれ! ここから俺を逃がしてくれればいくらでも頼みを聞いてや━━」
サ゛シ ュ ッ━━!
「う゛こ゛ぁ.......」
「みーっけ」
ト゛サ ッ━━!
「お兄さん......!」
お兄さんは背後から胸に鎌のようなものをグッサリと刺され、地面に叩き落とされた。
「さーて仕事完了っと。あとは死体を回収したあとパーツにして売り飛ばすかぁ〜」
お兄さんを刺したそいつはその場を後にして受付の例のお姉さんの所へ向かう━━。
「やぁユナ。君に纏わりついていた”ウォレット”はこの通り始末したよ」
「ふふ、ありがとうジャッカル。しかし本当に使えない男だったわ、こいつ金も容姿も並以下のくせに私に本気になって......キモいったらありゃしない」
「まぁそういうなって。お前に貢がせる為にファミリーに借金させて金を返し続けさせる、そして返済が近くなってお前に言い寄ってきたらそいつを殺して臓器を闇に売る。最高のビジネスだよ、人の恋愛感情ほど儲かるモノは無いね。しかしユナも悪い女だ」
「あんなの騙される方が悪いのよ。それに私が愛してるのはあなただけ━━」
「ふっ、やはりお前をユニオンに働かせて正解だったな。おいみんな聞いてるか!? 今度俺の婚約者であるユナに手を出したらこのクズ男のように始末するからな?」
男がみんなに向けて語気を荒げる中、刺されたい兄さんは傷口から大量の血が流れ出し徐々に呼吸が弱くなる━━。
「ぅぅ......く......そぉ......! やっぱりアイツらグルだったのか......!」
「お兄さん静かに! 今すぐ医者を呼ぶから! ディアナさん、氷魔法で傷口を凍結させて!」
「分かった!」
「いや......どうせこの傷じゃ俺は助からない......やめてくれ......」
男は血まみれの手で俺の腕を握りしめながら別の場所に隠れているディアナさんに声を掛ける俺を静止する。
確かにこの血の量じゃ回復魔法を使ったところで焼石に水だ。
それに傷を見る限り心臓を一突きされている、このままじゃあと3分も持たないだろう。
なら今の俺にできることは━━。
「とにかく彼に氷魔法を施してくれ。それとお兄さん、アイツらが話してたことは本当なの?」
「ああ......完全に騙されたよ......聞いての通り俺はあの子に貢いでたんだ。自分の持っていた馬車や土地、家宝まで投げ打って墓で眠る親父達にまで報告してさ。でも薄々分かってた、あんな可愛い子がって分かってたけど悔しい......! 人の弱みに漬け込みやがって......アイツら全員許せねぇ......!」
「......じゃあ俺がその仇を取ってやろうか?」
「な......何言ってんだアンタ......」
「さっき言いかけた頼みを守れなかったからさ......それくらいやってやるよ」
「やめとけ......アイツらを敵に回すと地獄の底まで追いかけ回される......」
「大丈夫、鬼ごっこは慣れてるさ。それに逃げ回る事になるのはアイツらの方だ━━」
「ふふ......あり......がとう......頼むよ......」
「オヌシ......本当にやる気か!?」
俺はダラリと力なく眠ったお兄さんを優しく床に置き、その場から立ち上がる━━。
「まてっ、待つんじゃシュガー!」
「よぉアンタ、人を殺すほど怒り狂ってどうした? まさか大の大人がプッチンプ◯ン出荷停止のショックで八つ当たりしてるんじゃないだろうな?」
「あ? なんだアンタぁ〜、邪魔するならお前も跡形もなく消すぞ?」
「おいおい、まさかパンピーの俺を真っ赤なカラメルにしようってのかい? そういう可愛い脅しはポッケの中にでもしまっておくんだな」
「何あの男、めっちゃキモいんですけど。裸とか意味わかんないしただの変態ぢゃん」
「褒め言葉ありがとう、お礼に愛液で浸ってるその頭にプロフィールカードをブッ差して噴水ショーにしてやるよ。もしかしたらその腐った頭から綺麗な虹が掛かるかもな。それと”じ”を”ぢ”に変換しない方が良いぞ? バカがバレる」
「な、何ですって!」
「ふん、生意気なヤツだなぁ〜人の婚約者を馬鹿にするとはね。ファミリーの名において確実にお前をこの手で殺してやる」
「怖〜い。まぁその手がそれまで存在していればの話だけどな......今のうちに彼女の乳を牧◯しぼりしといた方がいいぞ
「彼奴め......ワシが忠告したばっかりなのに.....! 一体オヌシの主人は何を考えておるんじゃ!?」
「はぁ......あの顔は悪いことしか考えてないと思う」
「それは更にまずいぞ......バーミンファミリーの中でもあの者にだけは絶対手を出してはいけないんじゃ━━!」
* * *
作者より。
近況ノートにも書きましたが体調不良で入院しているため更新が遅れました。
申し訳ありませんm(__)m
左腕に銃を移植するか、サイボーグになるまで今後も更新が不定期になりますがよろしくお願いします。
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