第20話 騎士団長ディアナの正体
「ちょっ、突然大きい声出してどうしたんですか?」
「すまん、初対面で申し訳ないんだが......オヌシ達に一つ頼みがある」
「「頼み?」」
「私とこれから私の家族の安否確認に同行して欲しい。頼む......この通りだ!」
そういえば国王がこの人の家族を人質にしたとか言っていたな......王が死んだとはいえ手下がまだ家族の元に居るとすれば危険かも知れない━━。
「わかっ「良いですよディアナさん」」
「ちょっと待て。ヨルちゃんは何故リーダーの俺を差し置いて勝手に答えてんのかなぁ?」
「どうせご主人も同じ答えだったんだから良いでしょ? そもそもご主人はリーダーじゃないし、そんな恥ずかしい姿の人をリーダーにしたくないもーん」
「うるせぇ! どうせ俺は恥ずかしい人間だよ! 女にもモテない陰キャさ!」
「あ、認めた......」
「ったく......とりあえずいつまでもこんな所にいられないからそろそろ行くぞ。それじゃあディアナさん案内をお願いします」
彼方へとぶっ飛ばした王様は肉片になって簡単に身元は割れないと思うが山を破壊した件と繋がってニュースになるのは時間の問題だろう。
となればこんな場所からはさっさとおさらばした方が賢明だ━━。
「ありがとう......先程まで命を狙っていたというのにすまない」
「命を狙われるのは慣れてるんで大丈夫ですよ。今までの生活に比べたらこの程度━━」
「......何か事情があったようだな」
「まぁ......。そういえば王様の城の使用人とかはどうしたんですか?」
俺はこの領内の生存者が居るかどうか気になっていた。
確かに王の配下たちは全員殺したが、城で働いている筈のメイドさん達の姿を一回も見ていない......もし俺の所業を何処かで見ていたらその時は策を練らないといけないからな━━。
「その件なら大丈夫だ、最初にオヌシが壁を崩壊させた時に私が彼女達を逃してある。彼女達は非戦闘員だから襲撃者との戦いに巻き込むわけにはいかなかったからな」
「それは良かった。でも彼らには悪い事をしちゃいましたね、ここが更地になったせいで仕事を奪う形になっちゃって......」
「それも大丈夫だ、彼らは使用人の労働組合が形成されているからユニオンに行けばすぐに他の街の貴族や王族達の使用人になれる。だから主人が誰かなんてどうでも良いのだよ。それにこの国王の下で働いていたメイド達は皆セクハラや嫌がらせを受けいた所為で王に心底嫌気が差していたんでな......私はその件でよく相談に乗っていたし、王が死んだと知れば逆に精々すると思うぞ」
「なるほど......」
いやいやどんだけ嫌われてたんだよアイツ......。
まぁ何はともあれ俺の姿を見られてなかったのは運が良かった。
あの時ノックで門を破壊しておいて正解だったぜ━━。
「じゃあ二人とも準備はいいか?」
「あっ......その前に一仕事して良いですか?」
「ん? 何かやり残したことでもあ━━」
ト゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ━━!
「えっ......」
ガコンガコンガコンッ!
「よしよし。後はこれをこうしてっと......」
「あ......相変わらずの馬鹿力だなオヌシ......。しかし一体何をやっているんだ?」
「ヒヒッ......まぁ色々とコッチにも事情がありましてね━━」
俺達は領地を出てナディアさんと共に街道を歩き出す。
「それで.....ご家族が居る場所はどの辺りなんですか?」
「この街道をあと半刻ほど歩いてまっすぐ行った場所に《オルヴォシュ》という街があるんだが、そこに住んでいる━━」
「オルヴォシュ......俺達ここら辺の土地に来た事が無いから分からないなぁ」
勇者とあの魔人にすっ飛ばされた所為もあるが、そもそも地図を持っていないので今自分たちがこの世界の何処に居るのかという事自体全くわからないのだ━━。
「ほう......ではオヌシ達は一体何処からやってきたのだ? ヨルちゃんはさておきオヌシは私の.......じゃなかった、日ノ国の人々によく似た容姿をしているが━━」
「.......まぁそんな所です。こっちのヨルは昔から俺が飼っ......」
「ん?」
「か......家族なんですよ唯一の。まぁ種族は違いますけどね」
危ねぇ......この姿のヨルを”飼ってる”なんて聞かれたらあの王様以下の所業をしていると思われる所だった......!
「そうか、だからか。2人は何というか......表面では歪み合ってるけど心の奥では互いに信頼しているのが伝わってくる。特にヨルちゃんの方は━━」
「ちょっ......! 誰がこんな変態の事......ていうかさっさと服着てよご主人! そんなんじゃ次の街で最初に向かうのは収容所だからね!」
「分かってるよ! でも仕方ねーだろ? 俺は身体こそ丈夫にだが衣類はそれについて来れないんだから!」
「言い訳はパンツでも履いてから言ってよ。村の人に私が追加で貰っておいたからさっさと履いて、それとタオルもね」
「マジか! さすが気が利く猫娘パイセンだな。じゃあ早速......」
ヨルがそそくさと出してくれたトランクスをいそいそと履き、タオルは走り終えた駅伝の選手みたいに肩に羽織って俺達は再び歩き出した━━。
「......オヌシはそんな格好でこれまでこの世界をどうやって生き抜いてきたのだ━━?」
* * *
歩き続けること半刻、街の入り口に聳え立つ赤いレンガで造られた門を潜り向けるとそこには色々な模様に彩られた石畳の道路、そして赤土色のレンガで建てられた様々な建物が規則正しく並ぶオシャレな風景が目の前に現れた。
勇者との旅でも見たことのない程その綺麗な街並みには風景にあまり興味のない俺でも少しテンションが上がるものだった━━。
「さぁついたぞ、ここが《オルヴォシュ》だ」
「おいおいおいっ! コレだよコレ! こういう景色を待ってたんだよぉ! 今からイン◯タにセルフィでもアップしよーぜヨル!」
「イ◯スタどころかスマホが無いから無理じゃんご主人」
「くそったれぇぇっ! もうおウチ帰りたいよぉ......! タップ◯も無ければZOZ◯も無い、DLS◯teすら無いなんてやっぱり不便すぎるだろこの世界っ! マジでみんな何を楽しみに生きてんの!? なんも出来ないじゃん!」
「おいおい、楽しみはあるぞ? 魔映機で映画を楽しんだり、馬上槍試合やゲームボール、コルフやハンティングなんかを皆が楽しんでおる。オヌシも一度やってみるが良い」
「そういうことじゃなくてですねぇ、俺はポ◯ノハブやF◯2のライブ配信で楽しみたいんですよ!」
「ずっと何言ってんのご主人......」
「ん? そのポル◯ハブとやらはそんなに楽しいのか? ワシも一度やってみようかな。どういうものか是非教えてくれ!!」
その時に俺は自分の発言が失言だったと心から後悔した━━。
「そ.......それは貴女が言うと意味合い変わってくるから勘弁してください。それにその幼い見た目的にも完全にアウトです......」
「なんじゃと! こっちが我慢して聞いてればさっきから幼いだのロリっ子だの言いおって......! こう見えても私はオヌシより年上なんだぞ!」
「いやいや見た目小学生なのに何言ってんすか。証拠も無いのにそんなの信じられるわけないですから。ははは」
俺の乾いた笑いにディアナは顔を真っ赤にしてその場で地団駄を踏む━━。
「馬鹿にしおってぇぇぇっ! よかろう、では今から証拠を見せてやる! ついてこい!」
そう言って案内されたのは小さな診療所だった。
中には老若男女問わず様々な患者がおり、その中から女性の看護師と思われる人がやってきた━━。
「こんにちはディアナさん、面会ですか?」
「ああ、それより王の配下の者は来なかったか?」
「はて? 誰も来ていませんけど......どうかしました?」
「そうかぁ! どうやら間者の件は王のハッタリだったようじゃな。良かったぁ......!」
ディアナさんが胸を撫で下ろすと看護師は俺の方を見て小悪魔のようなニヤリとした笑みを浮かべた。
「それよりも後ろの方は? そのお姿......もしや泌尿器科をご希望ですか?」
「違いますよ! ていうかこの見た目だけでそれを判断します!? 俺は風俗終わりのおっさんじゃないんですよ!」
「そうでしたか、それは失礼しました。でもまあ見るからに小さそうですし......もし大きくしたいなら隣町にある美容整形外科をお勧めします」
「......ヨル、この人病院送りにしていい?」
「もうココ病院だから......それと恥ずかしいからもうやめて」
「ふふっ......冗談ですよパンイチ様。ディアナさんもこのような方が初めての連れ添いなんて楽しそうですね」
「誰がパンイチ様だコラっ!」
「ふふっ......じゃあみんなこっちだ━━」
俺達は診療所内の廊下を進み一つの部屋にたどり着く。
そしてディアナさんがその扉を開けると中にはベッドに横たわってガラス窓から外の街並みを眺めている幼い女の子がコチラに振り向いた━━。
「あ......来てくれたんだね」
「もちろん来くるとも《ラディア》。お前の顔を見るのが唯一の楽しみじゃからな! 今日は友達も連れてきたぞ」
ディアナさんの言葉遣いが少しだけ俺達の時と違うのが分かり、この人が本当に心を打ち解けている家族なんだと伝わってくる。
そしてそんなディアナさんの返答に対し、真っ白な肌をしたその幼い女の子は弱々しい表情の中にも嬉しそうな笑顔を浮かべた━━。
「そっかぁ.......こんな病気で動けない私なんかのためにお見舞いに来てくれて本当に嬉しい。それと......後ろのお友達の人も来てくれてありがとう」
「いやいや、これくらいお安い御用さ。ねぇディアナさん」
「そうさ、ラディアの為なら何だってしてやるぞ? それこそ魔人だって魔王だって悪い奴はぜーんぶ倒してやる!
ディアナさんがマッチョのポーズをしながら振る舞うニコニコの笑顔にラディアちゃんも口元に手を当てながら嬉しそうに笑っている。
この2人はこんな形でお互いを想い合って生きてきたのなのかな? そう考えるとあのクソみたいな王に好き勝手されなくて本当に良かった。
しかし......こういう姉妹愛っていうのも兄弟が居ない俺から見ると少し羨ましい気分になるな━━。
「ふふふっ、いつも面白い話をありがとうね......
ディアナおばあちゃん━━!」
「「......え?」」
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