第19話 ふざけた奴ほど怒ると怖い


「お......オヌシ何故......」


「ぐぉ......か......身体が......ゔぉぇぇぇっ......」



 国王ハゲは口から血反吐を出しながら朦朧とした意識で口を開き、偉そうな配下や涙を流しているロリっ子は突然の光景に唖然としていた━━。



「おや、まだ喋れるとは......その腹回りに付いた"エアバッグ"は余程性能が良いのか? お前を車のハンドルに捩じ込めばTAK◯TAは経営破綻せずに済んだかもしれないな」


「き......貴様ぁ! 国王様に向かってこんな事をして良いと思っているのか!」


「王都に報告して貴様は処刑だっ! 兵達よ、コイツをひっ捕えろ!」


「ぐっ......配下ども......捕えるな......コイツを殺せぇぇっ......!」


「「「はっ!」」」



 総勢100名ほどの兵士たちは得体の知れない力を持つ俺に少し躊躇しながらそれぞれ持つ武器を構える━━。



「おいおい全裸の男一人に大勢で向かってくるなんて兵士様ってのはヤンキーが乗ってる軽自動車の車高よりプライドが低いんだな。一平民としてお恥ずかしい限りだよ」


「なんだと! みんなコイツを徹底的に痛めつけてやるぞ! 容赦はするな!」


「ああ! いくら強いとはいえこんな奴俺たち全員でかかれば嬲り放題だ!」


「さっきから意味不明な言葉で馬鹿にしやがってぇ......二度と生意気な口を聞けないようぶっ殺してやる!」



 俺と兵士達が臨戦体勢に入るとそれを見たディアナは顔を上げ、必死の表情で叫んだ━━。



「待ってくれ! こんな私の為にオヌシが犠牲になる必要は無い! 私さえ我慢すれば解決するんだ......だから兵士たちよ、これ以上手を出さないでくれ......!」


「そうやって自分を犠牲にしたら本当に解決すると思ってるのか? 昔の俺と同じで考えが甘いよ」


「っ......!」


「良いか? こんな奴らにアンタが媚を売る必要も犠牲になる必要も全く無い。それにアンタも俺も犠牲にならずに平和且つ最も簡単に解決する方法が一つだけある━━」


「なっ、何だそれは......!」


「おいおいそんな事も分かんないのか? ヌルいねぇ......実にヌルい。アンタ仮にも騎士団の団長なんだろ? 命というモノと本気で向き合ってるのか?」


「なにっ......!」


「教えてやるよ。この状況での1番の解決法、それは......


 





 ここにいる俺達以外の全員を始末する事だよ━━」



*      *     *


「なっ!」


「き......貴様ぁ! そんな事がこの世界で許されるとでも思っているのか!」


「なんで? 今この状況を知ってるのはヨルとディアナさん、そして兵を含めたお前ら王族関係者だけだ。それと俺が見る限りココを監視している魔像機はこの領地以外に配信されていない......つまり目撃者であるお前らを全員殺せば全てが丸く収まるってワケだ」


「ふん......何を偉そうに。仮にそうだとしてもこの人数を相手にお前一人で始末出来るわけないだろうが!」


「この人数って......高々100人程度だろう? ゴミをいくら掻き集めた所で唯のゴミ山だ。断言してやるよ......お前らはここで俺に一撃も掠められず全員畑の肥料になる━━」


「なんだとっ! 俺たちは平民や貴様のような変態がのほほんとしている間に訓練をしてきたんだ!」


「そう思うんならさっさとデカい一発を俺に仕掛けてこいよ。その方が駆除の手間が省ける━━」


「「「くそがぁぁぁぁっ! 死ねぇぇぇぇっ!」」」



 兵士たちは物凄い剣幕で全員一斉に襲いかかる。 

 ある兵士は魔法を自分の武器に乗せて攻撃し、またある兵士は武器だけで素早い攻撃を仕掛けてくる者も居た━━。


 だがそれらの攻撃全てを目に捉え避け切った俺は宣言通り掠めることすらさせず、奴らが外した攻撃は地面や建物をボコボコにするだけだった......。



「くそぉっ! 何故我々の攻撃が当たらないんだ! アイツの目は全身についているのか!?」


「碌に魔法も使っていない人間に傷一つつけられないなんて......一体どうなってやがる!」


「貴様ら一体何をしている......! 王である我を守るのが仕事だろうが.......! こんなガキ相手に何を手こずっているんだ......! くっ......」



 兵士達やボロボロの国王は俺に対して明らかに苛ついていた━━。



「あれ程の数の攻撃を全て簡単に避けるなんてこの目で見た物が信じられん......。彼奴あやつは一体どうなってるんだ?」


「ディアナさん、恐らくこれは全てご主人の狙い通りです」


「それは......どういう意味なんだ?」


「あの人はああやって敢えて挑発をしてるんですよ、そうすれば敵は思考する事を捨てて単調で分かりやすい攻撃を仕掛けるようになる。その上ご主人は『デカい一発でも当ててみろ』と挑発するもんだからみんなこぞって大技を当てよう考えるんです。大技というのは大抵大振りな技だから避けるのも容易くなるんですよ、そうやって敵の心理に隙を作っていくんです━━」


「なるほど......彼奴なりに考えていたというわけか。しかしあの人数を殺すと宣言するとは......あの者達は国王に選ばれし精鋭なんだぞ? いくら彼でもそんな事......」


「大丈夫ですよ。昨日から失踪した王都の騎士団を全員残らず行方不明にしたのは何を隠そう━━」


「っ......! まさか!」


「お喋りがすぎるぞヨル。それと少し離れててくれ......」


「なら解決するまで私はディアナさんの手当てを。それと......仕方ないから応援してあげる......」


「ああ、ありがとう。その人を頼んだぞ」



 ヨルとディアナが建物の影に隠れたのを確認し、俺は最後に襲い掛かった一人の兵士の前に立つ━━。



「俺がお前を殺して手柄を立ててやる━━! 死ねぇぇ!」


「手柄ねぇ、果たしてそう上手くいくかな?」



 フッ.......。



「き......消えたっ!」



 カ゛シ ィ ッ━━!



「ぐぉっ......!」



 俺は瞬時に兵士の背後へ回り腕を使って首を絞め、人質を取るような体勢に入る。



「くっ......貴様ぁ! 何をするつもりだ!」


「アンタにはこのままハンドボールになって貰う。じゃあな兵士さん......」



 メ キ メ キ ッ━━!



「ク゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!」



 俺の腕はヤツの首に入り込んで圧迫して悲鳴を上げた直後に酸欠状態となって気絶したが、俺はその後も締め続ける━━。



「っ......」


「やめろっ! もう意識を失っているではないか! その者を離せぇっ!」


「いやいや、これからが本番だよ━━」



 ハ゛キ ッ━━!



「うっ......」



 俺は更に兵士の首を絞め続け首の骨も折り、ブラブラになった兵士の頭を鷲掴みにし━━、



 サ゛フ゛シ゛ュ゛ッ ッ━━!



「ひっ......!」



 軽く手を捻ると残酷な音と共に兵士の首は完全に身体と分離し、首の付け根から血が吹き出した━━。



「そんな......」


「な......何て力だ......! あんな事を簡単にやるなんて......」


「コイツ......正真正銘ホンモノのバケモンだ......!」



 俺の所業と血まみれ全裸の姿に兵士達は後退りをしながら各々狼狽える。



「はははっ、一国を守る兵士様が魔物でもない全裸の男相手にビビってんのか? じゃあなお前ら......国王が残骸になるライブ配信をあの世から見てろ━━!」



 ハ゛シ ュ ゥ ッ━━!



 俺はその首を思いっきり他の兵士達に向かって文字通りハンドボールのゴールを決めるようにブン投げた。



「うあああああああっ!」



 ト゛ス ッ......、



「き゛ぇ っ......」


「う き゛ゃ っ......!」



 ス゛ト゛ト゛ト゛ト゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン ━━!



 俺が投げた兵士の頭部ハンドボールは音速を優に超えるスピードで炎を上げながら兵士の一人を捉え、その兵士が爆散した破片がそのまた次の兵士を捉えて爆散しそのまた兵士を......という繰り返しが起きて兵士や配下達は王を残して一人残らず破片となり、辺りは肉が焼け焦げた臭いとその肉片によって崩壊した建物の土埃が立ち込めた━━。



「ふふっ......彼奴はやはり人間ではないな。あれはまさに神に愛されし力だ━━」



*      *      *



「そ......そんなバカな......我が国の兵士が一瞬で......」


「だから言ったろ、畑の肥料になるって。野焼きも済んだしこれから良い野菜が育つぞ国王様━━」


「ヒィッ......!」



 国王は血塗れの全裸で近づく俺を見て全身骨折した身体をズルズルと後退りしながら防護壁にもたれ掛かる━━。



「く......くるなぁ......!」


「何ビビってんだ? たった今お前を慕う兵士が一人残らず惨めに殺されたんだ。であれば一国の王としてその殺人鬼に立ち向かうのがアンタのあるべき姿なんじゃないのか?」


「知らん......我は知らん......!」


「ホント救いようのないバカだな。アンタについてるその口はどうやらその醜い身体をブクブクとブタにさせる為だけについているのか?」


「この無礼者がぁっ......! 国王である我に対しこのような仕打ち......貴様の狼藉は我だけではなく王都、いや勇者にまで知れ渡━━」



 カ゛シ ィ ッ━━!



「ふぐぅっ......!」


「ホントよく回る口だな......お前は国王よりコールセンターに向いてるよ。しかしその狼藉とやらはこれから死にゆくお前が勇者様・・・に一体どう伝えるんだ......?」


「っ......!」


「よく見てみろよ、今この状況で伝えられる人間なんか誰もいないぞ? さてどうやって殺そうか......口から裂いて顔を真っ二つにするか? それとも腸と心臓を抉り出してどっかの万博のキャラみたいなダサいオブジェにするか......」


「頼む......こ......殺さないでくれ......! ディアナ......助早く我を助けろ......!」


「くっ......ははは、さっき奴隷にしようとしてた事も忘れてソイツに助けを求めるとは最後の最後まで笑わせてくれる。言ったそばから過去の発言を忘れるとかアンタはどっかの都に立候補した二重国籍の政治家かよ。コレだから陰で王族は『東○医学部は頭悪ぃぃっ!』ミエルダ国王は頭悪いぃっ!とか電車内で叫ばれるんだよ」



 俺はヤツの首根っこを更に締め付ける━━。



「ぐ......くるじぃ......死んでしまう......!」


「お前村人が攫われた件も自分のエゴでシカトし続けて豪華な晩飯を食ってる間、とある村人は魔人に好き勝手されてその日の晩飯になってたよ。妻を人質に取られた夫はやりたくもない屈辱的な事を嫌という程やらされてたよ。そんな悲惨な事もそのハゲ頭で想像出来なかったか......? 出来なかったんだよなぁ......!」



 俺は拳を握りしめて殴りかかる体勢に入る━━。



「っ...... やめろ......やめてくれ......我が悪か......ぐっ......!」


「お前はこれまでの人生で震えるほどの屈辱を味わったことがあるか......? 人の痛みを理解しないお前に俺が痛みをねじ込んでやる。恐怖を知らないお前に俺が恐怖を植え付けてやる。人を失う悲しみを知らないお前に、苦しみを知らないお前に......







 俺が絶望のドン底にお前を引き摺り下ろしてやる━━!」



「や゛め゛ろ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛っ━━!」



 ト゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ━━!



 国王ハゲに放ったパンチは殴られた国王によって防護壁を簡単に突破し、遠くの山々を貫通して彼方へと消えた。

 そして防護壁はその衝撃で砂のように崩れ、国王の住んでいた場所は無駄に豪華な城だけを残し他は全て更地となった━━。



「国ってのは多くの人が存在して初めて国として成り立つんだよ。そんなことも分からずにテメーのメンツやエゴだけで人の苦しみを聞き入れず、頑張ってるロリに手を出して私腹を肥やしながらふん反り返ってるバカは国王でもなんでもないただのゴミだ。死んで償え━━」


「お......オヌシ......」


「さぁて、職を見つけに近くの街まで歩くとしようぜヨル。転移した主人公が無職なんて聞いた事ないし何よりカッコ悪いもんな......」


「うん、確かにカッコ悪い。ニートが私のご主人なんて死んだ方がマシ......」


「仕方ねぇだろ!? 俺は薬屋とか食堂開いて繁盛出来る便利なチートスキルなんざ持ってないし、ハーレムを簡単に作れる程の容姿どころか下着すら装備出来ない呪われた身体なんだぞ! こうやって生きてるだけでも奇跡なんだ!」


「裸......カッコ悪いよ」


「いじめ......カッコ悪いよ、みたいに言うな。泥酔してタクシー運転手に暴行前園○聖するぞ」


「はいはい分かりました、もう行こうよご主人」


「はぁ......来世は可愛いダンジョン配信者に囲まれて人生謳歌するマネージャーとかに転生したいなぁ。小説みたいなウハウハな人生を一度でいいから歩んでみたいよ、ていうかこの世界にダンジョンとかってあるのかな!? あるなら行ってみようぜっ!」


「行ってなにするの?」


「配信者をナンパする」


「ふーん。じゃあそのダンジョンをご主人の古墳にしてあげるね」


「えっ......」



 ヨルとくだらない言い争いをしながら俺たちは領地の外へ歩き出した━━。



「二人とも少し待ってくれっ━━!」

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