第16話 猫は怖い
「おっ......みんなっー! ヤツ村くんが帰ってきたぞ!」
「本当か!! 村の外ですげー音したけどアンタ無事だったんだな!?」
「もちろん! 副団長はこの通りなんでも言う事聞くようになったから大丈夫さ」
俺が草木で作ったリードでパンイチの副団長を犬みたいに引きずりながら村へと戻ってきた。
そして四つん這いの副団長は村人を見ても涎を垂らすだけで目の焦点が完全に合っていない━━。
「あ.....あぅ......あ......」
『『『いや......全然大丈夫じゃないと思うんだけどコレ......!』』』
「あ......アンタその人は仮にも副団長だぞ......? なんでもっていうか......もう何も出来そうにねーよその人」
「大丈夫大丈夫、パブロフの犬方式でこの村を襲えば痛い目見るってこの犬は学んだからさ。ほらお手」
「あ......」
ビクビクッ......。
「おい......お手ぇっ!」
言うことを聞かない副団長の耳に俺は顔を近づける━━。
「おい? 犬以下のお前が何生意気にまだプライドなんざ持ってんだ? もしかして可愛い可愛い部下のように粉洗剤になりたいのかお前は......?」
「ひっ......」
ペシっ......。
「おーよしよし。ね? 大丈夫でしょ?」
『『『助けてもらっておいてアレだけど......コイツ外道過ぎるだろ......』』』
「あ、ああ......そうみたいだな。まぁ何はともあれ追い払ってくれて助かったよ、それで他に引き連れてた騎士団はどうしたんだ?」
「ああ......あの人達なら無事に
「そ......そうか
「うん。それよりコイツどうする? 文句言えないように調教しておいたけど......とりあえず手始めに木に縛りつけてみんなで石でも投げとく?」
「う......うぅっ......っ......!」
俺がそう言うと
「いやぁ......俺達はまぁ大丈夫だ。アンタがそこまでやってくれたならもう気は済んでるよ......」
「そう......じゃあコイツは明日国王の所へ連れてくからそれまでその辺のフェンスにこのリードを引っ掛けておいてね。俺とヨルは明日に備えて寝るとするよ」
「えっ? ああ......分かった。案内するからこっちにきてくれ」
俺とヨルは金髪の男に案内されて部屋にやってきた。
中にはベッド用のマットが床に敷かれており、その横には何故かヨルの分だけであろうモフモフの生地にフードがついた黒いパジャマ、そして同じ生地のショートパンツが綺麗に畳まれて置かれていた。
「なぁ、いっつもヨルだけちゃんとした服を用意されているよな。それに引き換え俺の方は......」
布団の横に適当に置かれたワインレッドのトランクス1枚だけだった━━。
「なんなんだよこの差は! アイツら俺に服を着せたら死ぬ呪いでも掛けられてんのか!? ここまで来たらもう確信犯だろうが! 異世界ってそんな部分で躓く場所なの!? もう帰りたいよチクショウ!」
「まぁまぁ良いじゃんご主人......赤いパンツ似合ってるよ」
「うるせぇっ! お前は良いよなぁ!? そんな暖かそうな服用意してもらってさ! つーかなにその生地! 男が彼女に着て欲しい可愛いパジャマ第3位の奴じゃんそれ! 絶対誰かの趣味を兼ねて楽○の通販で注文しただろっ!」
「さぁ......? じゃあ私着替えるから少しの間向こう向いてて。こっち見ないでね」
「ふん! みねーよそんなのっ! ったく......」
ヨルが着ていた服を脱ぎ始めたので俺は意地の気持ち半分と恥ずかしさ半分でスッと目を逸らす━━。
「......見ないんだ......」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもない......あっち向いてて......!」
「ちぇっ......じゃあ俺は先に寝るからな。おやすみ━━」
* * *
真夜中━━。
『なんだコレ......!』
ふと気がつくと澄み渡るほど青い空に広がる花畑に何故か来ていた俺は、突如として黒いスライムのような生き物に襲われて身動きが取れないでいた━━。
『くそっ......! なんだコイツ......!』
身体が重たい......! さっきあんな力を発揮できた俺もスライム相手じゃこの程度かよっ!
俺はなんとかしてスライムから逃げようとするが、ヤツは顔にまで侵食してきて段々と息が苦しくなってきた━━。
『......力が入らねぇ! ダメだ......このままじゃ俺は━━!』
遂に息が出来なくなり窒息死という言葉が頭をよぎったその瞬間......。
「.......っ!」
俺は悪夢から解放されてなんとか目を開ける事が出来た━━。
『ゆ......夢か......。でも......』
俺はホっと一安心するが顔に息苦しさがあるのは夢から覚めても変わらず、それどころか締め付けは更にキツくなる━━。
『ぐるじぃ......! 何かが......俺の上に......!』
暗闇の中で俺を締め付けるものを見ようと目を凝らすと、窓の隙間から淡く照らされる月明かりに反射する白い肌とフワフワとした触り心地の黒いパジャマとパジャマの襟から見えるIの字の黒い隙間、そして俺の顔の形にぷにゅっと潰れた二つの柔らかい山だった━━。
『コレってまさか......!』
「ごしゅじぃぃんっ♡ やっとこうする事ができたぁ.......♡ ぎゅぅぅぅぅっっ♡」
いつもじゃ絶対に聞くことのない甘ったるい声を出しているのは紛れもなく俺の
* * *
『コイツ自分の布団からわざわざこっちにやってきたのか!? 一体なんのために!?』
「いつもごめんねぇ......ほんとはごしゅじんの事、だいだいだーい好きなのにごしゅじんの綺麗な目を見るとヨルは素直になれないの......。でも今は寝てるからいっぱいいっぱい甘えても良いよね......? 大好きだよごしゅじん......♡」
き゛ゆ゛ゅ゛ゅ゛ゅ゛う っ━━!
『なっ......! こ......コイツ一体どうしたんだっ! まさかToL○VEるでも読んだんか!?』
目を薄目にしてヨルの表情を見ると目が完全に蕩けていて息遣いは荒く、ヨルの胸の鼓動が激しくなっている音を俺の耳はハッキリ捉えていた━━。
「はぁ......♡ はぁ.......♡ ごしゅじんがいけないんだよ? そんな無防備な姿でヨルと一緒に居るから......ヨルおかしくなっちゃった......♡」
『確かにおかしいよ! コイツマタタビでもキメてんのか!? この物語にはセンシティブな要素を含んでいるとはいえそれくらいにしておかないと
しかし俺の心配とは裏腹に、ヨルは俺が目を覚ましている事を全く気が付かずに俺の顔面を強く抱きしめる。
そしてその状況に少し満足したのか一旦身体を離して自分の顔を俺の胸の位置までズリズリと下がり、ヨルは俺の胸に顔を埋めた━━。
「はぁぁぁっ♡ とってもいい匂い......♡ 見た目は細いのに逞しい身体が素敵......。いつも守ってくれるごしゅじんカッコいいよ♡ ごしゅじんがあの女に惚れてたのは殺したい程ムカついたけど今はヨル
顔をスリスリと俺の胸に擦り付けるたびにヨルの柔らかい黒髪とモフモフした耳がピコピコと胸に当たっている所為で
『やばいやばい! このままじゃ俺の股間がセンシティブになる......! だがここでもし俺が起きてるとバレたらコイツに何されるか分からねぇぇっ! 落ち着け......落ち着くんだ俺の
「あれ......? ごしゅじんなんか汗っぽくなってきた? もしかしてヨルのせいで暑いのかな? それともぉ......」
ヨルの細い指が俺の胸から下腹部へとゆっくり移動して大事なところに近づいてゆく━━。
「ふふ......そっかそっか♡ ごしゅじんが寝てる間も苦しいのならヨルが楽にしてあげないとダメだよね......? 可愛い......♡」
サワサワッ......。
「だあああああああああっ━━!!」
ヒ゛ク゛ン゛ッ━━!
「わ゛わ゛わ゛わ゛わ゛っ......なななななにっ!」
俺の突然の叫び声に背中をブリッジするように反らせながらビクリと吹っ飛んだヨルは、すぐさま自分の布団に戻り顔を真っ赤にして俺を睨みつけていた。
アイツ今の行動を俺が知っていたとすれば、素直じゃないアイツはこの先まともに口を聞いてくれなくなりそうだな......ここはなんとかして誤魔化すしかないっ!
「あ......ああースゲー怖ぇぇ夢見たわーでも夢でよかったー。ってヨル......どうした......?」
顔を赤くしながら冷や汗をダラダラと流しているヨルは耳をシュンと閉じて俯き、俺から目を逸らす━━。
「べ......別になんでもない......。ていうか夜中に大きな声出さないでようるさいから.......! ふんっ......!」
「すまんすまん......」
『テメェが俺に夜這いしようとしてた所為だろうがっ!』
「許してあげない......明日私にお魚買ってよ......」
「分かったよ......副団長の物売って金にするわ。じゃあおやすみ」
「......おやすみ」
ヨルは頬を膨らませて不貞腐れながらそそくさと自分の布団に入り、俺に背を向けながら布団の中でなにやらガサゴソとしていた。
その姿に少し気まずくなった俺は再び眠りについて無事に朝を迎えた━━。
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