第17話 ノックの強さはほどほどに
「もう行っちまうのかい? 寂しくなるなぁ......」
「はい、短い間だったけどお世話になりました」
俺とヨルが支度を終えると村人達が外で出待ちをしてくれていた━━。
「何かあったらいつでも戻ってこいよっ!」
「その時は私達歓迎するわ!」
「ありがとう。まぁ歓迎するのは良いんだけどさ......なんで俺に服くれないの?」
「それは......アンタには下手な服装や防具よりその方が似合ってるぜ!?」
「そうそう! パンイチなのに強いのがかっこいいじゃん!」
「今時滅多にいないぜ!? 初期装備で戦い続ける主人公なんてさ! よっ裸の大将!」
「うるせぇ!! お前らどうせ裏では『あんな変態に貸す服は無い』とか思ってんだろ! 最後に至っては完全にバカにしてるからな!」
「「「いやいやいやいや! 思ってない思ってない!」」」
「一斉に誤魔化してんじゃねぇ! ったく......じゃあ行くかヨル。それじゃあ国王の所まで案内してくださいね副団長殿━━」
「うぅ......」
俺達は村を出て軍の詰所と国王が住んでいる領地へ向かった━━。
* * *
ヨルと2人で領地へ向かう途中何人もの人間とすれ違ったが、パンイチ裸足の格好で色黒の男を縛りつけ歩いている俺に全員ドン引きしながらジロジロと見てきた。
「うーわなにあれ......あの人服着てないじゃん......」
「ねーねー! 何であの人パンツ一丁なのぉ?」
「コラッ! 見ちゃいけません!」
「はぁぁぁぁ......。まぁこの格好を見ればどう見ても獣人を引き連れてる変態奴隷商人だよなぁ、このリュック重たいし早く休める場所に行きたいよ」
俺にはアニメとかでよくあるアイテムボックスとかいうドラ○もんの4次元ポケットのパクリみたいなスキルは当然持ち合わせておらず、荷物や食糧、調味料は出発前に村人からもらったデカいリュックに無理やり詰め込むしかない上、冷蔵できるように氷魔法とか使えれば少しは便利なのだが全く使えないので食料に関しては干し肉など乾き物しか調達できなかった━━。
「......前途多難だなぁ。それで副団長、あとどれくらいなの?」
「あそこに見える高い壁が国王様が住んでいる土地です。なのでもうすぐ着きます」
「どうも......」
「いえ、我はこの通り犬なんでお礼なんて不要です」
「この人遂に自分のこと犬って言っちゃったよ......」
「怒っていたとはいえ、ご主人があそこまでやるのが悪い......」
亀甲縛りと首輪をされながら平然と俺の質問に答える調教された副団長に少しドン引きしながら俺達は歩き続ける。
すると何かが落ちたクレーターを横に副団長が教えてくれためちゃくちゃ高い白色の防護壁の真ん前までたどり着いた。
「でっけー壁だなぁ......中に巨人とか埋まってそうだ」
その大きな防護壁の下部分には大層な門が備えられ厳重そうだが周りに警備兵らしき人物は誰もいなかった━━。
「おいおい誰もいないぞ? ここの警備はどうなってんだ? シフトの調整上手くいってないのか?」
「それは貴方が昨日一撃で滅ぼしたから兵の数が足りてないんですよ......。ですが門の前に吊るしてあるあの縄を引っ張れば上の鐘がなる仕組みになってるのでその音を中の者が聞けば門が開くと思います」
副団長が指さしたのは直径5cmくらいのワイヤーっぽい頑丈そうなロープでそれを目で辿って行くと門の上にある大きい鐘に繋がっていた。
「これね。よし、じゃあ引っ張るぞっ━━」
コ゛ー ン゛ッ.......ス゛カ゛カ゛カ゛カ゛カ゛ト゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ━━!
「え......」
俺が縄を引っ張った瞬間ロープは一気に張り詰め、その力で鐘を支えていた土台が何故か崩れて俺の目の前に可哀想な轟音を立てて落下し、俺の持っていたワイヤーはその衝撃で切れて門の前にある警備兵待機部屋みたいな小屋を破壊した━━。
「......やっちゃったねご主人......」
「いやいや待て......これはどう考えても王国側の責任でしょう!? いくらなんでもあんなのでぶっ壊れるなんて建て付け悪すぎだろ! こんなんなら竹○工務店にでも建ててもらえやっ!」
「いや完全に貴方の馬鹿力ですよ......この先どうするんですか? 私をこんな姿で捕らえている事実と鐘を壊した事で貴方問答無用で死刑ですよっ!」
「ちくしょう......! まぁ良いか、どうせ村の件で争う覚悟は出来てるしな。とりあえず鐘壊れちゃったから此処は素直に門をノックして入ろう。失礼しま━━」
コ ッ.....ハ゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン ッ━━!
「す......」
俺のノックにより白い門は
「こ......こんちゃーっす......。HエKですけどこの家にアンテナがあるので伺いました......」
「て......ててて敵襲ぅぅぅぅっ! 皆の者! 兵を集めろぉぉぉっ!」
* * *
男の掛け声でワラワラと集まってくる王国兵の連中は俺達3人と対峙する━━。
「うーわ、ア◯ソックがいっぱい来ちゃったよ。吉田沙◯里居たら勝ち目ないぞヨル......」
「減らず口は良いから前向いて」
「貴様ぁ......何者だ......!」
「そのぉ......私は通りすがりのただの無課金ユーザーです。この通りパンツしか履いてないので決して怪しい者じゃありませんよ」
「パンツしか履いてないからこそ怪しいだろうがっ! それに縛られているのは副団長殿ではないかっ! 副団長殿! その格好はどうされました!? 貴方程の実力の方がなんと酷い姿に......まさかこの者に嵌められたのですか!?」
王国兵の中に混じっていたローブを着た初老のおじさんは副団長を心配そうな目で見ながら俺を責め立てる━━。
「いやいや、それは副団長様の趣味で俺は何も......」
「ええい! 言い訳をするなっ! あの高価な防護壁を破壊した上副団長にそのような辱めをした貴様の狼藉は捨ておけぬ! 今すぐ騎士団長に連絡を取りコイツを捕らえるよう━━」
ザシュッ......!
「っぁ......」
肉と骨が切れる音と共に、俺が連れていた副団長の首がドサリと地面に転がり首から血が吹き出す━━。
「連絡は不要だ......それにしても情けないなアシュリー。お前が他人に対する偉そうな態度は以前から嫌いだったがそんな姿をこの私に見せるとは......死をもって償え」
キ ン ッ━━。
女の声と共に剣格と鞘が当たる金属音が響く。
そこには白銀色の中に燃えるような赤色で描かれた花のような模様が随所に施された甲冑を装備し、腰には同じ柄の鞘に剣を収めて副団長の血に濡れた白髪を風に靡かせる絶世の
「ふぅ......。ウチの部下が恥ずかしいモノを見せてすまないな少年」
「おいおい冗談だろ......。団長が相方のク⬜︎ちゃんを殺しちゃったよ......」
* * *
副団長を一撃で葬ったその美少女はその幼い見た目と合わない言葉遣いの固さと、甘ったるい声の高さからは想像も付かないほどの殺気を漲らせて俺と対峙する━━。
「何か言ったか? それより一つ聞こう......昨日あの山を破壊したのはオヌシか?」
「山......ですか? 一体何のことでしょう?」
「ほう......あくまでもシラを切るつもりか? これ以上真実を吐かないのならこの場で君とその仲間を斬るぞ━━」
その白髪の少女は俺を睨みながら剣の柄を握って抜刀の構えに入る━━。
「えっ......あー思い出しました! 知り合いが言ってたんですけど、最近どっかの知事が退任したので急いでリニアを通そうとしたらああなったと言ってましたね!」
「知事......なんの話だ!? ふざけているのか!?」
「別にふざけちゃいませんよ。それより副団長とパンイチでお散歩してたちっぽけな少年を疑うなんて流石に酷くないっすか? あーあ俺傷ついちゃったなぁ、冤罪で社会的抹殺とかお先真っ暗だ......。もしアンタが仮に心臓発作で倒れても訴えられそうだからAEDは使えないなぁ」
俺の言葉に彼女は足をジタバタとさせてイラつきを体で表現しながら俺を睨みつける━━。
「なんだなんだ! オヌシはさっきから何の話をしている!? それよりこんな騒ぎを起こす入場の仕方をしおって一体何者だ! 名を名乗れっ!」
「人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗る......違いますか?」
「ふん......まぁ良かろう。私は王都直属騎士第四分団団長ディ「俺は児島よしおです......」」
「お前ぇっ!! 人がせっかく名乗ろうとしていたのにわざわざ被せてくるとはどう言う事だ!」
「すみません《ディ》さん。まさか長い肩書きから言うと思わなかったので......タイミングを間違えましたっ」
「殺す......!」
プライドを傷つけられた《ディ》さんは殺気を漲らせながら剣を抜き、本格的な戦闘体勢に入ると周囲の空気がピリついたものに変わる。
彼女が放つオーラは見た目からは想像も付かないほど黒く重いモノでやはりそこで死んだ副団長とは一線を画すモノだった━━。
その姿に王様の配下らしき人物達も冷や汗を流しながら後退りする......。
「オヌシ《よしお》と言ったな......得体の知れない貴様が此処へ何しにきた? まさかこの王国に対する反逆か? 理由によっては私の手で直々に即刻殺さねばならぬ━━」
「理由ですか......言わなければどうなりますか?」
「ふん......答えられないのか? では口を開ける程度に痛めつけてやろう」
彼女が放った剣撃は目にも止まらぬ速さで俺の顔面に斬りかかる━━。
キ ン ッ━━!
「そんな.....ディアナ様の神速を謳う剣撃を素手で受け止めるとは......!」
驚く王国の兵達とは対照的に剣を受け止められた当の本人はニヤリをとしていた━━。
「ほう......本気でないとはいえ私の剣を指2本で受け止める人間は初めてだ。その指は余程"硬い"ようだな、それにその動体視力......やはりあの防御壁を破壊したオヌシは只者ではない━━」
「俺もそんなに口調が"固い"ロリっ子に暴行されたのは初めてだよ。アンタ黒の組織が開発した毒薬でも飲んで大人の身体が縮んだのか?」
「何の話だぁぁぁっ━━!」
俺の指から離れた剣は剣筋を横向きに変えて再び俺に襲いかかり、俺は左腕にその剣撃を思いっきり受け止めた━━。
カ゛キ゛ン゛ッ━━!
「斬りつけたねっ!? 親父にも斬りつけられたことないのにっ!! あ.....今は安◯透と暴行の話はタブーだったな━━」
「ふん......指だけじゃなく腕も硬いとは恐れ入った。オヌシは一体どんな身体強化魔法を使っているのだ?」
「嫌だねぇこの世界の人は......すーぐ魔法でなにもかも語りたがる。俺に対する嫌味かよ?」
「嫌味とはどう言う事だ!? まさかオヌシっ━━!」
「けっ、そのまんまの意味だよ......!」
ハ゛シ ッ......!
「なにっ! 私の剣をっ!」
ロリっ子は俺が掴んだ剣を引き抜こうと力を全力で込めているのかプルプルと腕を震わせている━━。
「う......動かないっ......! 力では一度も負けた事のない私をここまで軽々と抑え込む力にその頑丈な皮膚......まさかオヌシ、世にも珍しい龍と人との混血種かっ!?」
「いやその......ただ身体が丈夫なだけです━━」
「......えぇっ......」
* * *
作者より。
お読み頂きありがとうございます!
おかげさまで星100を突破いたしました(*´꒳`*)!
好き勝手書かせていただいてる中、このような評価を頂けてありがたい限りです!
今後もよろしくお願いしますm(__)m
次回の更新は作者の都合ですが少し遅れます(>_<)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます