第15話 おめでたい奴ら


「やっちまったよヤツ村さん.......」


「ああ......あの人はパンツの丈も気も短すぎる。これからどうなることやら......」


「いくら強いとはいえ、防具や武器を身につけた騎士団相手にあの人パンイチだもんなぁ......」



村人達が騎士団と共に村を出て行こうとする俺とヨルの心配をしながら見守っていた。



「ご主人......ホントだいじょぶ......?」



 そしてヨルが心配するのも無理はなかった。

 現在村に来ている騎士団は総勢50人程で、その上彼らは各国の騎士団の中でも特に優秀とされる王都の騎士団である。

 俺達は勇者パーティ時代に一度だけ王都に立ち寄り騎士団の訓練風景を見る機会があったが全員高水準の魔法を使用出来る上、物理攻撃の鍛錬も怠っていないという非常にバランスの取れたエリート集団だった。



「大丈夫さ、なんせ俺は誰よりも健康・・だからな━━」


「でもアイツ実力は本物だよ。さっき肉のおじさんが殺された時、私ですらアイツの剣筋を追う事ができなかったもん......」



 獣人であるヨルの動体視力ですら一瞬見失うほどの速さか......。



「......まぁなんとかなるさ。それよりアイツぶちのめしたら装備品剥ぎ取って金にしようぜ、そうすりゃ肉も魚も当分食べ放題だ」


「そっか......そっかぁ!! じゃあ絶対に勝って装備を剥ぎ取ってね......!」



 食べ物の話をした途端にヨルは黒い尻尾を小刻みに振り回しながら耳をヒョコヒョコさせている。

 するとその話を聞いていた 副騎士団長アシュリーは怒りを収めることが出来ず顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた━━。



「何が剥ぎ取るだ!? 子供でも持ってる魔力のオーラが微塵も無いお前1人でこの人数相手に何が出来るっ......! 我らは王都から派遣された騎士団なのだぞ!? どうせ今の攻撃も我らを牽制するために攻撃魔法で誤魔化したハッタリだろう!」


「どうせハッタリだよ、なんせ俺はこの世界で定職を持たない《ニート遊び人》だからな。こちとら早くお前らを処分して明日には《ユニオンハロワ》に行って職探ししたいんだ、さっさと終わらせようぜ」


「減らず口を.....皆の者! こいつを騎士団の名誉を汚した罪人として今から処刑するぞ! 掛かれぇぇっ!」


「「「はっ!」」」



 騎士団達は一斉に俺に向かって襲いかかる。

 ある者は構えた剣でそのまま切り掛かり、そして別の者は副団長と同じように剣撃に魔法を相乗させて放ってくる者もいた。

 しかし俺はその攻撃をヒラヒラと舞う花びらのように全て避け、全員の攻撃を完璧に見切っていた━━。



「なぜだ......何故攻撃が当たらないんだっ......!」


「あんなふざけた格好のやつなんかにぃっ......!」



 俺には奴らの攻撃がスローモーションのように見えていた。

 これは女神から貰った才能では無く、俺は物心ついた時から目だけ・・は本当に良かった。特に集中した時は周りの全てが遅く見え、まるで世界が止まっているかのように感じることもあった。

 その事で吾朗おじさんに心配され一回病院に行った事もあったが、異常は無く寧ろ深視力や色弱検査はもちろん特に動体視力検査に関しては病院の先生も驚くほどの結果だったらしい。

 しかし問題もあり、それは今までその視力に肉体が全くついてこなかった事......この世界に来てからは特に敵や勇者に攻撃される瞬間や攻撃を喰らっている状態がゆっくりと見えるため攻撃を受けている時間が長く感じ、また斬られた自分の肉の断面もスローモーションで丸わかりなので正直最悪の能力だった。


 けれども今はもう違う━━。



「やっと......やっとだ。ふっ......」


「けっ......何を笑っている......!」


「ああ、やっとこの目に身体がついてこられるようになったから嬉しいのさ━━」



 俺は攻撃を避けながら地面の土を一握りだけ掬う。



「ははっ......そんなモノを掘り出して何をするつもりだ? まさかコレから死ぬ前に自分の墓を掘ってるのか?」


「おいおい......お前には俺が葬儀屋にでも見えてんのか? 生憎俺は喪服も神父の服キャソックも持ってないんだ。コレはこう使うんだよ」



 俺は土を持った手を振り上げる━━。



「何をする気だっ......!」


「指圧健康法━━」


「指圧健康法だと? 聞いた事ないぞそんなモノ! そもそも魔力の無いお前が魔法なんか打てるわけ━━」


「じゃあ耐えてみせろよ俺の攻撃を。指圧健康法......サンドブラスト━━!」



 俺がその土を地面に叩きつけた瞬間......。



 スタンッ━━! ト゛ト゛コ゛コ゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ━━!



 俺が叩きつけた土は地面を抉り、そこから巻き上がった無数の土はその衝撃で砂に変わり超高速で騎士団へ襲いかかる。



「く゛ぁ゛っ━━!」


「ほ゛ぇ゛っ......!」



 凄まじい爆音と共に放たれた音速を超えた無数の砂は騎士団の鎧を全て貫通し、その場に残ったのは砂の衝撃でサラサラになった鎧だったモノとピンク色の気持ち悪いクリームムースだけとなった━━。



「おい貴様......我の率いた騎士団をどこにやった......。

どこにやったんだっ!!」



 砂煙が風で流されて視界が戻った瞬間アシュリーは居なくなった自分の部下達に唖然としていた━━。



「どこって......そこでハッピ○ターンの粉みたいになってるのがアンタの部下全員だけど」



 副騎士団長はその場でガクリと膝をつき、信じられない様子でサラサラになった鎧とクリームムースを手で掬う。



「そんなバカな......き......貴様本当は魔力のオーラを隠していたなっ!? そして上級転移魔法を使って部下達をワープさせたんだろ! そうなのだろうっ!!!?」


「そんな事出来るわけないじゃないっすか。ていうかなに転移魔法って? 癌の治療に使うやつ? 俺医師免許どころか自動車免許も持ってないから使えないっすよそんなの」


「バカにしやがってぇぇっ! 貴様は確実にここで始末してやる......正四位しょうしい剣撃を使用できる我を甘く見るなよ!!」



 この世界には攻撃の高さや使用魔法の難易度を位階で示す決まりがある。

 それは上から《正一位しょういちい》、《従一位じゅいちい》、《正二位しょうにい》、《従二位じゅにい》と表され、数字が増えるごとに難易度や攻撃力は低くなる。

 基準として一般の人間は高くても《従九位じゅくい》程度が上限で、因みにこの前俺が勇者から最後に喰らった一撃は《正二位しょうにい》と上から3番目の強さだった。



「何もかも甘く見てるのはお前の方だろ......」


「なにぃっ......? どう言う意味だ!」


「じゃあ言わせてもらうが、あの村周辺で多くの失踪事件が起こっていた事は知っていたはずだ。それなのに国王やお前ら騎士団様は碌に調査もせず失踪者の捜索や被害状況を調べもしなかった。それなのにたかが魔物の死体が国王の住宅近辺に落ちただけでわざわざ団員を引き連れてノコノコやってきやがって。挙げ句の果てに俺の相棒を無理やり連れ去ろうとした......お前ら人の命ってやつを舐めてるのか?」


「っ......! それは......」


「何が騎士団だ......自分たちの名誉の為だけに動くお前ら蛆虫が偉そうな肩書きつけやがって。自分の威厳のためだけに簡単に人を殺す連中に俺のヨルは渡さねえよ━━」



 俺はイライラしながらゆっくりとアシュリーに近づく━━。



「く......来るなぁっ! それ以上近づくと俺の剣撃を喰らわせて息の根を止めてやるぞっ!」



 ヤツは剣を構え、俺に威嚇の体勢を取るがその剣は完全に震えていた。



「やってみろよ。この至近距離でお前がヨルにさっき放った正四位しょうしいの剣撃とやらを撃ったらどうなるか......お前にだって分かるはずだよな?」


「なっ......!」


「そう......この距離じゃ俺だけじゃなくお前もダメージを喰らうはずだ、例え鎧が頑丈でもな。アンタ自分の攻撃で自分がマル焦げになりたいのか?」


「くっ......」


「まぁそもそも正四位しょうしい程度・・の攻撃じゃ健康な身体の俺は炙り寿司にすらならないけどな」


「なんだとっ......!」


「その無駄に高く聳え立つプライドを傷つけられたと思ったなら攻撃しても良いぜ、やってみな」



 俺はヤツから一歩下がり敢えて攻撃してくるのを待つ。



「舐めやがってぇぇっ......! 何が炙りだっ! コレでも食らえぇっ! 正四位剣撃 《バジリスク・フレイム》!」



 ヤツが天に翳した剣に蛇のような形をした炎がグルグルと刀身に沿ってとぐろを巻き、巨大な火柱が月に向かって伸びてゆく。

 そしてその掲げた刀身も炎の温度によって赫く輝いていた━━。



「なんか......お前を中心にみんなでマイムマイムしたら楽しそうだな」


「この炎と共に焦げ去ってしまうがいいっ! 死ねぇぇぇっ━━!」



 ヤツが全身全霊の力を振り絞って剣を振り下ろすと巨大な蛇の火柱が口を大きく開けながら俺へと一瞬で落下し、周囲の土地は野焼きでもしたように黒焦げとなり煙が立ち込めた━━。



「ふふふ......ははははははっ! この剣撃はあの騎士団長ですらそのスピードと威力でダメージを負ったんだ。鎧すら持たない貴様など━━」





『ダメージ蓄積......最大値上昇シマシタ......』





 カ゛シ ッ ! ト゛ス ッ━━!



「はがっ......!」


「あー熱かった。でもさっき入ってた風呂の方が熱かったな」



 俺は攻撃を受けた地点から一瞬にして移動し、ヤツの顔面を鷲掴みにして地面に叩きつけた━━。



「なっ......何故だ......。お前は間違いなく喰らっていたはず......なのに何故お前は無傷なんだっ......!」


「だから言ったろ? 俺は健康な体だって。それより俺にダメージを与えてくれてありがとう、お陰で俺はまた一つ健康になれたよ」



 俺は馬乗りになって身動き出来ないでいる奴の目に向けて指をピースした状態でゆっくりと近づける━━。



「ひ......ひぃぃっ......!」


「お前らが安全な場所でお仲間とちょこザ○プしてる間にこの村の人がどんな目に遭っていたか教えてやろうか? 村の女性は全員魔人の慰めものにされ、男性は恋人や娘の命を盾にされて人を攫わさせられていたんだ......。なぁ、お前ら騎士団は一体何の為にある? 弱者にイキって剣をブンブン振り翳す癖にいざとなったらパンイチ・・・・の男すらまともに倒せない......そんな腐りきった剣に人の命を奪う権利なんざ存在しねぇんだよ━━!」


「やめろおおおおおおおおっ!」



 サ゛シ ュ ッ......! コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛ッ━━!



 俺の指はヤツの目から軌道をあえて逸らしてヤツの顔面の真横の地面に深い穴を二つ開けるとその穴を基準に地盤が変化し、穴から半径200m程度の地面が深く沈下した━━。



「あ......ああ......ひっ......!」


「お前はまだ殺さないでいてやるよ......このまま縛ってやるから村人に石でも投げられながら一夜を過ごすんだな。そして明日お前の上の人間に俺を引き合わせろ......分かったな━━?」


「は......はぃっ......」



 ジョボ.....ジョボジョボミラジョボォッ......。 



「おいおい......いくら自分で土地を焦がしたからってそんなちょっとの小便じゃ焼石に水だぞ? しかし大のおっさんが良い歳こいてオシッコ漏らすなんてロ○チ中岡さんの御結婚よりビックリだわ。おめでとうございます」


「あ......うぁ......」



 俺はヤツから剣と鎧を全て剥ぎ取ってヨルに渡した後、そこら辺の草木でヤツの体を亀甲縛りにして村へ連行した━━。

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