第14話 騎士団とワンナイカーニバル


 村人に声荒げる副騎士団長の見た目は色黒でスキンヘッドの中年で鎧には幾多もの戦いでついたであろう傷が刻まれており、まさに歴戦の猛者のようなオーラを纏っていた。

 村人達はその見た目と団員の多さに怯えながら副騎士団長アシュリーに尋ねる━━。



「ミエルダ共和国騎士団......なぜあなた達がこの村に?」


「惚けるな......今日昼間ミエルダ国王の敷地に謎の落下物が発見された。そいつはいくつもの山を木っ端微塵にしながら落ちた事から我が国王の領土へ攻撃されたものと判断し今調査を行なっているのだが、調査を進めるうちに発射地点はこの近辺だと推測された。あれだけ大きな力が働いたとなれば発射地点から1番近いこの村にも何かおかしなことがあったはずだ......今から知っていることを我に話せっ!」


「おい......それって......」


「ああ......」



『『『あの変態が国王に喧嘩売った件だ......!』』』



 村人達はタケルがやった一連の騒動を共通認識しそれぞれ顔を合わせる。

 しかしそのやらかした張本人が今浴場へ行っている上、身一つで救出してくれた彼を騎士団に売れば彼の身はどうなるか分からない。なのでこの場はやり過ごそうと全員で惚け始めた━━。



「いやぁ......俺たちは何も見てないよな?」


「ああ......爆発音はしたけどそれが一体何なのかは全く分かりませんな」


「ワタシタチ、ナニモシラナイ」


「私も今日一日近くのダンジョンに潜ってデカいミミックに丸呑みにされていたのでそんな事は全く......」


「惚けるなっ! 落下地点から半径5kmに及ぶクレーターが発生し、領地の防護壁を衝撃波で一部損壊させる程の衝撃だったんだ! 貴様らは確実に何かを見ていたはずだぞっ!」


『『『あ......アイツのふざけたパンチでそんな事になっちゃってたの.......!?』』』


「い......いやぁ......そう言われましても我々には何の事かさっぱり━━」



 村人の惚け方にイラついた副騎士団長アシュリーは思わず声を荒げる━━。



「そうか.......貴様らがこれ以上我に嘘をつくようであれば偽証罪として全員晒し者にされながら国で処刑されるか、もしくは━━」



 サ゛シ゛ュ゛ッ━━!



「ぁっ......」


「トールっっ!」


「肉のおじさん......!」



 肉を思いっきり切断する音と共にトールと呼ばれる先程ヨルに肉を焼いてくれた村の男は副騎士団長に一瞬で首を刎ねられ、その首は騎士団の足元に転がった━━。



「この場で1人残らずこうなるだけさ......」


「そんな......なんて酷いことを......!」


「騎士団に逆らう者はこの国自体、いいや王都にも逆らうという事だ。次にこの者と同じ様になりたくなければさっさと話せっ!」



 副騎士団長は怯える村人に血のついた剣を突き立てると━━、



「アナタ......許さない......!」


「ヨルちゃん!」



 トールが殺されたことによりヨルは怒りで肩を震わせながらヨルは村人達の静止を振り切って騎士団の前に立った。



「なんだ貴様......獣人か? 何故お前の様な人種がこんな場所に? それにしても宝石のようなその黄金の瞳......美しい━━」


「ふん......そんな目で見ないでよ気持ち悪い。まぁ罪も無い村の人を簡単に手に掛ける貴方よりは身体もも美しい自覚はあるけど......」


「ほう、見かけによらず生意気な口を叩く女だ......気に入った! お前を国王様への手土産にしてやろう━━」


「冗談じゃない.......クズの侍女になるくらいなら死んだほうがマシよ」


「ふっ......なら我の女になるか? 強い男に惹かれるのが女の性というモノだろう? 貴様のその美しくも生意気な目を絶望に染めてから逆らえなくさせてやろう━━」


「強い男......? なら残念、それなら私はとっくに従っている人物が居るの。村人さん、浴場でのんびり寛いでいる私の愛する変態を急いで呼んできて」


「分かった......!」



 ヨルは手に力を入れ爪を鋭く伸ばし、自分に近づく副団長に向けて戦闘態勢をとった━━。



「男だと? そう言う事か......ならばその強いであろう男をこの場で処刑してお前を持ち帰るとしよう、村人共はそれまでの間に正直になってくんだな。さてどこからお前で楽しませてもらおうか......フフフ━━」



 村の広場が絶賛修羅場の最中さなか主人公の男はと言うと、未だ呑気に風呂に浸かっていた......。



「はあぁぁぁいい湯だなぁ......これなら無限に入ってられるわ.......」



*      *      *



 俺は湯船で支給されたタオルを頭の上に置いて寛ぎながら1人で明日からの事を考えていた━━。



「明日からどうするかなぁ......勇者を難なく嬲り殺すにはどこかで強い魔物と対峙して俺の力にしたいけど無一文な俺は復讐より先に餓死が待ってる......。とりあえず街に行って通行人の靴を磨くかユニオンに登録して依頼をこなしながら金を手に入れるか━━」



 この世界では"ユニオン"と呼ばれる労働組合の施設が存在し、そこには様々な仕事の依頼が集まってくる。

 その施設は各街に必ず一つ以上置かれ、組合に登録すればその依頼を受ける事が出来るのだ。

 但し現実世界と同じで自分の経歴や過去の功績によってランクが決められて依頼を受けられる難易度も変わるため、登録し始めの人には高難易度高報酬な依頼はさせてもらえない。

 しかし例外もありユニオンに危険と認定された魔物や人物をユニオンに通さず倒した場合、ランク関係無しにユニオンが設定した報酬をもらう事ができる━━。



「よし......明日朝イチでこの村を出て街に行くか。でもとりあえず今はいつまた入れるかわからないこのデカい風呂をのぼせるまで堪能しよう」



 俺は胸まで浸かっていたのを更に肩より深く浸かってボーッとしていると浴場のドアを勢いよく開け、真っ青な顔をして俺の方へ向かってくる村人が声を上げた。



「ヤツ村さん大変ですっ!」


「おいおいなんだお前! 新しいパターンの覗きか!? 堂々と登場しやがって......軍に通報するぞ!


「違いますよ! 今外ででその軍が俺たちに昼間の件で尋問をしに来ててヨルちゃんがっ!」


「ヨルがどうかしたのか!?」


「今ヨルちゃんが副騎士団長を名乗るヤツと対峙して大変なことになってます!」


「騎士団......? 分かった。体拭いたらそっち行く」


「ダメですよ! 体拭くのなんて後でいいから早く来てください!」



 村人は俺の手を思いっきり引っ張りながら湯船から俺を出してダッシュで脱衣所を駆け抜けようとする。



「まて! とりあえずパンツだけ履かせろ! 別の意味で捕まっちまう!」


「ああもうしょうがないなぁ! パンツ履いたら来てくださいね!」



 俺の手を離して村人が先に集会所を出ると俺はパンツを履いた後それを追うようにして集会所を飛び出した━━。



*      *      *



「ご主人は......まだなの......!?」


「フフフ......流石は獣人だ、華麗に我の攻撃を避けているな。だが獣人とはいえ剣を所持している我に素手で敵う筈がないだろう?」


「ふん......リーチがいくら......長くても......攻撃が当たらなきゃ意味ないよ......」


「ほう、ならこれはどうかな? 従四位しょうしい剣撃......《スラッシングファイア》!」


 

 アシュリーは持っている剣に赤い炎を纏わせて切先をヨルに向けた瞬間一歩を踏み出すと目にも止まらぬ速さでヨルの間合いに一瞬にして詰め寄り切り掛かる━━。



「くっ......!」


 それをヨルは息を切らしながらなんとか避けて再びヤツと対峙する。



「素手の私に対して魔法と剣撃を重ねた攻撃なんて......流石に卑怯......」



 獣人になったヨルは素の戦闘力としては人間よりも上だが、やはり攻撃魔法を剣術に乗せられる且つ戦闘方法を訓練された人間に対してはやはり分が悪かった。

 そして獣人になったとはいえ未だに魔法を使えないヨルはヤツの炎に対する防御の手段を持ち合わせていなかった━━。



「卑怯? 甘いな、戦闘において卑怯などと言う言葉は存在しないぞ。それに一撃くらい喰らっても良いだろう? 後で我が入念な・・・回復魔法でお前を癒してやるんだ」


「気持ち悪い......私はそういう事をして貰いたいのはたった1人しか居ないから......」


「ふっ、やはり良いなその目は! では次の一撃で絶望に染めてやろう......正四位剣撃ブライテストファイア!」



 アシュリーは天高く剣を掲げグルグルと振り回すと大きな炎の竜巻が発生し、熱風が周囲に襲いかかる。



「あのシルバーウルフを一撃で倒したこの攻撃を貴様に放ってやる。焦げた黒猫も可愛いもんだ......その後たっぷり可愛がってやろう━━!」



 炎の竜巻は火の粉を撒き散らしながら向きを変え、火柱になりながらヨルへと襲いかかった━━。



 ホ゛ワ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!



「ヨルちゃん! そんな......」


「フフフ......ハハハハハッ! 獣人風情が副団長の我に逆らうからこのような目に遭うのだ!」



 炎で目の前が見えずヨルの安否を心配する声とアシュリーの気持ち悪い笑い声が村に響き渡る━━。



「さて......次に丸焼きになりたいのはだ━━」


「ふん.....!」



 ハ゛シ ュ ゥ ッ━━!



「な......何だと......我の攻撃を風圧で......!」



 アシュリーがヨルに放った炎が何かの風圧によって一瞬で消え、炎によって焦げたアツアツの地面を平然と素足で歩くパンイチの人間が獣人をお姫様抱っこしながら姿を現す━━。



「ご主人......遅い......」


「すみません、久々の風呂にテンション上がっちゃって.....」


「やだ.....あとでマッサージしてくれなきゃ許さない......」


「ま......マッサージはやめた方がいいよ。まだ力に慣れていないからヨルの身体が新型IP◯dのCMみたいに物議を醸しちゃうと思う」


「それはダメ、優しくして......。私も後で優しくやってあげるから......」


「うんうん、そうかそうか.......エ゛ッ ッ ッ ッ━━!?」


「き.....貴様ぁ......何者だっ.....!」


「ん? もしかしてアンタですか勝手に村に入って勝手にキャンプファイヤーしてるキョロ充は。悪いがチョコボ◯ルみたいな見た目のアンタにこの美人は釣り合わないっすよ......。禿げたゴリラはさっさと森◯製菓に帰ってキョ◯ちゃん相手に腰振っててください━━」



*      *      *



「なんだと......貴様ミエルダ共和国の騎士団副団長である我に向かってその口の聞き方は何だ?」


「氣○團? 綾小路か? アンタは何か勘違いしてるようだけどここはMステじゃないぞ?」


「何を言っているんだ......? というか貴様我の前で服もろくに着ずに下着一枚とは......舐めてるのか!?」


「舐めてないっすよ。アンタのその油ぎった顔面を舐めるくらいなら工場から出た廃油を舐めた方がマシっす」 


「ちょっ.....ヤツ村さん! あんまりそんな口叩かない方が......逆らうとトールみたいになっちゃいますよ!」



 俺は村人が指差した方を見るとさっきヨルに肉を焼いてくれてた男の人が首を刎ねられて殺されていた━━。



「嘘だろ......肉のおっさんが......アンタが殺したのか......!?」


「そうだ、貴様も我の攻撃でこんな無様な姿になりたくないだろう? ならばその抱えている獣人をこっちに渡してこの周辺で起きた超常現象を教えろ。さもないと━━」



 ピンッ.......ト゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ━━!



「で? 誰が誰の攻撃で無様な姿になりたくないって......?」


「副団長っ!」


「き......貴様ぁ.......! もしかして.......!」



 俺が放ったデコピンは副騎士団長の顔面を掠め風圧で耳から出血させた後、村の門を軽々と破壊し馬車道を抉って新たな獣道を開拓しながら少し離れた森林から爆発音と共にキノコ雲を発生させた━━。



「アンタをチョコボ○ルからチョコレートフォンデュになるまで超常現象とやらを叩き込んでやるから覚悟しとけよ? あとここを更地にしたくないから後ろのチョ○ベビー共もまとめて表出ろ。お前ら全員テンパリングしてやる━━」

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