第13話 中途半端な肩書き持ってるヤツに限って大体偉そう


 ウサギ頭を倒し終えた俺達は、ログハウスの中から放置された遺体を外に運び終えた後生き残った全員で墓を作っていた。

 その中には遺体を見て泣き崩れ手につかない人も居れば呆然と眺めている人などそれぞれだった━━。



「......世知辛いな。勇者もクズだが魔物だけじゃなくこんな小さな国の王までこの惨劇を捜査すらしなかったとは......俺が前居た世界よりも上の連中が腐ってるよ」


「ああ......君の言う通り国王が此処の捜査に早く乗り出してくれればエレンもこんな事になってなかったかもしれない━━」



 俺は手で穴を掘り進めながらスコップを片手に土を掘る金髪の男と会話をしていた。



「それにアンタ達もあんな悪党の片棒を担がなくて良かったもんな......。これからどうする?」


「俺が妻と娘を殺したようなもんだからな......軍の詰所に行って全てを告白して罰を受けるさ━━」


「そっか......」



 誰も救われないな......結局弱いモノが強いモノの言いなりにさせられてケツを拭くのは弱いヤツだ。

 騎士団でも派遣されればこんな最悪の結果にならなかっただろうに━━。



「そんな顔をするな、獣人のその子と君が助けに来てくれなかったらもっと悲惨な目に遭っていただろう。それは本当に感謝するよ」


「えっ......?」


「そうだそうだ金髪男ヒューゴの言う通りだ、なんの関わりもない俺達を救ってくれてありがとう」


「貴方がいなければ次に餌食になっていたのはこの私でした......本当にありがとうございます」


「本当に怖かった......あの時の貴方はメシアに見えました」


「こうして今皆で亡くなった人を弔うことが出来たのも君のお陰だ━━」



 男のお礼を聞きつけたみんなが俺のところに集まって来て各々お礼を口にしてくれた。

 思えばこの世界に来てこんなにお礼を言われたのは初めてだ。いつもお礼は俺以外の勇者パーティだったもんな......ちょっと嬉しいかも。



「いやぁそれほどでも......」


「あっ、ご主人言われ慣れてない言葉に照れてる......」


「余計なこと言うな! それよりみんなそろそろ服を貸してくれないですか......?」



 俺が土まみれの体でブラブラさせながらお礼を言いに来た人達に目配せをするが.......。



「服はちょっと......なぁ?」


「そんな土まみれの方に言われても......」


「そこに葉っぱありますよ」


「ふざけんなよ! 散々メシアとか君のお陰〜とか言っておいて服すら貸してくれないとかどこで礼儀作法を学んだんだ! メシアに対する扱いはそれで良いんか!?」


「......でも本に出てくるメシアって大体服着てないじゃないですか」


「ハァ!? この世界の人間はファンタジーと現実の区別もつかねぇのか! お前ら全員の家のドアにしがみついて体液付着させるぞ!」


「どこかでその事件聞いたような......?」


「はははは! 面白いお方だ!」


「ねぇねぇ! アナタこの服似合うんじゃない!?」


「おっ!? それ俺のことか!? なんだ持ってきてくれてるじゃん!」



 俺は期待しながらふと目をやると救出した女性達はどっから持って来たのか全くわからない色々な洋服をヨルに試着させていた。



「ねぇねぇご主人.....私......可愛い?」



 そう言って見せたのは黒と白を基調としたフリフリのミニスカートドレスだった。

 ウェストは細く締まり胸は少し強調され、ヨルの白い足を際立たせる黒いニーハイに黒い靴は誰がどう見ても眉唾なしに綺麗な姿だった。



「......可愛い......」


「あ.....ありがと......」


「でもヨル......一つ言いたいことがあるんだ......」


「えっ......?」



 俺はヨルに顔を近づけ真剣に見つめる━━。



「まさか......私はその......ご主人のこと嫌いじゃないけど......ここはみんなが見てるから......その......恥ずかし━━」





「なんでお前だけ服調達されてんだよ! まさかこの短期間に村人相手にパパ活でもしたんか!? そんなの飼い主は許しません! 許しませんよ!」


「......はぁ!?」



 俺はヨルと自分の格差を周りの女達に訴える。



「くそおぉぉっ! ふざけんなよお前ら! なんでヨルの分だけ服あるんだよ! ていうかそんな豪華な服どこから持って来たんだ!」


「それはあのレプスってウサギ頭が私たちに着せていた服をあの家から持って来たので、せっかくだからヨルちゃんに着せてあげようと......」


「俺の分は!?」


「え......貴方女性の服着たいの?」


「そうじゃねぇよ話通じないんか! なんで1番活躍した俺は全裸で、ただの誘導員・・・だったヨルにはそんな可愛い服が支給されるんだよおかしいだろ!」


「まぁまぁ、服は私達の家に行けばありますからお墓を建て終えたらウチの村に寄ってくださいよ〜」


「なに無事解決しました〜♪ みたいな口調で言ってんだ! 結局その間ずっと裸なんですけど! 俺一応主人公なんですけどっ!」


「ご主人......でも本当は裸が美味しいと思ってるんでしょ? 私は分かってるよ」 



 キ リ ッ......!



「キリッ! じゃねぇんだよドS猫娘!」



 俺はイライラしながら墓の作業を終え、助けた人達と一緒に村へと降りていった━━。



*      *      *



 山から下山して夕陽が沈み始める頃、俺とヨルがやって来たのは"ミノール"という村だった。

 馬車などが通る大きい田舎道に隣接する小さな田舎村で村の横には綺麗な小川が流れ、近くには放牧された牛や馬が柵の中でのんびり過ごしておりさっきまでの騒動とは無縁に見えるくらいのどかな佇まいだった。



「こっちが俺の家です、入ってください」


「とりあえず全裸ですけどお邪魔しまーす」



 金髪に招待された家は二階建ての木造で中には奥さんと娘さんの3人が描かれた家族の絵画や家族分の食器などが棚に置かれ、魔人に攫われる前までは暖かそうな家庭が思い浮かぶものが数多く並んでいた。



「これらの食器もこんなに多く使うことは無くなりましたね......」



 そう呟いた金髪の男は目に少し涙を浮かべていた。



「私は明日軍の詰所に行って魔神の所業を話そうと思います。とりあえず今日はお二人ともうちに泊まって行ってください、夕飯は村のみんなでご馳走します」


「ありがとうございます。ただそれより服を......」


「あー、はい。とりあえずパンツをどうぞ」



 俺が渡されたのは前の世界で言うところのトランクスで、色はワインレッドみたいな赤一色の派手なモノだった。



「どうもです。あの......上着は......?」


「すみません、上着はちょっと今切らしてて━━」


「切らしてるってそんな調味料みたいな事ってあるの!? なら今アンタが着てる服はなんだ!?」


「すみませんこれ一張羅なんで無理です。というか服はもうコレしかありません」


「そんなに人に服あげたくないんか? もう良いや......。とりあえずパンツは貰えたし」



 俺が開き直っていると扉をノックする音と共に玄関へ入って来たのはさっき助けた村人の中でも1番美人な女性だった。



「ルーナです。夕飯がそろそろ出来そうなのでお呼びしました」


「ああ、ありがとうルーナ。では行きましょうか」



 俺達が外へ出ると良い匂いが外に立ち込め、肉の焼いている音が聞こえる。

 その音の方を見るとヒゲのおっさんが鉄板でステーキみたいな分厚い肉をたくさん焼いており、たっぷりの肉汁が鉄板の上でぱちぱちと踊っていた。



「うひょひょひょっ! 美味そうな肉だぁ......! ヨル、あの肉は俺が貰━━」



 スタタタタタタッ━━!



「お肉っお肉っ......♪ おじさんちょうだい......♪」



 よだれを垂らして肉を見つめるヨルは、昼間に魚を見ていた顔と同じように目をキラキラさせながらおじさんに目配せをしていた━━。



「あいよ嬢ちゃん。ただあんまり近いとその可愛い服に汁が飛ぶからもう少し離れててくれな?」


「嫌.......ご主人に取られるもん.......」


「取らねーよ。俺のことは良いから先に食べな、腹減ってんだろ?」


「ふんっ......あ......ありがと......。いただきます」 



 プイッと横に顔を逸らして貰った肉を一生懸命頬張る。


 コイツほっそい見た目で癒し系の顔の割によく食ったりツンケンしててギャップあるんだよな......そこは猫だった時と変わらないや━━。



「俺は風呂入ってくる。おじさん少しお風呂借りても良い?」


「風呂? もしかして浴場か? それなら俺ん家じゃなくて村の集会所の中にあるよ。そこでその血塗れの身体をゆっくり洗い流してくれ」


「ありがと。じゃあまたなヨル、あんまり食いすぎるなよ」


うるはいうるさい......わはってうもん分かってるもん......」


「......両手に肉持ちながらそのセリフは説得力0だぞ」



 俺は言われた集会所へと入り教えられた扉を開けると銭湯のような脱衣所が備えられており、大きな扉を開けるとそこには広々とした大浴場が目の前に広がる━━。



「おお......! こんなデカい風呂に入るなんていつぶりかな......吾朗おじさんと近くの銭湯に行ったきりかも━━」





 俺が昔のことを思い出しながらゆっくり風呂に浸かっている時、外では一波乱が起ころうしていた━━。



「いやぁ......まさかまた村に戻っこれる日が来るとはなぁ」


「ほんとだよなぁ。また平穏な生活に━━、んっ? なんの音だ?」



 村の入り口からカツカツと金属音が混ざった大勢の足音が聞こえ、そいつらの先頭にいた人間が大きな声を張り上げた━━。



「おい! 村の者ども! ミエルダ共和国副騎士団長を務めるこの《アシュリー》からお前らに聞きたいことがある! 不味そうな飯を喰らうパーティなんざ即刻切り上げて我の質問に答えて貰うぞ!」


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