第12話 小さな国の傲慢な王
「......が......ぐぉ......っ......」
「アイツは身体の練習がてら俺が始末する。だからヨルはこの人たちを頼む」
「うん......! みんなこっち来て!」
ヨルは指示された通り部屋に閉じ込められていた女性達を階段から逃し、ログハウスの外へと避難させる。
その間に俺は穴が空いたログハウスの壁から外へ飛び降りてヤツがめり込んだ崖へと向かった━━。
「そんな......バカな......! 選ばれしこの僕が......あんな全裸の変態なんかにぃぃっ......!」
ヤツはめり込んだ崖から落下し地面に叩きつけられながらもなんとか立ち上がる。
そしてボスの正体を初めて見た男達は皆唖然としていた━━。
「アイツがボスだったのか......」
「俺はずっと魔物に従っていたというわけか......!」
「女房はあんな奴に弄ばれていたなんて......俺のユーリはあんな......!」
怒りや悔しさを滲ませウサギ頭を睨みつける男達をすり抜けて俺はヤツの目の前に立つ━━。
「力加減出来なくて悪いね......初対面の軽いハイタッチのつもりだったんだけど身体にまだ慣れてなくてさ。しかし魔物の再生力ってのはやっぱすげーや」
この世界の魔物という存在は人間よりも遥かに再生能力が高く、ダメージを蓄積させやすい魔法を攻撃に乗せる方法が主流でただ単に物理だけで倒す事は基本的に推奨されない。
特に人を食らった魔人は耐久力持久力共に魔物のそれを遥かに凌駕し、歴戦の騎士であっても素手で倒すのは不可能であると言われている━━。
「今のが......は......ハイタッチだと......!? ふざけやがってぇぇ......!」
「ふざけてるのは人間の女を手籠にしているお前だよ。なんだその顔......お前はさっさとぐり○ぱに帰れ。可愛いお仲間がいっぱい居るぞ」
「へへっ......ウヘヘヘ......弱いツガイがいる女をおもちゃにして何が悪いんだぁ? 弱いヤツは強い者から搾取されるのがこの世界だ......女だってなんだかんだ強い奴についてくるもんだろ? その証拠に.......確かエレンだったっかなぁ、そいつもヒーヒー言いながら僕の魔羅を懸命に咥えてたぜ? まぁその後僕に逆らったから殺したけどな」
「エレン......! エレンだとっ......!?」
その名前に俺をここまで連れてきた金髪の男が震えた声でウサギに問いかける━━。
「ああ......僕に突っ込まれたままアイツの首を捻って殺してやったよ。もう数週間も前のことだ......娘のエミーラとやらはそれを見てから呆然として心が壊れちまってたなぁ! それも犯して殺したがその絶望的な表情はたまらなかったぜ!?」
「き......貴様ぁぁっ......! 貴様だけは絶対に許さない! この手でぶっ殺してやる!」
「殺してやるぅ......? そういうセリフは確実に殺せる相手だけに言うんだなぁ! お前のような下等な人間如きにこの僕を殺せる筈がない。なぜなら僕は沢山の脳を喰らい強くなったからだ......はぁぁぁぁっ━━!」
ウサギの魔人は全身から紫色の血を垂れ流しながら俺達を睨みつけながら身体から黒いオーラを解き放つと、ヤツはビキビキと音を立てながら少しずつ身体が大きくなり始めた━━。
「僕の特性は知能だけじゃない......巨大化によって筋肉量も増える。筋肉量は純粋に力だ、僕は特に脚の筋肉が凄いから足が速くてね......フルパワーを解放すればお前ら如きじゃ僕の速━━」
ハ゛コ゛ォ゛ッ━━!
「ふ゛ぉ゛ぁ゛っ......!」
ス゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ォ゛ォ゛ン゛ッ━━!
ヤツの頭上にジャンプした俺は上からヤツの頭に思いっきり拳骨を喰らわせると、その勢いで目ん玉を飛び出させながら一瞬で地面の中へ沈んでいった。
「ったく......喋ってる暇があったらさっさと変身しろよ。自分のことをプリキ○アか戦隊ヒーローだとでも思ってんのか?」
俺は深く穴が空いた地中に潜り、殴った衝撃でバラバラの身体になったヤツを無理矢理地上へ引きずり出す━━。
「い゛た゛ぃ゛っ......ほ゛く゛の゛か゛ら゛た゛か゛ぁ゛っ゛!」
ヤツの身体は胸から上だけが存在し、顔面は血で丸めた毛玉のようにぐしゃぐしゃになっていた。
「ダルマ落としみたいな身体になったね。案外似合ってるよ」
「やめで.......ぐれぇ......」
「ふっ......生まれて初めて恐怖を感じた顔をしてるな。この世界で強いとされているヤツはみんなそうだ......やられる痛みを知らない、そして弱い奴には何をしても許される思ってる。現にお前もそうだった、さっきまで散々偉そうに演説してたもんな? たが今じゃ武器どころか服すら着てない裸一貫の人間によって虫ケラ以下にされた哀れな存在だ」
「やめろぉ......よせ......」
「どうするみんな? 全員コイツに恨みがあるだろ? 我こそはトドメを刺したい! って人はいる?」
コイツを殺すのは特に恨みのない俺より散々痛めつけられたみんなの意見を聞くべきだろう━━。
すると奥さんを殺された金髪の男がポツリと呟いた......。
「俺は......自分の無力さを思い知ったよ。アンタみたいにコイツに立ち向かう事すら出来ず自分の命欲しさにエレンとエミーラを助けられなかった俺はコイツと同類さ......。だからこんな俺なんかよりアンタのその力でヤツを絶望させる殺し方をやってくれないか......?」
「そっか......みんな異論は?」
「いや......俺も無いよ......」
「私は......殺したいけどもう触りたく無いしコイツのことを1ミリも思い出したくも無い......」
皆はそれぞれ意見を言うがどれも消極的な意見だった。
この人達は復讐を実行しようとする心さえも最早へし折られてしまったのか......?
「所謂サレラリってやつかな......わかった。なら俺が代表してコイツに剣を突き立ててやるよ━━」
俺はみんなの方からくるりと身体を向き直し文字通りウサギの頭だけになった魔人を見下ろす━━。
「ねぇ金髪のおじさん、この国の1番偉い奴が住んでる方角ってどっち?」
「確かここからだと北の方だったと思うが......。王宮は国民が暮らす街とは少し離れていて軍の詰所もそこに......ってアンタまさか......!」
「へへへ、そのまさかさ━━」
俺はウサギ頭耳を鷲掴みにして放り投げ、パンチを放つ体勢に入る......。
「なにを......する気だ......!」
「お前にはこれからこの小っちゃな国でふんぞり帰ってるブルジョワへの
「なぜ人間のお前がそんな事を......!」
「この光景を見るまで静かに暮らそうと思っていたが、この異常事態に見回りの兵すら寄越さない危機意識の欠けた王国の連中にムカついたんだ。お前ら魔物も嫌いだがあのクズ勇者を持ち上げるだけで持ち上げ、自分たちは何もしないお偉方はもっと嫌いでね......それに俺は昔散々そいつらにも煮湯を飲まされてきたんだ。だからその復讐への一歩目さ」
「お前......一体何者なんだ......!」
「お前が知る必要は無い。じゃあな野ウサギ、あの世から精々ウサギのコスプレしたVtuberでも応援してろ━━」
「いやだ......や゛め゛ろ゛お゛お゛お゛っ━━!」
チ゛ュ゛ト゛ト゛ト゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ━━!
俺のパンチを喰らったヤツの身体はその速すぎる速度からまるで大気圏に突入した宇宙船のように空気の抵抗で炎を発生させ、連なる山々を爆心地にしながら金髪の男が言っていた王宮へと一直線にぶっ飛ばされて行った━━。
「ありゃウサギの欲張りクォーターが王様にデリバリーされるかもな━━」
* * *
ミエルダ共和国王宮大浴場内━━。
「こ......国王様ぁぁぁっ! 大変です!」
「なんだ! 我が寛いでいる時に騒がしい......!」
真っ青な顔で国王に駆け寄る家臣にイラつきを見せるのは、侍女に身体を隅々まで洗ってもらっている裸の国王だった━━。
「申し訳ございません! ですが只今正体不明のモノがものすごい勢いで王宮近くの土地に落下しましたのでご報告にと思い━━」
「正体不明のモノだと? まさかわざわざ愚民共の街から離れた土地に建てた我の建屋に目掛けて魔王軍が攻撃を仕掛けて来たのか!?」
ミエルダ共和国とは今タケル達が居る付近の小さな村や街を収める国で、国民からの評判があまり良くない国王は非難を避けるため少し離れた所にどデカい防御壁を構え、その中に軍の詰所や自分の住まいを建てている。
そして今回の騒動はその防御壁のすぐ近くにウサギ頭の残骸が落下したためである━━。
「それが......落下したものを確認しましたが既に黒焦げの残骸で最早どんなものなのか見当もつきません......!」
「なんだと!? 一体何をしておる! 早急に調べよ!」
「はっ! それと魔像機にこんな映像が━━」
国王は浴場の魔映機に映し出された映像を凝視する。
そこには凄まじい速度で炎を上げながら彗星のように飛んでくる"何か"が映っていた━━。
「何だこれは......空から隕石が降って来たのか!?」
「分かりません......。ただ言えるのはこの正体不明の飛行物体により近隣の山々と我々の土地が破壊されたと言う事と、今日この出来事の前に付近の山が轟音と共に更地になったとのことです」
「なんだと!? 山を破壊するなんてそんなの信じられん......。騎士団は何をしておる! 調査に当たっている者はいないのか!?」
「はっ! 只今その破壊事件が起きたとされる地へと副騎士団長とその配下が向かっております!」
「なら良い、まぁそもそも山を破壊するなんて御伽話じゃあるまいし土砂崩れでも起きたのだろう。もし仮にそんな化け物がいたとしたら勇者と同等かそれ以上に強い何者かがそこにいる事になる、そんなのはあり得ないからな」
「はぁ......それに副騎士団長も相当お強いのでもし仮にさの正体が魔人の一体だとしても問題は無いかと」
「だろうな。ワシが大金を叩いて王都から雇った騎士団だ、そう簡単にやられはせんだろう。さぁメスメイド共......続きを頼む━━」
国王は一安心すると再び侍女をこき使い身体を洗わせた━━。
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