第11話 ウサギ
「よし、中に入るぞ......」
俺は木で出来た玄関を音を立てないようそーっと開けた。
「何だこれ......」
「っ......!」
中に入った俺たちが目にしたのはその絵本の世界の様なログハウスとは打って変わり血生臭い匂いに血塗れの壁と血が飛び散ったキッチン、そしてドレスや水着やメイド服など様々な服装で放置された遺体の山だった。
だが何よりも特徴的だったのはその遺体は頭部が全て無くなっていた事だった━━。
「......ご主人......これ......」
「ああ......間違いなくボスとやらの仕業だな。しかしこれだけでも1ダース以上転がってるぞ......」
リビングに積まれている死体の山は新しいものから死後数ヶ月は経過していると分かる程腐乱したものと多種多様だが、胴体を見るとその全てはやはり女性だった。
そして血塗れのリビングから別の部屋に繋がる部屋と2階に上がる階段が見えたがその階段の方から何やら話し声の様な音がする━━。
「ヨル......今の聞こえたか?」
「うん。私普通の人より耳が聞こえるから今何を話してるか大体分かるよ」
「そうか......さすがだね。猫は聴覚が人の三倍優れているもんな」
「うん。だから昔ご主人がスマホで女の人と男の人がなんか変なことしてる動画を1番小さい音量で聴いてて私うるさかった......」
「そうそう、寝ているヨルに聞こえない様にって馬鹿野郎! それ全部聞こえてたの!? 最悪のタイミングでそんなこと言うなよ......!」
「だってしょうがないじゃん。私以外であんな......じゃなくてちょっと待って。会話が何かおかしい......」
「おかしい? どういう風に?」
「なんか女の人がずっと喋ってて、それに合わせて低い男の声が気持ち悪いぶりっ子の声で子供の役してる......」
「なんだそれ? 女侍らせて赤ちゃんプレイでもしてんのか? とりあえず男の声って事はそいつがボスだな......とりあえずさっさと上がって生きてる人達を解放しよう」
俺とヨルは血生臭いリビングを抜け、足音を立てずに階段を登った━━。
* * *
階段を登ると人が3人くらい通れる幅の廊下と左右に扉が2つずつあり、廊下の突き当たりは行き止まりになっている。
どうやら2階からの脱出方法は窓から飛び降りるか、この階段を降りで逃げるしか無さそうだ。
そして1番奥の右側の扉からさっき聞いた声が鮮明に聞こえる━━。
「あの奥にいるな......準備は良いかヨル」
「うん......!」
カチャリ......。
「じ......じゃあ......始めましょレプス君......」
「ウヘヘへへ......じゃあ僕はコレを使うからママも今回はコレでちゃんとやってね。ママァ......僕はお菓子を作るからママも手伝って欲しいなぁ」
俺たちの目の前に現れたモノ......それは連れ去られた大勢の女性達を下着姿にして取り囲み、このログハウスそっくりのジオラマの前で動物の人形を手に取りまるで子供の様に遊んでいるのは2mくらいの身長で耳の尖った茶色いウサギ頭を首から生やした筋肉ムキムキの魔人だった━━。
「まさか人攫いの正体が魔人だったとはな......この国偉いヤツは一体何してんだ? それにあの人たち......」
そして部屋の隅を見ると既に何かされた後のようで泣いてうずくまっている人や放心状態の若い女の子、下着を破かれたまま倒れている人など様々だった━━。
「ひでぇ......人間の女で性欲発散とは随分趣味の悪いバニーガールだな。同類にモテない腹いせか?」
「気持ち悪い......」
俺たちが部屋の状況を探っていると人形を持っている女性が震えながらウサギ頭と会話を続ける━━。
「も......もちろんよ。じゃあママはこの棚からおもちゃの......あっ......!」
「今オマエ......
「ご......ごめんなさい!」
「コレはおもちゃじゃない......そんなこと言うオマエはママになりきってない! ママになれないオマエはゴミクズ同然だぁぁぁぁっ!」
そのウサギ頭はそのつぶらな瞳を怒りで歪ませ、さっきまで人形遊びに付き合わせていた女性の頭をデカい手で鷲掴みにして宙に持ち上げる━━。
「い......いやっ......! だれか......だれか助けてっ!」
「オマエは僕の楽しみをおもちゃとバカにした......オマエはママじゃない。だから下に転がってる下品な死体共と一緒にしてやる! 安心しろ......弱者なお前だが脳だけは僕の腹に収めてやるよ━━!」
ウサギが大きな口を開けると取り囲んでいた女性達は各々ダムが崩壊したかの様に悲鳴やコレまでの恐怖を口にし始めた━━。
「やめてぇぇ! こんなのもういやぁぁっ!」
「耐えられない......いつ殺されるか分からない生活なんてもう......心がおかしくなる......」
「誰か......誰か助けて......!」
女性達の悲鳴を聞いたウサギ頭は怒りの顔からニヤニヤした顔に変わる━━。
「ウヘヘヘ......嬲る度に聞ける人間の悲鳴はたまらねぇ! 特に女の甲高い叫び声は僕を欲望を刺激する! もっとだ......もっと泣けぇっ! 叫べぇぇっ!」
ミシミシッ......!
「だず......げ......」
ト゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン ッ......!
「なんだっ!」
パキッ......パキッ......。
俺はドアを突き破り粉々にした後、砂煙が立ち込めた部屋に入る━━。
「オマエ......一体何者だ!」
「よぉシル○ニアファミリー。俺もそのお人形遊びに混ぜてくれよ━━」
「なんだと......! 男に作らせたドアを壊しやがってぇ......それよりなぜオマエは全裸なんだっ!」
「お前だって大差ないだろ、顔の着ぐるみ以外は俺と同じじゃないか。ていうかこの部屋くっさ......! お前お人形遊びの他にカードゲームとか趣味じゃないよな? ちゃんと風呂入れよ」
ウサギ頭が掴んでいた女性は床に落とされると取り囲んでいた女性達の中に逃げ込み、俺の姿に安堵したのか涙を溢していた。
「この神聖な部屋を汚しやがってぇ......。僕は男が大嫌いなんだぞ! オマエなんかさっさと殺してコイツらまたお人形遊びをするんだぁぁぁぁぁっ!」
「いちいちデカい声出すなようるさいな、そのフランスパンみたいなデカい耳付いてるんだから自分の声がデカい事くらい分かれよ。それとも何か? 詰まってんのは耳だけで頭ん中はジジイの骨よりスカスカだから理解出来てないんか?」
「なんだと......僕をバカにするのも大概にしろよ......?」
「おやっ......無い頭でもそこは理解出来てるんだね、脳内には性欲の漢字しか無いと思って侮ってたよ。ご褒美にニンジンくれてやろうか?」
「上等だぁ......オマエを殺してそこの可愛い猫女も僕のモノにする......コレでもく━━」
ガシッ━━!
「......
「く゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ! やめろぉぉ......!」
俺はさっき女性がやられた様にヤツの大事な息子を履いていたズボンごと思いっきり掴み壁に詰め寄る。
すると壁はミシミシと音を立ててヤツのシルエットに沿った亀裂が入っていく━━。
「キーキーキーキーうるせぇよ......。2度と欲情出来ないように去勢してやろうか?」
メリメリッ......。
「オマエ......人間のくせにこの力どうやって......おぇぇぇっ......!」
「俺はお前と違って毎日お風呂に入ってるからさ。まぁそのせいでこんな風呂上がりの格好で来ちまったけどな......」
「舐めやがって......人間如きがこのレプス様に勝━━」
ハ゛キ゛ィ゛ッ.......!
ヤツの偉そうな毛深い顔面に俺の拳がめり込み、ヤツの顔が歪む━━。
「ん゛か゛っ......!」
ス゛ト゛ト゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ━━!
「なんだっ! ログハウスからものすごい音がしたぞ! お.......おいなんだあれっ!」
洞窟付近の男達が見たものは、ログハウスの壁を突き破って洞窟の崖にまるで型押しでもされたようにめり込んだウサギ頭の魔人だった━━。
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