第10話 森の中の大きなお家


 下半身にクマの皮を装備し防御力をアップさせた俺は再び男達に案内され山の中を歩く━━。



「ごひゅじん......この魚んまぃ美味い......」



 ヨルは木の棒に刺して焼いた魚をほっぺが落ちそうなくらいのにんまり顔で頬張っている━━。



「良かったな。俺もとりあえず一応人前に出られる格好にはなったし一安心だ」


「うん......。その......助けてくれてありがと。仕方ないからこれあげる......」



 ヨルは俺から目を逸らし顔を真っ赤にしながらもう片方の手に持っている魚の棒を俺に渡す━━。



「ありがとう......でもなんで顔真っ赤なんだ?」


「う......うるさい......!」


「......まあ良いや。ちょうど腹減ってたし助かったよ」


「なぁアンタ、さっきから思ってたがあの力はなんなんだ......? 見たところとてもじゃないが俺達よりも強そうな身体には見えねぇけど......」


「健康な身体には神が宿るんです。だから貴方達も神になりたいなら毎日食べた方が良いですよ......ちゃ○ちゅーる」


「チャオ......なんですかそれ?」


「......もうホントこの世界嫌。マジでなんも通じないもん━━」



 俺達はその後も林道を歩き続けた━━。



*       *       *



「着きました。此処です」



 案内された場所は森の木々を伐採した土地の中に建つ、まるで絵本の世界に出てくる様な赤色で塗られた派手な屋根と丸太で組み立てられた大きなログハウスだった。

 そしてそのログハウスの脇には洞窟があり、その入り口で男達が焚き火をしている。


 その光景を俺達は木の影に隠れながらこっそり見ていた━━。



「それで......あのデカいお菓子の家・・・・・に悪い魔女が住んでいるのか。あの洞窟前の人達は......?」


「あの男達も僕らと同様に妻を連れ去られた夫です。今は恐らく......あの建物の見張りをさせられています」


「なるほど......それで貴方達の奥さんは━━」


「あのログハウスの中です。私達男は全員あの狭い洞窟で寝泊まりさせられてますが、妻達女性全員はあの広い家で寝泊まりしています」


「なるほど、随分扱いが違うな......。そう言えばアンタ達はヨルを攫おうとしてたがそれもボスとやらに頼まれたんだよな?」


「はい......ボスの仲介役だったゲルドに命令されて一緒に山を降りてきました。そしたら全裸のアナタと、とても顔立ちが整った獣人の彼女を見つけ襲ったんです。もし攫って帰らないと俺たちはボスに殺されるので━━」




 男はそう言うと静かに涙を流した━━。



「もう限界です......関係の無い人を攫って自分たちの首の皮一枚をつなぐ生活はもう耐えられません......! 妻だってあの中で何をされているのか分からない......俺達はあの家の外に食料と服を毎日置くだけで中を見る事は許されないのです。前にコッソリ見ようとしたヤツが居ましたが、すぐにバレて家の前で生きたまま火炙りにされました━━」



 ひでぇことしやがる......しかしあの中で一体何が行われているんだ?

 綺麗な女を連れ去って家の中はシークレット......まさか乱○パーティか?



「そうか......とりあえずどうする? 洞窟の男達はこの状況で味方になってくれそうか?」


「あなたの事を説明すれば恐らく力になってくれると思います」


「じゃあアンタはとりあえずそっちに行って男達の退路を確保してくれ。それともう一つ聞かせて欲しい......ボス以外で厄介なやつはいるか?」


「いえ......仲介役はゲルドだけで他には居ないはずです。ただ気になる事があってヤツは男が外からただ見ていただけなのをすぐに気がつき一瞬で家に引き込み、ボコボコにした後ゲルドに燃やさせました。なのでもしかすると五感の感覚が普通の人より優れているのかもしれません」


「なるほど......ボスの正体を見た事はないのか?」


「家に引き込んだのも一瞬のうえその日は夜だったので残念ながら......」


「分かった......とりあえずいきなり殴り込むと中の人達も危ないし考えられる対策を打ってから乗り込む事にする。ちょうどゲルドとやらの死体もある事だしな」


「.......ヤツの遺体を何に使うんですか?」


「今得たヒントでボスの感覚を鈍らせる━━」



 俺は早速ゲルドの死体を袋から出して作戦を開始した━━。



*      *      *



 男達が洞窟へ向かうのを見届けた後、俺はさっきまで下半身を覆っていたクマの毛皮を脱ぎはじめる。



「ご主人......突然何してるの......変態に戻っちゃったの......?」


「そんなわけあるかっ! ていうか戻っちゃったって何!? 元は変態でしたみたいな言い方しないでくれ!」



 俺は熊の皮を手でちぎって小指で小さく何個か穴を開け、そこら辺に生えてる木のツルを引きちぎって毛皮の穴にツルを通してゆく。



「よしっ......これで完成。熊の毛皮で作った即席の地下足袋だ、これなら毛皮のおかげで足音も最小限だろ」


「おお......ご主人器用でかっ......ぜ......全然凄くないけど......!」



 ヨルは目をキラキラと一瞬輝かせたがすぐに口を尖らせてそっぽを向いた━━。



「はいはい、そういう素直じゃないところもさすが猫だよ」


「う......うるさい......。いいから早くパンツ履いてよ......」


「いや、今ので全部皮使ったから俺はまたもやフルティンだ。後は━━」



 俺はゲルドから溢れた血を掬い上げて自分の身体に満遍なく塗りたくるとヨルが鼻を抑える━━。



「何してるの......! ご主人臭い.....!」


「それだよ、ゲルドの匂いを俺の身体に染み込ませて匂いを消すんだ。さっき聞いた話をまとめるとボスとやらは嗅覚か耳が異常に優れている可能性が高いからな......これで対策はバッチリだ」


「なるほど......でもそうは言うけどご主人は潜入とかした事あるの? 私は猫だからそういうの得意だけど......」


「大丈夫。ナ○トは全巻読んでたからバッチリ」


「いや逆に心配なんだけど。心配......じゃなくてご主人だけだと頼りないから私もついていってあげる......」



 そう言うとヨルの白く綺麗な脚が変化し始め黒い艶やかな体毛その脚を覆い脚の形を変え、まさに足だけが猫のようになった━━。



「お前さぁ......俺よりとんでもねぇ身体になってねぇか......?」


「うるさい......これなら音も鳴らないでしょ? それに好きな時に元のの姿にもなれるしとっても便利なんだから......」


「俺よりチートやんけ......。でもそれだけじゃだめだぞ? 俺みたいにゲルドの血を浴びないとヨルの匂いが残ってる」



 俺がそう言うとヨルは顔を真っ青にして思いっきり拒否反応を示す━━。



「ひっ......! に......臭いで倒れそうだけど我慢してあげる......。ご主人1人だと危なっかしいとこあるし......」


「どうせ俺はドシな三枚目だよ。でも心配してくれてありがとうな」


「......うん......///」


「うしっ......じゃあ乗り込むぞ」



 俺達はボスが待っているというデカいログハウスに潜入を開始した━━。



*      *      *



 とある国の王宮にて━━。



「国王様。例の山での人攫いの件ですが......」


「分かっておる。だがあんな辺鄙な土地に兵を送っている暇は無いんだ、そんな金が有ればこの国内の防衛に充てるさ。それにこんな治安だ......多少人が居なくなろうがそんな事は仕方があるまい━━」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る