第3話 最悪の顔合わせ
「......んぁ......ここは......」
「ミャァ......」
俺が次に目を覚ますと何やら頬に暖かく湿った感触と、聞き慣れた鳴き声が耳に入った━━。
「ヨ......ル......? ヨルっ!」
俺はガバッと飛び起きて抱きしめると、ヨルは嬉しそうに俺のお腹の上をスリスリする。
「良かった無事だったんだな! 怪我は無いか? あの不摂生女神に変なことされてないか?」
「ゴロゴロ......ミャァ......」
「それにしても......ここは一体何処だ......?」
「おお......! ようやく目覚めたか!」
辺りを見回すとそこはまるで海外にある大聖堂のような建物内の広場で、俺はその中心にある祭壇の上に寝ていたようだ。
そして世界史の教科書に載ってそうな中世時代の私服っぽい格好をした外国人風の人々が大勢で俺を期待の目で見つめ、ローブのような物を羽織り長い白髭を蓄えた爺さんはその大衆に向けて叫ぶ━━。
「皆の者聞くが良い! 神の天命で異世界より召喚されしこの若者が勇者一同として魔王軍討伐のために大いなる活躍をしてくれるであろう! 皆の者拍手を!」
俺は起きて早々爺さんにそう言われ、大衆には割れんばかりの拍手をされる━━。
「おおおおおっ! 必ず魔王を倒してくれー!」
「我々人間に平穏な毎日を!」
「異世界人の方......素敵......♡」
「今回は顔つきが"
「期待してるぞぉぉ!」
「あの黒猫も異世界から来たのか?」
「恐らくな。禁忌の存在だがあの方の飼い猫なんだろう......」
とまぁこんな感じの言葉が聖堂に集まっている人間のあちこちから聞こえる。
とりあえず分かったのは彼らの言葉が"普通に"理解できる事と俺に物凄い期待を寄せている事だ。
だがとてもじゃないけど言えない......そこまで期待されているのに俺持っている能力はアレだなんて......。
「ところで......君はなんという名前だ?」
「俺の名前は
「サトウ......? それで君は女神様から何か伝えられているのかな?」
「はい......勇者と共に魔物や魔人、魔王を倒せとだけ━━」
俺とヨルを殺した奴もその中に含まれてるけどな......。
「そうか、では早速案内しよう......」
「はい。じゃあヨル行こっか」
ヨルは俺の声を聞くと肩の上にピョンと乗っかる。
「ふふ......お前いつの間にそんな芸を覚えたんだ? 凄いな」
そして爺さん神父に祭壇の脇にある扉へ案内され中に入るとそこはだだっ広い空間で、中央には貴族が会食に使ってそうな長い長いテーブルが置かれている。
そしてそんな広間の奥にはどういうテクノロジーか不明なホログラムっぽいモニターが何かの映像を映し出していた━━。
「アレは......」
「あれは"魔映機"ですな、魔力によって映像を映し出すことができる物です。同じような構造で映像を撮ることができる"魔像機"という物もありますぞ」
「そうなんですね......これじゃスマートフォンを持っててもハーレムは作れそうにないな」
「......なんの話ですかな?」
「なんでもないです」
もうここは中世なのか現代なのか未来なのかワケわかんねぇな。
もしかするとメディアに関しては俺が住んでた世界とあんまり変わらないのかもしれない━━。
そして俺がその魔映機から長いテーブルに目を向けると何人かの男女がこちらに向かってきた。
「よぉ......お前が召喚された異世界人か? 名前は?」
「《
「ふーん、変な名前だな......俺の名前は《アンドレ・フェイト》。精々俺の足を引っ張らないようにしろよ」
俺の肩を叩きながら高圧的な態度で接する少し歳上そうな銀髪の男、彼の見た目は俺でも見惚れるくらいの美形でオマケに背が高い。
そして装備している鎧は群青色の輝きを放ち腰に構える剣は白く輝いていた。
恐らく彼がこの世界で言うところの"勇者"なのだろう━━。
「はぁ......分かりました」
「なんかナヨナヨしてんなお前。まぁいい......そしてコイツらが俺の率いるパーティだ、みんな挨拶」
「私は《エマ・グレンジャー》よろしくね。職業は黒魔法使いだよ」
そう挨拶する女性は金色の髪に魔女みたいな水色の帽子を被り、デカい乳を見せびらかすような胸元の空いた水色のドレスを着た俺より少し年上っぽい妖艶な人だった。
そして綺麗な二重の瞳の側には涙ぼくろがあり、俺を妖艶な目で見つめる━━。
「よろしく......なんかネット番組限定で出てるグラドルさんっぽいっすね」
「ミ゛ャ゛ッ......!」
カプッ━━!
「イテッ! 何すんだヨルっ!」
俺がエマさんをガン見しているとヨルは何を思ったのか俺の首元に思いっきり噛みついた━━。
「はははっ! その子私に嫉妬しているみたいね。可愛い♡」
「あは......あははは......」
猫に嫉妬されてもなぁ━━。
「それじゃ次は俺の番だな。俺の名前は《モロウ・ランスロット》職業は戦士だ、よろしくな」
その人は腰に勇者とはまた違った剣をさして露出が高めの鎧を羽織る、赤髪短髪で筋肉隆々の大男だった。
しかし吾朗おじさんよりガタイが良い人を俺初めて見たな━━。
「よろしく......趣味はなんですか?」
「趣味? 筋トレだ!」
「ははは......ぽいっすね」
「ああっ! 女を使って毎晩トレーニングさっ!」
「えっ......ああそっちの......! でもその筋肉なら女の子はもう遊園地感覚ですね! ベッドでメリーゴーランドやってくれそうだ」
「はっはっは! 訳分からんこと言ってると殺すぞ......?」
こっわ......なんだこの掴みどころない脳筋キャラは......。
「そ......それじゃ私が最後ですね......私の名前は《ソフィ・スコリア》。職業は僧侶です、よろしくお願いします......」
恥ずかしそうに名前を言う彼女は、さっきの神父に似た白いローブを着てロングストレートの青髪を背中まで下ろす如何にも清楚で綺麗な同い年くらいの女性だった。
しかしその清楚さに見合わずローブの上からでも分かるくらい胸がデカイ━━。
「よ......よろしく......」
「シャァァァァッ!」
カプッ!
「イッタッ! ヨルっ! 俺はまだ何もしてないぞ!」
再びヨルに噛まれた俺をソフィさんは緊張が取れたようにニコニコと笑う━━。
「ふふふ......面白いですねっ! これからよろしくお願いします!」
「はい、こちらこそ」
「よし、これで全員挨拶したな。では聞こうかサトウ......お前の職業はなんだ?」
勇者は真剣な眼差しで俺を見つめる━━。
恐らく俺という新入りに足を引っ張られたくないから職業を聞いて適性を見極めたいのだろう......。
「俺は......建設作業員です━━」
「......は?」
「冗談でしょ......?」
勇者と黒魔法使いは2人で顔を見合わせる━━。
でも仕方ない......俺の前の世界の職業は確かにそうなのだから全く嘘ではない、それに俺はその仕事に対して誇りを持ってるんだ。
「待て......それは本気か? お前魔法は使えるのか?」
「魔法......俺の世界での伝説が正しければ後15年くらいすれば使えると思います......」
「15年って......お前のスキルは!? 能力は!? 一体なんなんだ!?」
「……健康と丈夫な身体です......」
俺の発した言葉で部屋には沈黙が走り、勇者達の顔は完全に強張る━━。
「......お前サンドバッグ決定な」
そう言い放った勇者の一言により俺の異世界生活は過酷で残酷なものになるのだった━━。
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