第2話 適当な女神


「......ここは......」



 俺が再び目を覚ますとそこはまるで夜空の中に居るような無数の点が暗闇の中で光り輝いていた。

 そしてその光の中から一つの光がこちらに向かってくる━━。



「やっと目覚めたか......」



 光から声がするとその光はヒトの形に変化して収束していく。

 そして現れたのはこの世の物とは思えない......って訳でもない少しぽっちゃりとした体型で、歴史の教科書に出てきそうな白い布を元にした服を着ている顔だけは綺麗な女が豪華な椅子に座っていた━━。



「やっとって......ここは一体どこですか?」


「は? ここは死後の世界だバーカ」



 なんかよく見たことあるポテチの袋みたいなものを持ってボリボリと食べる女は面倒臭そうに俺の質問に答えた。



「初対面でバカって......こんな暗闇でポテチ食ってる不摂生の塊に言われたくないですよ。もしかしてここは引きこもりの部屋ですか? それとも養豚場ですか? なら口蹄疫に気をつけないといけないなぁ」


「ちげーよ殺すぞ! あっ......もう死んでるんだったコイツ。しかし生意気だなお前は、復讐の神である《エリー》に向かってなんだその口の聞き方は」


「復讐の神......ですか?」


「ああ......お前は死ぬ直前に相当な恨みを抱えていたろ? だから私が呼ばれたんだ」



 確かに俺は死ぬ直前ヨルを殺したやつに恨みを抱えていた、でもだからってこんな世界があるのか? 少し信じられない━━。



「その話本当ですか? 正直俺が死んだ事もちょっとまだ信じられないし......」



 俺がそう言うとエリーはボリボリと食いながら面倒くさそうに答える━━。



「はぁ......? 本当だぞ? その証拠に貴様が飼っていた可愛い彼女は我に一つ願いを言ったあと別の世界へ旅立った━━」


「彼女......もしかしてヨルのことですか? ヨルは生きてるんですか!?」


「ああ......違う世界で貴様と生きるためにな。であれば貴様も行くべきだろう、なんせ彼女はたった1人の家族なんだから。それにもう前の世界には戻ることは出来ない......貴様はどうする? このまま死ぬか平穏な生活を脅かした者へ復讐と彼女との生活を送るか......」



 俺の中で答えは決まってる......ヨルを1人にしておけない。

 俺と同じ一人ぼっちのアイツに何かあったらたまったもんじゃないし俺も殺した奴に恨みはある━━。



「行きますよもちろん。それで......ヨルはどんな願いを言ったんですか?」


「......それは言えない決まりだ。だがしかし一つ問題があってな、普通なら無念に死んだ人間が次の世界で快適に過ごす為に一つだけ願いを叶えるのが我の仕事の一つなのだが......。彼女の願いを叶える為に膨大な力を要したためセットで死んだ貴様の願いは叶えられん」


「叶える前から俺の願いな却下された!? ていうかヨルの俺セット品扱いなんだ......無惨に殺されたのは変わりないのに━━」


「仕方ないだろう? それに貴様の心を覗いたらあのヨルとやらと"健康な毎日を送りたい"しか出てこなかったんだから......」



 太めな女神は油でテカる汚い指を俺に差しながら偉そうに喋る。



「そんな......」


「まぁいい、貴様にはその分2つの"才能"を与えてやる」


「......才能。一体どんなものをくれるんですか?」



 こういうのはアニメで大抵見たことある......。

 大体が神から祝福された力で、異世界に行けばそれを使って無双出来るようなチートスキルだ。

 恐らくこの俺にも復讐を達成させてくれる為にすごいスキルを用意してくるんだろう━━。



「それはな......










 "健康"と"丈夫な身体"だ━━」




「......ハァ?」


「おっ! 良いリアクションだな、最近流行ってるよねそれ。やはりお前は猫好きか━━」


「いやそうじゃねーよ! なんだよドヤ顔で健康と丈夫な身体だ━━。って! そんなおみくじに書いてありそうな才能でどうやって復讐しろってんだよ! 活躍どころかスライムすら殺されるわ! お前頭ん中ジャガイモで犯されてるんか!? こんなところで引きこもってないでちょ○ザップにでも行ってだらしない身体を引き締めてこい!」


「きっ......貴様ぁぁ......! 女神である我に対してなんたる口の聞き方を......! 健康と丈夫な身体を無礼舐めるなよ!? 健康女神診断で毎回引っかかる我からすれば喉から手が出るほど欲しい才能なのだぞっ!」


「羨ましくねーよ! 健康になりたいならまず手に持った汚ねぇ袋を捨てろ! 最悪な女神主治医に当たっちまったよクソっ!」


「仕方ないだろう!? 与えられる才能は学歴によって決まるんだっ! そんなに言うなら答えてみろ! 貴様の最終学歴はなんだ! ハッキリ言え!」


「っ......! 自動車学校です......」


「それ学歴じゃねーから。貴様は中卒だろ? だからそれに見合った才能を与えたんだ」


「ふざけやがってぇ......中卒バカにすんなよ! こっちだってまともな両親と生活さえあればもっと高い学歴を得られたんだ! 少し前の浜崎あ○みみたいな体型してる癖に偉そうなこと抜かすな!」


「なっ.....! ま......まぁ良い......確かに世の中学歴だけで決まらないもんだ。まともに学校を出ていない人間でも世界を動かすほどの能力を発揮している人間も多く存在する。それと同じく貴様の能力も使い方次第で強くなれるというもの......かもしれん━━」



 女神はキリッとした顔で椅子の肘掛けに肘をつけながら指を組み、俺をじっと睨みつける━━。



「......いやそんなカッコつけて言ってるけど絶対強くないだろ! スキルガチャもう一回させろよ! こんなの不公平だ! 魔剣寄越せ! 大賢者寄越せ! 最強のスライムに転生させろ!」


「うるさぁぁぁぁいっ!!!! いいから早よ行けやお前は! こっちは今Ne○flixのシティー○ンター観てたんだ! 我の憩いの邪魔すんな! シッシッ!」



 悪態をつく女神は油ぎった手を天に向けると、俺の目の前に純白の光が現れ俺を包みこむ━━。



「ちょっと! まだどこの異世界か聞いてないんですけど!? 日本語は通じるの!? Tik○okとかあんの!? 出先で俺は何すればいいの!?」


「手短に説明してやる......貴様が行く世界は魔王軍いる強力な魔人や魔物が人間を支配する世界で、人間など簡単に殺されてしまうんだ。そんな世界に存在する勇者一行は魔王達から人間を救う為の救世主として最高の戦闘力を秘めており人類唯一の希望と崇められている。そして異世界から来た者はその強力な力から必ず勇者パーティに入り一緒に旅をする事が決まってるんだ。お前は勇者と共に魔人や魔王を倒しつつその世界の何処かに潜むお前の復讐相手をその手で殺せ......!」


「嘘だろ......健康な身体だけで魔王を倒せってのか!? ふざけんなよブタ女神! ここはアニメでも小説でもない現実なんだ! ちっとは物事を考えてくれよ!」


「だぁぁまぁぁれぇぇぇぇっ! 我にそんな口を叩くからそんなしょうもない才能にさせられたんだお前は! せいぜい理不尽な目にあってこい!」


「ふざけんな! 魔王を倒したらついでにお前もぶっ飛ばしてや━━」



 俺は光の眩しさに目を閉じ、意識を手放した━━。



「あ......ヤバっ! あの小僧との喧嘩に夢中でアイツに魔力与えるの忘れてたわ......。まぁいっか!」




 そして女神の元に一枚の紙がヒラヒラと落ちる......。


















「これは健康と丈夫な身体の仕様書......。えっ? アイツに与えた才能完全にミスったかも━━」

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