飼い猫と共に異世界転移した俺の役割はサンドバッグでした 〜勇者パーティ最弱と罵られた男は過酷なイジメによるパーティ追放後最強となる〜

くじけ

第1話 碌でも無い異世界転移


 俺は平凡に暮らしたかった......ただそれだけなのに━━。



「おい武尊タケル! そこの手押し車ねこ車持ってこいっ!」


「はーい! すぐに持ってきます!」



 俺の名前は砂藤武尊サトウタケル、工事現場で働く16歳の男だ。

 なぜ16歳が高校にも行かず工事現場で働いてるかって? 細かく説明すると長くなるから省くが俺は物心が付く前に借金のカタとして両親に捨てられ、今俺に手押し車を頼んだ横島 吾朗ヨコシマ ゴロウという強面ヤクザのおじさんに拾われた。

 そして今はその怖い人の元で働かされている━━。



「持ってきました!」


「ったくおせーよお前は! 周りの状況を見てしっかり動け馬鹿野郎!」



 ゴツンッ!



 ヘルメットの上から頭を叩かれる俺。

 痛くはないがヘルメットを叩く音は結構うるさくていつもびっくりする━━。



「すみません......」


「まぁ良いさ。お前は最近の奴と違って骨がある、これでも俺は期待してるんだ......頑張れよ」


「はい! それより吾朗おじさん......腰は大丈夫ですか?」


「え? あ......ああよく分かったな。最近家で腰痛めちまってよぉ......」


「やっぱり......顔も顔面凶器でおっかないし無理しない方がいいですよ?」


「そうそうそう、俺の顔は小沢○志......ってちゃうわボケッ! ったくお前くらいだよ俺にそんな達者な口叩くのは! まぁまた今度マッサージ頼むわ」


「はい! じゃあ戻りますね」



 俺は再び自分の持ち場へと戻ると、入れ替わるように俺の先輩従業員(怖い人)が吾朗おじさんに近寄る━━。



「吾朗さん、アイツも役に立つようになってきましたね。借金のカタとして拾ってきた割には優秀ですよ」


「ああ......いい子だよアイツは。たまに生意気だけどな」


「はははっ......確かに。そう言えばこの前別会社のトラックに跳ねられそうになったウチの若い衆を助けたのアイツですよね? みんなが気がついた瞬間にはもう助けに入ってたって━━」


「ああ、その後すぐ転んで怪我してたけどな。アイツはさ......女みてぇな見てくれで如何にも弱そうなのに昔から動体視力だけはすげぇんだ。アイツが子供の頃走ってる新幹線を駅から見せてたら中の人が何してるか全部俺に教えてくれたり、ある時は飛んでるハエを箸でパッと捕まえたり、とにかく普通じゃねぇ」


「えぇっ!? それって子供がよく言う嘘じゃないんですか? さっきだって吾朗さんに叩かれてたし、ハエだって偶々じゃ......」


「いや......それがそうでもないんだよ━━」



*      *      *



 終業後━━。


 帰り道の歩道では散った枯葉がアスファルトの色を黄色に染めている。

 また寒い季節がやってくるのか......と少し嫌な気持ちを浮かべながら秋風で木々が揺れ、夕焼けに染まる道を歩いて俺はいつものようにボロいアパートへ1人で帰る━━。



「ただいまー」



 ドアを開けるとワンルームのリビングの奥から鈴の音を響かせながら俺の家族がヒョコヒョコとこちらに向かってくる━━。



「ミャァ......」


「おーよしよしヨル......いい子にしてたか?」


「グルル.....ミャァ」



 座って撫でる俺の頬をスリスリしながら喉をゴロゴロと鳴らすのは俺が飼っている唯一のメスの黒猫家族だ。

 


「ほーら、お前の大好きなマグロを買ってきた。焼いてやるから待っててな」


「ミャァ......」



 ヨルは俺が小さい頃両親に突然捨てられて帰る家も無くなり滅多に人が来ない寂れた公園を夜に彷徨っていた時、公園の段ボールに捨て猫として子猫の状態で放置されていたのを俺が拾った。

 そして何日か公園で過ごしている時に吾朗おじさんが借金のカタの俺を見つけて今のボロアパートにこの猫と一緒に住むことになった━━。



「あれからもう10年近く経つのか......早いなぁ......」



 俺はヨルの分のマグロを焼きながら色々な事を思い返す━━。


 両親はなんで俺を捨てたんだろう......。

 やっぱり小さい子供は逃げるのに邪魔だったのか......そもそも俺は2人にとって要らない子だったのか......?

 いや待て、今思えば両親に捨てられたのもヨルと出会う為だったんだ......それにおじさんも。

 そうだそうだ! 今はポジティブに考えよう!


 そんな事を考えていると何やら焦げ臭い匂いが部屋に漂う━━。



「ミャァ......」


「あっ......! やっちまった!」



 そこには黒焦げになったマグロの切り身がフライパンの上で有害な煙を発していた。



「これは俺が食うしかないか......もう一回焼くから待っててくれな、ヨル━━」


「......ゴロゴロ」



 俺は再びマグロの切り身を焼いて冷ました後、ヨルの皿に置いて自分もご飯をよそった。



「いただきまーす」


「ミャァミャァ......」


「......お前タイミング良いな、もしかして日本語理解してるのか......?」



 ヨルは俺の冗談をスルーして尻尾をフリフリしながらモグモグとマグロの切り身を頬張る。

 


「なわけないか......うえっ......! 焦げマグロ苦っ!」



 俺が焦がしたマグロを我慢しながら食べていると━━、



「ウニャ.....」



 ヨルは俺に自分が食べていたマグロの切り身を口に咥えて俺が食べているコタツテーブルの上に置いた。



「ありがとう......! お前は優しいなぁ......」



 俺は黒く輝く毛並みに沿ってヨルを撫でるとグルグルと音を立ててその場でモシャモシャ嬉しそうに動いている。



「さて......そろそろ風呂に入るか」



 俺は明日に備えて風呂などを済ますとヨルと共に布団に入り、スマホでショート動画や今日のニュースなどを見る。


 そして瞼が重くなってきた時━━、



「シャァァァァッ━━!」



 突然ヨルが今まで聞いたことのない唸り声を上げる。

 すると居間の真ん中から突然赤色の光が俺を照らし、その光から黒ずくめの人間が突如として現れた━━。



「誰だ......アイツ......!」


「シャァァ......」



 するとその黒ずくめは威嚇するヨルに黒い刀を向ける━━。



「コイツか......。まあ良い、これでやっと戻れる━━」



 奴が刀を振り上げた瞬間をスローで捉えた俺は、咄嗟にヨルを抱えて布団から飛び出し玄関に走り出す━━。



「なんだあの黒の組織みたいなヤツは......どうやってこの部屋にやってきた......!? 俺は灰原じゃねぇぞ!」


 

 頭の中は混乱してグルグルと思考が迷走する。

 アイツはなんなんだ? まるで異世界アニメのような登場をしたかと思えば突然俺を殺しにきやがった......とにかくあんな危ねぇヤツからは逃げ━━、



 ザシュッ......!



「ぐぉ......! なん......で......」


「逃がさない......」



 俺の背中に激痛が走る━━。

 下を見ると黒い刃物が俺を貫通し、不幸なことに抱えていたヨルも刀の餌食になっていた。



「ヨ......ル......」


 ヨルは倒れ込む俺の手から離れ、苦しそうにしながら俺の顔を舐める━━。



「こんな時まで俺の心配を......ヨル......お前だけでも逃げ......」



 そんな声も届かずその黒ずくめの人間はヨルを乱暴に持ち上げる━━。



「この忌むべきモノめ......死ねぇっ!」


「や゛め゛ろ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛っ━━!」



 ザクッ......!



 再び刺されたヨルはソイツから無惨に放り捨てられ、倒れている俺の背中に叩きつけられる。



「なんなんだよ......お前......。ヨル......大丈夫.......か......」


「ァァ......ミャ......ァ......」



 背中からずるりと落ちたヨルは少しだけ前足を動かしながら俺に縋ろうとする。

 だがそれを最後にヨルは力尽きてもう2度と俺に甘えた声で鳴いてくれる事はなかった━━。



「ヨル......うぅっ......お前は......許さない......! 俺のたった1人の家族を......この恨みは必ず......!」


「ふん......お前も仲良く冥府に送ってやる......」



 ザシュッ......!



 スローモーションで見えた刀の波紋を最後に俺の意識は真っ暗な世界へ放り出された━━。

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