【探索の時代】英雄の軌跡 - 前編
――種族――
人・エルフ・獣人・ドワーフ・魔人の大きく5つに分類される。
5つの種族から更に分類できる場合もある。
――――――
アトリエでは、紙上を走るペンの音のみが小さく響く。
この日も、ティルシアは新しい神器のデザインに没頭していた。
一つ作業を終え、また次の小窓を覗き込むと一人の冒険者が山間の道を歩いていた。
ティルシアはその光景を静かに眺め、集中する。
すると山を抜ける風の音とその冒険者の足音が聴こえてきた。
「剣が何をするのか、か…」
ふとセレネアの言葉を思い出した。
ティルシアの眼差しの奥には、何かを探るような鋭さが宿っていた――。
セルメノ王国の山岳地帯は険しい岩々と自然が連なり、その間には時として風が唸りをあげ、木々がざわめく。
冒険者のウーは、ただ孤独に道なき道を進んでいた。
その大きな背には大剣が見事に収まっており、彼の歩みに合わせてわずかに揺れ、鈍く光る。
黒くくすんだ毛並みを持つ狼の獣人であるウーは、その周囲の厳しい自然と対峙するかのように、一歩一歩を力強く踏みしめていた。
彼の瞳は、道に隠れた罠や獣の通り道を警戒しながらも、未知の遺跡を求める好奇心を宿していた。
ウーの存在感は、彼が通る道すがらの小動物たちを静まり返らせ、時には小鳥たちが驚いて飛び立つ原因となるほどだ。
しかし、彼自身はその自然の反応にも動じず、ただ自分の目的に向かって堂々と進んでいくと、ウーの耳にせせらぎの音が届いた。
「水場か」
少し立ち止まり呟いた彼は、周囲を見渡す。
彼は水を求めてその方向へと進み、見つけた小川で手早く水筒を満たす。
この水が、彼のこれからの長い探索において、貴重な生命の源となるだろう。
ウーは再び背負った大剣を確認し、一息ついた後、再びその大きな体を動かし始めた。
ウーが再び足を進めたその先に、目を引く異変が彼の探求心を刺激した。
石と土の間からほんの少し突き出た古びた石彫りの一部が、彼の好奇心を惹きつける。
山岳地帯の険しい道を歩き続ける中で、彼はこの微かな手がかりを見逃さなかった。
石彫りは明らかに人工的な手つかずのものであり、自然が長い年月をかけて覆い隠していた遺跡の入口を示しているかのようだった。
彼は軽く息を吸い込みながら、大剣を背中にしっかりと固定し、石彫りを掘り起こし始める。
手を動かすたびに、次第に土砂が取り払われ、一つの小さな入口が現れた。
これがまさに彼が探し求めていたもの—―遺跡の入り口だ。
ウーの目は輝きを増し、彼は一瞬たりとも躊躇うことなく、狭い入口をくぐった。
内部は薄暗く、幾つかの壁画が燭台の残骸に照らされている。
彼の大きな足が静かな遺跡の床を踏む音は、長い沈黙を破り、彼の周りに反響した。
この場所が長い間、訪れる者がいなかったことを物語っている。
慎重に奥へと進むにつれ、ウーの目前に広がるのはさらに壮大な構造物の跡。
古代の建築の巧みさが、壁に刻まれた細かな彫刻や床に埋め込まれた複雑なモザイクタイルから伝わってくる。
しかし、彼の注意を引いたのは、遺跡の至る所に置かれたゴーレムの残骸だった。
「ゴーレムか…もしや、啓蒙の時代の遺跡か?」
その姿は、かつての戦いの激しさを物語るものであり、ウーはその光景に畏敬の念を抱く。
彼はこの遺跡が単なる遺構ではなく、かつての偉大な戦いの場であったことを感じ取ったのだ――。
ウーが遺跡に入ってしばらくした後、遺跡の入り口に近づく影があった。
「俺も運があるんだか無いんだかわからねぇなぁ。」
ぼやきながら冒険者オゥロは山道を駆け下りる。
彼の目的地は数日前に発見したが、準備のため一度町に戻っていた遺跡の入口だった。
太陽が山の稜線に沿ってゆっくりと沈む中、彼の顔には焦りが浮かんでいた。
遺跡の入り口を発見した時、彼はその価値を直感的に理解しており、その場で探索を開始したかった。
しかし、物資がおおよそ万全と言える状態ではなかったために町へ戻る必要があったのだ。
町での準備を終え、彼は遺跡への再訪に急いでいたが、その心配が的中する。
遺跡の入口に到着すると、掘り起こされた入口が目の前に広がっていた。
明らかに誰かが彼の不在中に遺跡に侵入したのだ。
「くそっ、遅かったか…」
口から思わず漏れた怒りの言葉と共に、オゥロは大きく息を吸い込み、冷静さを取り戻そうとした。
彼の目は瞬時に入口の周辺を観察し、新しい足跡を見つけると、まだ侵入者は遺跡の中にいると確信した。
「足跡がでかいな、獣人か?」
オゥロは周囲を警戒しながらゆっくりと入口へと進んだ。
彼は油断なく武器を手に持ち、静かに遺跡の奥へと進む。
入り口付近にあったものと同じ大きな足跡が、砂埃を踏み固めながら深く刻まれている。
遺跡内は薄暗く、冷たい空気が息を白くさせる。壁の灯台はすでに誰かによって点火されており、一定の間隔でぼんやりと光を投げかけていた。
オゥロは常に風向きを意識し、自分の体臭が遺跡の奥、獣人に届かないように位置を調整する。
遺跡の神秘と危険が交錯する中、彼の心は戦いの準備でいっぱいだった――。
一方、遺跡の大広間に辿り着いたウーは、壮大な景色に圧倒されていた。
彼が立つ広間は、ここが地下であることを忘れさせるかのような高さがあり、部屋の中央には巨大なゴーレムの残骸が静かに横たわっている。
このゴーレムは、かつてこの地を守っていた守護者であり、今はその役目を終え、時間の流れに身を任せているかのようだった。
ウーの瞳がゴーレムの巨体を詳しく観察する。その胸部には大きな核が埋め込まれており、かつての力の源だったことがわかる。
核は微かに光を放っており、まだ何らかの力が残っている可能性を示していた。
ウーは大剣を手に核に近づき、それを取り出そうとした。
その瞬間、彼の鋭敏な耳が背後からの微かな物音を捉える。
誰かが彼に近づいている、それも慎重に、しかし確実に。
ウーは素早く振り返り、大剣を構える。
そこには、ウーを追いかけやってきたオゥロの姿があった。
彼の目は冷たく、しかし戦いの熱を帯びてウーを見据えている。
二人の間には緊張が走り、その静寂を先に破ったのはオゥロだった。
「その核、先に見つけたのはあんただが俺に譲っちゃくれねぇか?」
オゥロの声には強い要求が含まれており、彼の目は確固たる決意を示していた。
その声は遺跡の空間に響き渡り、ゴーレムの残骸の間を反響した。
ウーはオゥロの言葉に一瞬の沈黙を守った後、大剣を胸の前で固く構え直し、眉をひそめて反応する。
「すまないが、譲るわけにはいかないな。」
ウーの声は冷静だが、その目は戦いの準備が整っていることを明確に示していた。
オゥロはウーの返答を受け、再び口を開く。
「まぁそうだよなぁ…きれいに割って半分こってわけにもいかねぇよなぁ…」
オゥロの表情が一瞬にして硬くなり、彼の目の輝きは一層鋭さを増す。
彼は軽く首を振りながら、剣を構え直し、ウーに向かって一歩踏み出した。
「なら、力ずくで奪うしかねぇか…」
彼は手に持っていた武器、長く鋭い剣を軽く振りながら構えた。
その動きは熟練した冒険者特有のもので、彼の全身からは戦闘への準備が伝わってきた。
二人の間に張り詰めた空気が流れ、次の瞬間、遺跡の静寂が破られた――。
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