第3話 誕生

 どうも、皆さんこんにちはみんなのアイドル(になる予定)の佳奈です!私は今、世界的大発見をしました!


 ですが残念ながらそれを発表しても証明する手段を持ち合わせていません。だって体験しただけですし。残念です。ひっじょ~に残念です。


 それで肝心の世界的大発見なんですけど、それは……胎児に魂が宿るのは16週を過ぎた当たりだということです。魂が宿るには生物としてある程度形になっている必要があるみたいですね。


 男女の因子が結び付いただけでは魂の器としては未完成で器の完成まで16週程かかる、これが今回私が発見したことの概要です。この過程を経て生物は理性を得るのだと私は仮説を立てました。


 まぁ検証するつもりはサラサラないんですけどね。時間にゆとりがあり、暇を享受しながら様々なことを考える。そしてそれが学問に繋がっていく……真理ですよね。


 何も自分を縛るものがないからこそ好きなだけ、自由で柔軟な発想で物事を考える。私は今古代ギリシャ人の気持ちを体感してます。


 つまり今の私のマインドは古代ギリシャ人!精神面はソクラテス、プラトン、アリストテレス!そう!今の私は古代ギリシャの偉大な哲学者なのだよ!


 何故私が今こんなくっだらないことを考えているかというと……


 そう、くだらないんだ!今考えていることは!でも他にすることねぇんだもん。生まれてからどうするかとか結構真面目に考えてたんだよ?私も。


 でもそんな集中力って続かないじゃん?それでどんどん思考が脇道に逸れて行った結果なんかいつ魂が身体に宿るかっていうスピリチュアルなことを考え出しちゃってさ。


 全部24週間が長過ぎるのが悪いんだ!そんなに狭いところに監禁したいなら暇つぶしに使える道具を用意しろよ!


 合間合間に大人しく寝て過ごしたりもしたんだけど母数がデカすぎて残り時間が減った気はしないし……


 することないしいっぱい寝るぞー!とかも私考えたんだけど私は連続で12時間寝るのが限界だから寝続けるのは難しい。


でも計24週間を何もしないでただぼーっとして過ごすなんて無理だからこんなクソほどの意味もないことを考えてるってわ……けよ。


 眠くなってきたから1回寝るわ。じゃあおやすみなさ~い。


 なんやかんや(胎教の一環としてクラシック音楽を聴いたり、私の動きに一喜一憂するお母さんの声を聞いたり、私を産むために痛みを必死に耐えるお母さんの強さと愛情を実感したりが)ありまして~


 "私、爆誕!!"


 どうせつまらんからなんやかんやの説明は割愛するぜい。だって私としてはそこそこ充実してたけど言語化すると内容が薄っぺらくなるから私の所為でお母さんとの大切な時間がつまらなくなっちゃうのは嫌だからさ。


 異世界とかだったらね。胎児の頃から魔力を鍛えて……みたいな見栄えが良いのもあると思う。ラノベとかでよく見るでしょ?え?見ない?嘘でしょ!?まぁそんなことはどうでもいいんだ。


 ここ日本だぜ?私胎児だぜ?何しろってんだよ。フィクションじゃないの。ノンフィクションなの。そうそう見栄えのいい出来事なんてないの。お分かり?


 というわけで私はついに第2の人生をスタートをした訳ですよ。はい、拍手~


 え~改めまして、私の第2の人生の脳内実況はですね。私、佳奈が勤めさせていただきます!リアルの私は泣いて食べて寝ての繰り返しなもんでつまらないと思うのでね。要所要所で状況把握も兼ねて実況しつつ今後の計画を整理しつつといった具合ですかね~。


 今更といえば今更なんだけどさぁ。私の独り言の多さにはつっこまないでね。やっぱりさぁ、一人の時間が増えて人と話さなくなると独り言が増えちゃうんよ。


 もう独り言が多い状態に慣れちゃったからたぶんずっとこのままだね。別に口に出してるわけでもないし、脳内で喋ってる分には誰にも迷惑かけてないしモーマンタイ!


 そう、私は誰にも迷惑をかけていないのだ!だからツッコミも同情も私は受け付けま~せん!はい、この話終わり!次行こ次!


 あ、そうそう!今世の両親の話してなかったね。まず母親!意識ない。私を産んだ段階で衰弱してたからね。


 力を振り絞るように私のこと抱き上げてくれたんだけどさぁ。これが母親ってやつなのかと本能的に理解したよ。


 ただ抱っこされてるだけなのに安心感があった。前世の親は生みの親ではあるけど親っていう概念的なそれではなかったんだって。


 今世の母親……いや、お母さんはとても温かかったなぁ……


 次に父親!何か私にそこまで興味無さそうだった。自分の妻のことが大好きなんだろうなって。私の扱いとしてはあくまで妻が大切にしているものって感じ。


 妻にとって大切だから大切にしてるって消極的な感じと言えばいいのかなぁ。あ゙ァァァ言語化ムズい!


 もうヤダ疲れた!私は寝る!赤さんの仕事は寝ることだからね!おやすみなさ~い。


 あ、そうそう名前名前!名前の紹介しないと!今世での私の名前は結衣ゆい一ノ瀬 結衣いちのせ ゆいだよ!


 それでは私が温めていた計画を発表しようじゃないか!その名も「おじいちゃんおばあちゃんっ子計画(以下 例の計画)」だ!計画名にもある通りおじいちゃんとおばぁちゃんに全力で媚びを売るのがこの計画の肝だ。


 今はまだいいがお母さんがいなくなった後、父親のことを頼ることは出来ないだろう。


 そうなると何が問題となってくるかというと、私の前世からの夢であるVTuberになるための初期費用だ。とりあえずパソコンさえあれば何とかなるんだけどなぁ……


 日常生活で使うならともかく配信で使うとなると要求されるスペックが高い。その分コストがかかってしまう。となると私に大した愛情のない父親ではなく可愛がってくれている祖母にお願いするのが1番なんだよね。


 というわけでおじいちゃんおばあちゃんっ子ルートに入るために好感度稼ぎ中。


『結衣ちゃ~ん!来たわよ~ばぁばだよ~』


《じいじだぞ~》


 よし、おじいちゃんおばあちゃんが来た!笑顔笑顔!笑顔を片時も絶やすな!赤さんの笑顔はおじいちゃんとおばあちゃん特効なんや!孫煩悩にしてしまえばこちらの勝ち!

 

「キャッキャッキャッ」


《結衣は可愛いなぁ~》


 よぉ~し!お、定番のアレしようとしてるな!おじいちゃんがゆっくり近づけてきた人差し指を~ギュッ


《わ、わしの指を握ったぞ!ばぁさんばぁさん!どうだ!羨ましかろう( ˶ ᷇ 𖥦 ᷆ ˵ )ニヤニヤ》


 ふっチョロいな。リップサービスでおじいちゃんの人差し指をニギニギしてやろう。おばあちゃんもおじいちゃんに対抗して人差し指近づけてきたよwwwはいはい、握るからね~ギュッ


《わしの指をニギニギしとる!ニギニギしとる!可愛いのぉ~》

 

『じぃさん、私の人差し指も握ってくれましたよ。』


 平和だなぁ~こんな日々がずっと続いたらいいのにな……


 でも私は知っている。近くお母さんが死ぬことも……それによって私と父親の溝か決定的なってしまうことも……


 私はお母さんのことが大好きだ。


 私はおばあちゃんのことが大好きだ。


 私はおじいちゃんのことが大好きだ。


 精神年齢はお母さんより年上だし、なんならおじいちゃんおばあちゃんよりも上だ。


 それでも……前世の家族が私にくれなかったものをいっぱいくれた。


 私の精神年齢が身体年齢に引っ張られているというのもあるのだろう。


 そんなの関係ないとは言わない。それでも私はみんなが大好きで……そんな大好きな人たちを私は失いたくない。


 お母さんの容態が悪化の一途を辿る今、それが不可能だと分かっていても……運命だとしても……大好きな人たちが生き続けることを祈らずにはいられなかった……

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