第4話 別れと成長
(お母さんが……死んだ。私を産んでから衰弱しきっていたからいつかこういう日がくることは分かっていた……分かっていたはずだった……なのに私の脳は理解を拒む。
精神が成熟しているとはいえ徐々に身体年齢に精神年齢が引っ張られつつある私が背負うにはあまりにも重いその事実を受け入れることが出来ずにいた……)
母親の温もりを知り、愛を知ったばかりだった……その点においては前世の記憶がある私といえど普通の赤子と何ら変わらなかったのだ。
(それでも私の中の冷静な部分が今後について考え始めていた。もう父親は当てにならないからだ。「お母さんという私と父親を繋ぎ止めていたものはもうない。もう自分で何とかするしかないんだ」と……
父親に万が一捨てられた時のためにいろいろ計画を立てていた私だったが、その計画は全て水の泡となってしまった……
こう言うとあたかも上手くいかなかったかのように聞こえてしまうがそうでは無い。父親……いや健二が最低限私を死なせないように実家に預けたのだ。こうして、私は何もしないまま祖父母の元で生活することが決まったのだった。)
祖父母の家で生活するとは言ってもあくまで私の実家は両親の家だった。私の一日は毎朝、祖母に私を迎えに来てもらうことから始まる。それから祖父母の家で過ごし、夕飯を食べて家まで送ってもらうという流れだ。
(正直祖父母には迷惑をかけたくない。できるだけ大人しくして……あ、私赤さんだから何も出来ないんだった……
大人しくお世話されるしかないのかぁ。赤さんとしての私はなされるがままの今を良しとするが大人としての私がそれを拒絶する。拒絶したところで私に出来ることなどないのだが……
今の私に出来るのは笑顔を振りまくことと、夜ぐっすり寝ることだけだ。夜ぐっすり寝るのは意外と大切だったりする。
夜泣きはきつい。前世で妹が高熱で寝込んだ時姪っ子のお世話を数日間したそとがあるのだが、あれがあると全然休めないのだ。
赤ちゃんが泣いたら必ず起きなければいけない。気付かず寝過ごすなんてことは有り得ないのだ。
あーだこーだ言ったものの何も出来ない私は大人しくミルクをもらい、オムツを交換され、寝かしつけられるしかない。早く大きくなりたいものだ……
今のままじゃVTuberになるために動き出すことも出来ない。今の身体に慣れようにもこの貧弱極まりない身体では負担が大きすぎる。
幼少期の過度の負荷が成長にどんな影響を及ぼすか分からない以上大人しく待つしかない。ひっじょ~に不本意だけどね。)
今日こそ……歩くんだ!
祖父母の愛情を一身に受けてすくすく育ち、誕生日を1ヶ月後に控えた今日もまた一人で歩く練習をするのだった
(2人のどっちが見てる時に1人歩きの練習しようとすると止められるんだよなぁ……だからこっそり練習をしないといけない。それがちょっとめんどう。
可愛がってくれて心配してくれてるのは分かるんだけど私もうすぐ1歳になるんだしそろそろ歩いてもいい頃なんだけど……
誕生日にパソコンおねだりしようと企んでたりもするから、デジタルでのV体制作に向けて赤さんらしくお絵描きしてるフリしてガチイラスト描いたりもしてるんだけど現状活動範囲が狭すぎる。
だからそろそろ歩けるようになりたいんだけど……あんまり上手くいってない。今はタイミングを見計らいながらひたすらにつかまり立ちからの一人歩きへの移行に挑戦している。
まぁこれが疲れること疲れること。普通の赤ちゃんにはあるけど私にはあるものが欠けているから尚更しんどい。ちっちゃい子ども特有の無邪気さという名のスタミナバフ。これがない分きついんだよね。
ちっちゃい子は楽しい楽しいアハハハハハッで脳内麻薬ドバドバ出せるけど私の成熟した精神では無邪気に楽しんで脳内麻薬出せないからなぁ~
何はともあれ私は歩くんや!こんなところで弱音を吐いてる時間などない!某バレー漫画の坊主の先輩も言ってた。平凡な私には下を向いている暇なんてないんだ!
私に才能なんてない。あるのは人生一回分の知識と経験だけ……才能のある者はこんなの簡単に飛び越えていく。下を向いて歩みを止める暇も、このアドバンテージに胡座をかく時間も私にはない!
だから私は常に全力で足掻き続けなければいけない。よっしゃ!もう1回頑張りますかねぇ。)
「1・2・3!フッ!よいしょ……よいしょ……よいしょ……よいしょ……あ、あ、歩けたァァァァァァ(´°̥ω°̥`)」
(よ~し!あとはVTuberとしての肉体を作るのに向けてひたすらイラストのクオリティを上げるだけだな!歩けるようになって活動範囲が大幅に拡大した今の私は無敵だァァァァ!描くぞ描くぞォォォォ!!)
「今なら差分をいくらでも描けるぜェェェェ!」
その日の私はめっちゃ描いた。死ぬほど描いた。ひたすらに描いた。何をそんなに描いたかと言うと、表情、動き、衣装の差分に加えて私の成長過程の差分も描いた。もう、完璧だと思う。後は誕生日を待つのみだ……
(私は……ついに!1歳になりましたァァァァ!はい、拍手~(パチパチパチパチッ)
誕生日会?そんなのどうでもいいんだよ。おじいちゃんおばあちゃんが一生懸命飾り付けとか豪華な料理とかしてくれたからめっちゃ嬉しかったし、私の生まれた日をこんなに祝福してくれる人がいるのはありがたい。だから私にとってめちゃくちゃ大切な思い出だよ。
大切なんだけど……なんだけど……今はそれどころじゃないんだよ!
だって……だって……これから誕生日プレゼントを買いに行くんだよ?つまり、前々から企んでいた「しれっとパソコン買いに行こう大作戦」の決行日!
そんな重要な日を前にして冷静でいるなんて無理に決まっているでしょうよ。夢への第一歩だよ?興奮するよ!寝れないよ!遠足前日の小学生かってくらい寝れなかったよ。自分で自分にびっくりだよ。とまぁそんなわけで今目がしょぼしょぼしてる。)
おばぁちゃんが買い物行ってる間おじいちゃんと留守番をしているように言われて不満そうな顔をしている時におばあちゃんが言った「1歳になったら一緒にちょっと遠出しようね。」という一言で誕生日の次の日に誕生日プレゼントを買いに行くことが決まったのだが……
(そんな留守番を嫌がって不満を表情で伝えるってやっぱり無意識に年相応の反応をしちゃってるなぁ……
今更なんだけど配信用PCを買ってもらおうとか私調子乗りすぎじゃね?安くても十数万するものを1歳の誕生日?私調子乗りすぎたかもしれない!
言うだけタダタダ!あと、今どきおもちゃとかゲームってかなり高価だしパソコンも大差ないっしょ!
知らん顔しておもちゃ屋さんじゃなくてドス〇ラに誘導してやったぜ!おじいちゃんおばあちゃんがめっちゃ戸惑ってるけど知らん!
フッフッフ……私はこの時のために歩けるようになったのだよ。有無を言わさずPCショップに入るためになぁ!後は家で呑んだくれてる父親のパソコンで事前に調べて決めたパーツを回収してからの……上目遣いでおねだりだァァァァ!!)
「おじいちゃん、おばあちゃん……私これ欲しいんだ。お願い!買って?もう今後おねだり何かしないから!」
『う~ん……』《う~む……》
これはもう一押しか?
「お願いします!」
『《わかった!》けどほんとにこれでいいの?』
「うん、これがいいんだ!私、VTuberになりたいんの!だからパソコンが必要で……だから私頑張って作るの!」
《わしにはよく分からないが結衣がそう言うなら応援してるからな。何か困ったことがあればいつでも相談しに来るんだぞ!》
「うん!」
(私の……)
(わしの……)
((孫娘は天才なのかもしれない!いや、そうに違いない!))
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