2 出張先は、モノホンの地獄でした。
ーー分け入っても 分け入っても 青い山ーー
とは、まさにこのような状況のことを言うのだろうか。
(汚島先輩の教えてくれた会社って、本当にこんな山奥にあるのかなあ。)
(マルカって、なんかイルカみたいで可愛い)
のんきにそんなことを考えるが、楽器ケースが傷ついてしまいそうで、徐々に不安になってくる。(いやいや。今日のプレゼンで、絶対我が社の推すトランペットをお取り寄せしてもらうんだ・・・・・・!)
ポジティブさが取り柄の
もう10分ほど奥に進んでいくと、ようやく会社らしき建物が
「やったー! 私、ついに辿り着けたんだ‼︎ 」
安堵感。それと達成感。気がつくと、声を上げて喜んでいた。
さびれた看板には、かすかにだが「
が、一階はがらんとしていて誰も見当たらない。
(あれ? 指定時間合ってるはずなんだけどな)
勝手に上階へ行ってしまうのはいかがなものかと思ったが、この会社の人たちは忙しいのかもしれないし、こういうときは行動あるのみだ。
自分で赴くほかない。
3階かな? いない。
5階まで行って、ようやく中からがやがやとした声が聞こえてきた。
・・・・・・人はたしかにいるはずなのに、誰も扉を開けようとしてくれない。
(失礼とか、今はあんまり気にしなくてもいいよね)
バァン!
ついに扉を開かせる。思ったよりも大きな音が出て、びっくりしてしまった。
なぜなら部屋の中は、ビリヤード場のようになっていたからだ。
(会社に遊戯場があるってすごい! 社長さんがお金持ちなのかな? )
がやがや声が、今度はひそひそ声に変わる。
どうやら、
意志の強そうな太眉。後ろで結われた金の髪。
(すごい。よく見ると、まつ毛がとっても長い!)
部屋にいる男たちの中で1番リーダーらしき人がこちらに向かってくる。
ーーお前、誰?
その場が一気に静まる。
「申し遅れました! 私、ヒマワリ楽器店の
男は一気に怪訝けげんそうな顔になる。
だが今の陽はるには、そんなことを気にしていられる余裕などなかった。
(演説において、聴衆の沈黙はチャンス・・・・・・。どこかのお偉いさんも言ってた! )
もはや念仏のよう繰り返して、ざわめく心を必死に落ち着かせようとする。
意を決して、陽はるはヒマワリ楽器店一推しのトランペットのプレゼンを始めた。
楽器の高らかな音色。きらめく真鍮の材質の良さ。そして何より、あのイタリア製のマウスピース。
(ああ、なんて綺麗なんだろう。学生の頃はこれをすごく欲しがっていたっけ)
ひりついた空気を掴むように。凍りついた視線を溶かすように。
「・・・・・・以上が、御社にお取り寄せいただきたいトランペットについてです。何か質疑等ございませんか? 」
名残惜しいが、このあたりでプレゼンを切り上げる。
途端、ギャハハという品のない笑い声がその場に響き渡る。
声の主は、先ほどの金髪の男だった。
「こんなへんぴな場所にのこのこ来てプレゼンしてくとか‼︎ テメェ、アタマ沸いてんじゃねえの⁈ 」
男はまだ息をきらしている。
ひとまず、
しかし、
優しい眼差し、ではなく、機関銃。
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