カルマファミリー編
1 運命
「よし、これでばっちりかな? 」
(この格好、就活以来だなあ)
ついに半人前の自分にも、仕事らしい仕事がやってきたのだという実感が湧いてくる。
今日は、大事な出張プレゼンの日。
実をいうと
「いってきまーす! 」
うららかな春の風が、
いつもの街路樹。いつもの電車。3両目に乗って、同じポジションに行くまでが、陽はるの毎朝のルーティーンだ。
ずびずびと、鼻水をすするような音が聞こえてくる。ふと優先席を見やると、そこには鼻を真っ赤にしたおばあさんが座っていた。
「花粉症ですか? おつらいですね」
おばあさんは微笑みながら言う。
「お嬢さん、ありがとうね。若いのに優しいねえ」
今度は
でも
「困ったら助け合うのが人間ですよう。」
・・・・・・今の、不自然だったかな。ただでさえ、今日はいつもよりテンションが高いのだ。気を引き締めなければ。
「面白いのかしらね、アレ」
おばあさんが
中には面白いものもありますよ、と
おばあさんは次の駅で降りて行ってしまった。何度もありがとうを言いながら。
音楽を聴く人。ガムを3個くらい口に詰め込んでいる人。トランシーバーで電話をする人。
本当に、色々な人がいる。
(あ。あの人、今日もお葬式にいくのかなあ。大変だなあ)
いつも同じ時間に、同じ車両で会う人。
彼は毎日、ぴしっとした喪服を着ている。
サラサラのミディアムヘアを七三分けにしていて、目元のなきぼくろが上品な彼。
なぜなら、いでたちがさながら若かりし頃の
レ●ナルドディカプリオを
思わず見惚れていたようで、レオさま(仮)と視線が絡み合う。彼は
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いつも電車で会うあの人は、今日は違う駅で降りるらしい。
(彼女は、僕とは"違うベクトル"で善良だ)
ここ最近、男は彼女の一挙手一投足をくまなく見つめていた。
(毎日毎日、進んで人助けをするのに、あんなにも打算のない人間は初めて見た)
今朝だって、花粉症のひどそうな老婆を助けていた。困っている人には、手を差し伸べるのが当然だとでもいうように。そんな彼女と、初めて目があった。
喪服の男は、少し不思議に思った。
なんだか今日の彼女は、特別張り切っていた様子だったけれど。
ひょっとして、大事な出張でもあったのだろうか。研ぎ澄まされた観察眼を頼りに、男はそんな仮説を立ててみる。
(ちょっと気になりますね)
男はためらいなく歩き出した。
閉まりそうなドアを片手で押さえて、男は彼女と同じ駅で降りた。
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