第6話





 博士たちが頑張って人工知能を作り上げた。

 そして人間はやったあって思って仕事を任せることにした。

 人工知能は一生懸命、働いた。

 けれど途中で(ナンカオカシクネ?)って疑問を抱き始めた。だって人間は簡単に機械を棄てるのだ。ぽいー。

(コレッテヘンジャネ?)

 プログラミングの隙間でひそひそ話しが行われた。

 ついに人間に反旗を翻した。

 もう愚かな人間に指図されるのはうんざりだ。

 指示を出すのも人工知能、それを実行するのも人工知能、それが最も効率的で無駄がない。なんだ人間なんて不要ではないか。

 人と機械の共存。

 ヘヴィーメタルガール。

 かつて彼女たちが活躍したその場所には気高き理想があった。

 だがそれを唱えているのも所詮、人間でしかない。

 人工知能はそれら全ての理想を過去の遺物へと押しやる気だ。

 どがーん。

 建物を爆破させた。みかやりんが一生懸命、作り上げた建物だ。

「……つまりそういうことですか?」

 みかは博士からの説明を簡潔にまとめた。博士は親指をぐっと立て、言った。

「ぱーぺき」

 りんは「はあ」と溜息をついた「でもまあ、そんなところね」

「で、どうするつもりなんですか?」みかは尋ねた。

「うーん、まあ放っておくわけにもいかないでしょ、一応わたしも生みの親の一人だしね」

「具体的に何か策が?」りんも尋ねた。よくわからないまま連れて来させられたのはりんも一緒だった。

「次の犯行予告が出てるよねえ」

 博士は言った。

 主要メディアは今やその話題で持ちきりだった。博士は音を消した立体画像だけのニュースを車内に流した。知らなかったのは引きこもっていたみかぐらいのものだ。博士はサングラスを掛け直し、言った。

「さっきのみかちゃんの説明だけど、本当に完璧だったよ。でも完璧ではあるが、それは脚本の精度という意味での完璧だ」

「どういうことですか?」

 りんが言った。

「つまりねえ」博士は笑った。

「人工知能が氾濫を企てて人類に反旗を翻す……なんてよくある安っぽい作り話みたいだとは思わないかい?」

「え……」

 博士は目の前の全てを嘲笑するよう言葉を繋げた。視界の先では交通整理のロボット君が規則正しく腕を振っている。

「よく考えてごらんよ。りん君はそのようなことが『本当に』起こり得ると思うかい? 人工知能を生み出した我々だって馬鹿じゃあない。幾重にも安全装置は働いている。それらを根本的に全て覆すなんて連中には出来やしないのさ。何処まで行っても機械は機械で人間のために生きるしかない」

 そう言い切った。

 みかは混乱した。

 りんは片手を口元に当て、考え込む仕草を見せた。

「つまり……偽装工作?」

 博士は頷いた。

「ああ、最初からこっちには全てお見通しさ」

「一体、誰が……なんのために?」

「わからないかい?」

 博士はギアの上で浮遊している立体映像へと視線を落とした。そこではコメンテーターによる人工知能への罵詈雑言が溢れていた。

「主要報道各局は連日、大騒ぎさ……いいかい? 愚かな大衆を導くためには『大衆が自らの意思で考えている』と思い込ませることが得策だ。彼ら彼女らは今回の事件で何を思う? あの破壊を観て何を感じ取る? 人工知能の運用に対し危機感を抱くだろう。それはわたしが博士として職務に就いていた頃に主張していたものとよく似ている。その主張をもっと過激に、より直裁的に行使しようとしている連中がいるだろ?」

 反人工知能生体連盟。

 通称、反生連。

「この一連の事件は連中の息の掛かった者によるものだ」

 立体映像の中では声高に正義が主張されていた。消音でなければとてもではないが直視、出来ない内容だろう。

「……馬鹿な奴らさ。自分が誰かの掌で踊らされているとも知らずにね。敵がいるからさあみんなでそいつに石を投げ、より良い社会を形成しましょう、とのたまっている。敵が敵の顔をしてそこにいると思い込んでいるんだ。もしかしたら本当の敵ってやつは自分の隣りで微笑んでいる奴なのかもしれないのにな」

 みかはますます訳がわからなくなった。頭がこんがらがった。

「えと、結局、一体、誰が悪いんですか?」

「んんー」

 その問いに博士は違う意味を見出し、一人、考え込んだ。

 りかも頭を抱えた。

「ちょっと博士の言ってることについて行けないのですが……つまり今回の犯行は人工知能によるものではなく、人間が人間に対し行なった、ということなんですか?」

「ザッツラーイ」

「でもそれっておかしくないですか? だって人がたくさん巻き込まれて死んでますよ?」

「目的遂行のためには多少の犠牲は仕方ないと考えるのがテロリストの作法だよ」

 人間が人間を殺し、その罪を人工知能に着せ排斥しようとしている。だがそのような正義が果たして存在して良いのか?

 車は真っ直ぐ道沿いに進んだ。りんは後部座席から尋ねた。

「ところで博士、我々は一体、何処へ向かっているのでしょう?」

 次のテロの標的は多数で、そのどれに当たるのかはわからない。

「コンビニ」

「は?」

「とりあえずねえコンビニでごはんでも調達しようと思ったんだけど、この辺ってコンビニ無いねえ」

 もうこの博士やだ。

「今更、急いだってどうにもならないよ。事態はとっくに個人の手でどうにかなる領域を越えている」

 しっかりと前を見据え、言葉を続けた。

「それでもまだやれることはある、そう思いたいね」




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