第4話
「おいみか!」
扉をどんどんと叩く音がする。
「あけろー、おいっいるんだろ?」
どんどんばんがんだんっ。
このままだと玄関の扉が破壊され兼ねない。
みかは仕方なく起き上がり、よろよろとそこへと向かった。今、何時だろう? がちゃりと扉を開けた。
「おはよ、りんちゃんかあ」
腰に両手を当てた冬野りんがそこに佇んでいた。その表情はむっとしている。
「お前、今何時だと思ってるんだよ?」
「あ、それ今ちょうどわたしも気になったところ、気が合うね」
馬鹿みたいなこと言ってんじゃない、と言われた。目の前に腕時計を突き付けられる。真昼。ふわわわあ。今日もよく寝たなあ。
「相変わらず体たらくな生活してるな」ひょいっと肩越しに散らかっている室内を覗き込んだ。
「えへへ」
笑ったみかの表情には最後に会った時の元気が無い。
「全然、着信にも出ないし心配で見に来たんだぞ」
死んでなくて良かったわ、とりんは言った。
「そんなに簡単に人は死なないよ」みかは言って、その時ミッシーの顔がよぎった。また表情が暗くなった。りんは溜息をつき言った。
「……お前、今、何やってるんだよ?」
「わたし?」
みかは寝起きのぼさぼさ頭で少し考えた。
「特に何もしてないよ。寝て起きて、また寝て起きてを繰り返しているだけ」
「それ廃人って言うんだぞ」
「廃人かあ」
何もしていないのに勝手に廃人になるなんて、廃人って便利だなあと思った。ふわふわまた空想の世界へと入り込もうとするみかをりんは遮った。
「ああ違うそんな話しをしに来たんじゃない、お前ニュースとか全然、観てないのか?」
観るわけがなかった。ここ最近のみかときたらとにかく現実ってやつが視界に入ろうとする度いやいやをして拒絶するのだから。現実の匂いがする、逃げろー。
りんは自身のスマホを操作し、それをみかの目の前に提示した。
「なあに、これ?」
そこには写真が映っていた。建物だ。あれ? 何処かで見覚えがある。何処だろう? その建物は画面の中で瓦解し原型を失いつつあるように見えた。みかは画像に目が釘付けになった。思い出した、これは……。
「そーだよ」
りんは言った。
「これはわたしたちヘヴィーメタルガールが建設に携わった初めての大型プロジェクトだ」
みかはおそるおそる画面の中を指差した。
「あそこ?」りんはこくんと頷いた「ああ、お前も行ったよな」
りんは真顔で言った。
「いいか、よく聞け、みかはニュースなんて見ないだろうから簡単にわたしが口で説明してやる。この建物は国が初めてヘヴィーメタルガールを大量投入し、それを主要戦力として建てられた、言ってみればアイコン的な存在なんだ。今となってはこの建物自体に大した価値は無い。それでも象徴としての意味はまだ残っている……それが今回ぶっ壊された。地震とかじゃあないぞ」
画像はニュースサイトの記事からのものでその見出しがみかの目を奪った。
テロ。
「話しの筋がわかるか?」
みかは左右に首を振った。
「あのな、わたしたちヘヴィーメタルガールにケンカ売ってんだよ」
ケンカ? どうして? りんは続けた。
「ヘヴィーメタルガールは人間と機械の調和を主目的に進められたプロジェクトだ。覚えているだろ? でももはや役立たずの生身の人間など一切、不要。ソフトもハードも、そしてそれをコントロールする者すら今後は人工知能が全てまかないより良き社会を創造する……って意思表示らしい」
「りんちゃん頭いいっ」早口で述べるひかりにみかは感嘆として拍手した。
「ばかっ、犯行声明が既に出ている。全国の主要メディアに一斉送信だ」相手は人間じゃない、と言った。
「つまり」
「もうわかるだろ? 人口知能による反逆だ」
「全くとんでもない世の中になったもんだぜ」
「それで……どうなるの?」みかは尋ねた。これで全てが決着したわけではなく、問題は現在進行なのだと言うことぐらいはさすがにわかる。
「次の犯行声明が出てる。あいつら……と呼べるのかどうかもわからないが、いかれてやがる」
「場所は?」
その場所を聞いてみかは呆然とした。
副都心線、主要駅。
新電波塔、最上階、スカイラウンジ。
新国立競技場。
りんのスマホの中にはそのリストがずらっと並んでいた。犯行声明の最後のところに首謀者と思われるNo.34という数字が記されていた。
「……何か心当たりはあるか?」
みかは困惑した。だが困惑している時間など無いっと言ってりんに腕を引っ張られ無理やり拉致された。
表に停まっていた車へと乗せられた。そこには運転手が座っていた。みかもよく知る人物だった。サングラスを外し「やっほー」と笑った。そしてまだシートベルトも締めていないのに猛烈な勢いで車は走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます