第6話 ショッピング

 俺が最初に訪れたのは、武器屋――ではない。


 このデウスにおいて、武器屋の装備は最適解ではない。


 では最適な装備はどこにあるのか。


 その答えが、今俺が訪れている百貨店デパートだ。


 デウスシリーズにおいて、大きな街には必ず存在するコバン百貨店。


 ここには、武器屋の単純な装備とは違い――

 特殊な効果が付与された装備品やアクセサリーが数多く売られている。


 セオリー通りに武器屋で買い物して泣きを見るのがデウスの洗礼なのだ。


 デウスは、フィールドを隅々まで探索することで利益が得られる作りが多い。


 このような百貨店の存在も、そうした要素の一つなのだ。


 魔道具の力で実現された自動ドアをくぐり、コバン百貨店に入る。


 中は、石造りのおしゃれな空間が形作られている。

 間接照明のライトが、穏やかな光で立ち並ぶ店々を照らす。


 食料品店は高級そうな果物や産地直送の魚を元気よく宣伝している。

 アクセサリー屋は、序盤では到底手が出ない強力な宝石を正面に飾る。

 書店は素晴らしい品揃えで、旅の案内から魔導書まで様々な本を販売。


 そして、最初のお目当てのブティックが、その奥に店舗を構えている。


 このブティック〈コバン服飾店〉は、様々な付与魔法を施された衣服が特徴。


 店に展示された衣服には、説明書きの書かれたカードがついている。


 俺はその中から、今回用いる装備品を選定していく。


 最初に購入を決定したのは、〈ハヤブサのコート〉だ。


 効果は、防御+50、魔防+25、速度+25、命中+25、裂傷耐性。

 序盤最強と名高い体防具である。

 デウスでは、領都マークのイベントが終わった後もしばらく世話になった。


 次に買ったのが、〈フクロウの知恵の小手〉。

 防御+25、MP+25、魔力+25、魔防+25、沈黙耐性という効果を持つ。

 沈黙を使う敵が出る序盤を安定させる重要な腕防具である。


 ちなみに、このゲームの〈耐性〉という言葉だが――

 「3回に1回くらいしか食らわなくなる」という意味である。


 つまり、食らうときは食らう。

 そして耐性装備を重ねて装備する事で、「9回に1回」に確率を落とせる。

 結構重要なテクニックだ。重ね装備は2つまでで、3つは意味がない。


 一方、エクスペンダントは〈耐性〉ではなく〈無効〉だ。

 これは全ての状態異常を完全に無効化する。


 エクスペンダントがいかにチートアイテムかが分かるだろうか。


 最後にブーツを購入する。〈あったかミリタリーブーツ〉というブーツだ。


 防御+25、魔防+15、攻撃+15、速度+15、凍結耐性。


 天眼山脈は凍結を使う敵もいるので、これも重要である。


 俺のこれまでの装備は、防御値と速度値をかなり重視している。


 防御を上げるのは、このゲームの防御値の特徴が関係している。

 一定以上相手の攻撃値と差があると、ほとんどダメージが通らないのだ。


 速度を上げるのはこのパラメータが行動回数に直結するのが大きい。

 また命中率や回避率にも関係してくる。


 早くて堅ければ、死なない、という単純な理論である。


 なぜ攻撃性能を重視しないか。

 それはこれがシャイニングスライム狩りに特化した装備だからだ。


 シャイニングスライム狩りの目的は、熟練度を稼ぐ事である。


 熟練度を稼ぐには、たくさん魔法を撃った方がいい。


 つまり、簡単に死んでもらっては困るのだ。


 速度を上げる事で相手を逃がさず追いかけ――

 防御を上げる事で事故死を防ぐ。


 そして魔法を乱射し、熟練度を上げまくる。


 これが俺の立てた戦術なのだ。


 とはいえ、武器は必要だ。


 山道には当然他のモンスターも出てくる。


 そして、このゲームには魔法の効きにくい敵もいるのだ。


 よって、俺は続けて、〈コバン武具店〉を訪れる。


 財布の中身が心もとなくなってきたが、ここでしか買えない武器がある。


 それが――


 〈氷と風の剣〉――

 ――攻撃+75、防御+25、速度+25、凍結付与、裂傷付与。


 序盤最強剣と名高い二重魔法付与剣である。


 俺はこれら装備を装備し、天眼山脈行きのバスに乗り込む。


 そう、この世界は剣と魔法の世界ながら、乗り物は結構近代的だ。


 魔導工学という技術が発展した結果、飛空艇や車が実用化されているのだ。


 魔導鉄道という鉄道網も、主要な都市間には引かれている。


 国家間の仲が悪い時期もあるので、国を跨いだ鉄道は存在しないが。


 その割に、冒険者学校が留学生を受け入れたりしているのは――

 平和への人質と引き換えに技術を受け渡す、という駆け引きがあるとか。


 そんな設定を脳内で思い返しながら――


 次第に田園風景から森へと切り替わっていくバスの風景を眺めつつ――


 これから待ち受けるシャイニングスライム狩りの、成功を祈った。

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