第7話 シャイニングスライム狩り

 バスに揺られる事約1時間。


 無事天眼山脈の麓にあるイーブ村に登場する。


 山麓の村、という風情のイーブ村は、自然に満ちた素敵な風景を持つ。


 食堂では天眼山脈での狩りや山菜採りで得られた恵みを存分に味わえる。


 この食事というシステムは、デウスでは料理のレシピを覚えるための行動だ。


 食べた料理を元に、それに似た料理数種類のレシピを覚えられるのである。


 作ったキャラによって違う料理が出来たりと、細かい拘りがあるのが特徴だ。


 俺は食堂で、イーブボア鍋と天眼山菜の天ぷらを味わう。


 非常に美味だった。レシピもなんとなく頭に入った感じがする。


 食事が済んだら、俺は寝泊まりする予定の別荘を訪れた。


 別荘というよりは豪邸といった風情の、貴族らしい家だ。


 侯爵家の別荘ということで、当然だが村長の家より豪華である。

 

 そこで俺は、買った装備に着替える。


 庭で魔法の試し打ちなどもしてみて、問題なく使える事を確認した。


 準備が済んだら、念のため雑貨屋に寄り天眼山脈の地図を買う。


 このゲームにおいて、買った地図には自分の位置が表示される。


 その仕様はこの世界でも有効なようで、俺は地図を片手に山道を進んでいく。


 この山道、ちょこちょこモンスターが出てくる。


 最初に見かけたのは、フローズンプラントという凍結攻撃を放ってくる植物系のモンスターだった。


 青白い氷の蔓で構成されたモンスターは、俺を発見したのかこちらにのそのそと歩きながら、氷の蔓を伸ばしてくる。


「ツインエレメント」


 俺はすぐさま覚えたばかりの付与魔法を発動。


 速度+100%、防御+100%、命中+100%、暗闇攻撃付与、の4つのバフが付与され、敵の攻撃はまるで止まっているようにゆっくり見えた。


 俺はすぐさま〈氷と風の剣〉を抜くと、敵が伸ばしてきた蔓を切り裂く。


 その結果、暗闇という命中率が下がるデバフ、裂傷という防御力が下がり継続ダメージが入るデバフに敵がかかる。


 弱った敵がめちゃくちゃな攻撃をあらぬ方向に放つのを確認してから、俺は素早く走り近づき、敵の胴体を真っ二つに切り裂く。


 裂傷の効果もあり、フローズンプラントは一撃で消滅、後にはドロップアイテムの水の小魔石が残った。


 俺はドロップアイテムを拾い背負った鞄にいれると、再び山道を進みだした。


 異世界に転生して初の戦闘なので少し緊張したが、終わってみれば極めて順調に勝利する事が出来た。


 やはりゲーム知識から来る十分な装備、強力な付与魔法を使っている事はかなり大きいようである。


 サルヴァという努力の欠片もしていない雑魚の肉体でも、問題なくモンスターを撃破できるというのは大きな情報だろう。


 その後山脈を進み、何体かのモンスターと戦闘を行ったが、そちらも問題なく勝利できた。


 そうしてやがて、俺はお目当てのあのモンスターを発見する事になる。


 ぽにょん、ぽにょんと白く光るスライムの身体を跳ねさせながら、素早くあちこちを行ったり来たりしているそのモンスターの名は、シャイニングスライム。


 発見した瞬間、俺はまず「ツインエレメント」と魔法を詠唱し、シャイニングスライムが逃げても追いかけられる状態を作る。


 それからシャイニングスライムに向けて、単発の魔法を放ちまくる。


「ウォーター」

「ウインド」

「アース」

「ライト」

「ダーク」


 この世界では、魔法ごとにクールタイムというものが存在している。


 一度使った技は、一定時間が経過するまで再度使用する事はできないのである。


 だがこれら基本魔法のクールタイムは短く、消費魔力も小さいので、交互に使っていれば実質的に乱射が可能である。


「ウォーター」

「ウインド」

「アース」

「ライト」

「ダーク」


 撃ちまくる。


「ウォーター」

「ウインド」

「アース」

「ライト」

「ダーク」


 撃ちまくる。


 シャイニングスライムは、次々と魔法を当てられても、まるで苦しんでいる様子は見せず、きょとんとした表情でぽよぽよ跳ねているだけだ。ダメージはほとんど入っていないらしい。


 だが今回の目当てはこいつの討伐ではない。


 こいつが落とす、大量の熟練度が目当てである。


「ウォーター」

「ウインド」

「アース」

「ライト」

「ダーク」


 俺は熟練度を稼ぐため、ひたすらシャイニングスライムに向けて魔法を連射し続けたのであった。


 それからおよそ1時間、気まぐれに逃げるシャイニングスライムを追いかけながら基本魔法を連射していると、ツインエレメントの効果が切れてシャイニングスライムを追いかけられなくなったところで、逃げられてしまった。


 1時間の戦闘だけでも、訓練を怠っていたサルヴァの肉体は疲労困憊しており、俺は素直に今日は帰る事を決めた。


 麓まで下りた俺は、村の小さな教会で熟練度を測定する。


 ====================

 戦 Lv1

 水 Lv2

 風 Lv2

 土 Lv2

 光 Lv2

 闇 Lv2

 習得魔法:ツインエレメント、ウォーター、ウインド、アース、ライト、ダーク

 ====================


 なんとたった1時間で5種類の熟練度がレベル2まで上昇していた。


「これは、後数日もやればレベル3までは簡単に上がりそうだな」

 

 俺はその日は別荘に戻り、睡眠を取った。


 それから3日ほどシャイニングスライムでの熟練度稼ぎを行った。


 その結果がこうである。


 ====================

 戦 Lv1

 水 Lv3

 風 Lv3

 土 Lv3

 光 Lv3

 闇 Lv3

 習得魔法:ツインエレメント、ウォーター、ウインド、アース、ライト、ダーク

 ====================


 これ以上はシャイニングスライムだと効率が悪すぎるとゲーム知識で知っている俺は、いったん強化はここまでにして、計画を次の段階に移す事にする。


 ――〈アクア〉〈アクア〉〈アクア〉〈ラクス〉〈ラクス〉〈ラクス〉〈テネブリス〉〈テネブリス〉〈テネブリス


〈システム〉:シェイドミラージュを習得しました。


――〈ヴェント〉〈ヴェント〉〈ヴェント〉〈テネブリス〉〈テネブリス〉〈テネブリス


〈システム〉:カオスカッターを習得しました。


 シェイドミラージュは、以前説明した通り、自らを影と一体化させて「インビジブル不可視」状態にする魔法。エクスペンダントを盗み出す上で不可欠の魔法である。


 カオスカッターは、今まで覚えてこなかった強力な攻撃魔法である。


 直線状に並んだ敵全てに強烈な一撃を与える攻撃魔法、カオスカッター。とにかく威力の高いこの魔法は、俺の当面の切り札的な立ち位置になるであろう。


 最後にイーブボア鍋と天眼山菜の天ぷらをもう一度味わってから、俺はイーブ村を後にし、元居た領都マークへと帰還するのだった。

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