第5話 魔法習得

 俺が最初にやったのは、この街における教会、大修道院を訪れる事だ。

 

 これは、現地の下見という意味もなくはないが、主な目的は別にある。


 まず、俺はこのサルヴァ・サリュの魔法習熟度を測りたい。


 それから、シャイニングスライムを狩るのに必要な魔法を覚える。


 この2つが今日の俺の目的となる。


「こんにちは。祈祷を行わせていただいてもよろしいでしょうか」


「はい。天空教会は信者の方をいつでも歓迎しております」


 荘厳な装飾、美麗なステンドグラスに、神の使徒たちを象った彫像。

 信者達に畏敬の念を感じさせる空間で、受付に許可を得て祈祷する。


 祈祷の間は、教会に入って中央を真っ直ぐ進み、扉をくぐった奥にある。


 そこには神の象徴であるΦファイ型の造形と10種類の魔石が飾られている。

 そのセットが、円形にずらりと12セットほど並べられた、広大な空間だ。


 10の魔石は〈プグナ〉、〈イグニス〉、〈アクア〉、〈ヴェント〉、〈テラ〉、〈ラクス〉、〈テネブリス〉、〈テンパス〉、〈ロカス〉、〈イリューシオ〉の魔石である。


 これらは、この世に存在する基本属性であるとされる。

 もっとも、実際には多くの人間は戦属性と火、水、風、土、光、闇までしか扱う事が出来ない。

 時、空、幻の3属性は、希少属性であるとされる。

 これらに適性を持つ人間は希代の天才だ。


 ちなみに、戦属性の魔法についても説明しておこう。

 たとえば、肉体強化や武器強化、剣で真空波を飛ばすなど。

 一般的なゲームでスキルとかクラフトとか呼ばれるようなものを指す。


 このデウスでは、それらも魔法の一つの属性として扱われているのだ。

 故に、戦属性魔法はもっとも普遍的であるとされ、誰でも覚える事ができる。


 これを戦技と呼ぶ場合もある。


 さて、サルヴァの適正だ。


 Lv0の属性は、適正がなく、その属性を覚える事は出来ない事を意味する。


 ゲームでは、この属性を増やす特別な魔石もあったが、レアアイテムだった。

 いくらサルヴァが侯爵家の貴族であるといっても、簡単には手に入らない。

 Sランクモンスターである各属性の龍を狩って手に入るその魔核。

 それこそ、貴重な人間の属性を増やすアイテムなのだ。


 龍というと、ゲームなどでは簡単に倒せるイメージがあるかもしれない。


 だが、このゲームにおいて、龍は本当に特別な存在だ。


 世界に5人しかいないSランク冒険者でないと基本狩る事はできない。

 しかも、Sランク冒険者に多数のAランク以上の冒険者がついてようやくだ。

 つまり、普通は無理という事だ。

 文句なしの超弩級レアアイテムである。


 要は、サルヴァが使える属性、使えない属性は非常に重要だという事だ。


 俺はゲームでサルヴァが多彩な魔法を使っていたのは覚えている。


 今回必要な光、闇、水の属性は全て使えたはずだが、確かめておきたい。


 祈祷の間で、俺はゆっくりと手を組み、瞑目して祈る。


 すると、目を瞑った事で暗くなった俺の視界に、光り輝く文字が映った。


 ====================

 戦 Lv1

 水 Lv1

 風 Lv1

 土 Lv1

 光 Lv1

 闇 Lv1

 習得魔法:無し

 ====================


 なるほどな。

 まさか戦属性以外に5つも属性を習得可能だとは思わなかった。


 これはゲーム中全体でもなかなか稀な、貴重な才能といっていい。


 ゲームにおいて、大抵のメインキャラが使える属性は戦を入れて4つ程度。

 魔法が得意なキャラなら6つ使えるキャラなどもいたが、それで天才扱いだ。

 つまりは、サルヴァはこのデウスにおいて立派な天才だという事だ。


 だが嘆かわしいのは、全ての熟練度がLv1である事だ。


 これは生まれてから今に至るまで、努力を全然していないという事だ。

 おまけに習得魔法もない。


 ゲームの主人公の初期ステータスは、戦属性がLv3だった。

 ちゃんと武術を磨いていれば、この年齢でもそれくらいには達するのだ。

 

 ちなみに、この熟練度には、別名がついている。


 Lv1が初級、Lv2が中級、Lv3が上級。

 Lv4が初伝、Lv5が中伝、Lv6が奥伝。

 Lv7が皆伝、Lv8が極伝、Lv9が神伝。


 熟練度は、Lv9で最大だ。


 この熟練度、レベルが上がるごとに極端に上がりにくくなる特徴を持つ。

 昔のネトゲみたいなマゾいシステムをしているのだ。


 サルヴァは全ての才能において初級。

 子供レベルという事だ。

 悲しいなぁ。


 だが、俺にはシャイニングスライムがある。


 それをこの習熟度と属性分布で狩るために必要なものは――


 俺は魔法を覚えるため、祈祷の間で魔石を並び替えて台座に置く。


 ――〈ヴェント〉、〈テラ〉、〈ラクス〉、〈テネブリス

 

 この4つ、相反する属性を組み合わせて覚えられる、希少な魔法。


 それは攻撃魔法ではない。


 付与魔法だ。


〈システム〉:ツインエレメントを習得しました。


 速度+100%、防御+100%、命中+100%、暗闇攻撃付与。


 ゲーム中、この組み合わせが使えるキャラは希少だからこそ、ツインエレメントは初級の魔法でありながらこれほどの威力を誇る。


 俺は、この魔法で、シャイニングスライムを逃がさない力を得る。


 そして、各属性の基本攻撃魔法を使用し、熟練度を上げる。


 ――〈アクア

〈システム〉:ウォーターを習得しました。


 ――〈ヴェント

〈システム〉:ウインドを習得しました。


 ――〈テラ

〈システム〉:アースを習得しました。


――〈ラクス

〈システム〉:ライトを習得しました。


――〈テネブリス

〈システム〉:ダークを習得しました。


 このゲームにおいて、複合属性魔法が強力になってくるのは、基本的にはLv2やLv3になってからだ。


 ツインエレメントのように、4属性以上の魔法には初級でも強力なものはある。

 だがそれは例外であり、そもそも使えるキャラがほとんどいないのだ。


 よって、攻撃魔法は単属性を覚える。


 消費魔力も少なく、地味に燃費がいいため、継戦能力も高い。


 さて、これだけ魔法を覚えると、必要な金額も馬鹿にならない。


 父親から与えられているお小遣いの金額には限界がある。


 お会計喜捨を済ませて、次の準備に移ろう。


 次は――装備品集めショッピングだ。

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