第50話
決戦艦隊は陸を進むプラネットイーターの背後に迫る。
いまだに現れないセルイーター・ワイズを警戒しつつも、聡弥は盤面を動かす決断を下した。
「次元砲、撃てェ―ッ!」
二隻の次元砲搭載艦が入れ替わるようにして交互に次元砲を放つ。
体を光線が貫き、その体内にトンネルの様に黒々とした穴が開き、プラネットイーターが驚きの咆哮を上げた。
「体内へ前進せよ!」
J・アルドの次元エンジンがうなりを上げ、プラネットイーターへ直進する。
その背後を凸型に陣取り、決戦艦隊が進む。
そのまま体内へと侵入するかに思われたJ・アルドは、突如速度を緩める。
プラネットイーターの皮膚が突如破裂するように何かを吹き出した。
体内から外に飛び出したのは夥しい数のザーク獣である。
『なにィ!?』
「やはり罠か!艦砲射撃開始!
傷口が塞がる前に道を切り開く!」
聡弥の指示に呼応して、艦隊の一斉砲撃がザーク獣を吹き飛ばす。
しかし、プラネットイーターから次々と這い出すザーク獣はすぐに群れの穴を埋めてしまう。
『私が穴を開けます、着いてきてください!』
埒が明かないと判断したアーシャがJ・アルドの甲板から飛び立ち、群れの中へと突撃する。
マルチウェポンの掃射で敵を薙ぎ払い、強引に通り道を開く。
その道を前進するJ・アルドの指令室の窓に、突如黒い影が差した。
驚愕のまま影の差す先を振り返った隊員たちの目に映ったのは、今まで姿を隠していたセルーター・ワイズである。
「貰ったぁっ!」
両肩の水晶体から射撃を放つ寸前に、ワイズは頭上に気配を感じ、空を仰ぎ見る。
「ウォオオオオオオオオオオオオオッ!」
天から降り注ぐ一本の槍の様に、スラスターを全開にして加速してきたセルーター・フレイムの剣先がワイズを突き刺した。
スラスターの噴射に任せてフレイムはワイズをJ・アルドから突き放す。
「雄士ィ!ようやく戦えるね!」
喜色を隠しもしない声で叫び、ワイズはフレイムが突き刺した剣を力任せに引き抜くと、フレイムを蹴り飛ばした。
「ぐっ」
吹き飛んだフレイムはスラスターを素早く調整、勢いを殺してワイズと向き合う。
ワイズはフレイムから奪った剣を投げ捨てると、フレイムを睨みつけた。
「雄士、僕の天敵……。
今日、僕はお前を殺して自由を手に入れる!」
「それでも、それでも俺は兄さんのこと、好きだよ。
嫌いになんてなれる筈がない。
だって、俺たちたった二人の兄弟じゃないかっ!」
雄士の言葉に、ワイズは肩を震わせた。
「うるさい!
僕たちはお互いに大事なものを奪い合わないと生きていけない!
そうやって傷つけあうぐらいなら、初めからそんなものはないほうがマシなんだよ!!」
二人はほとんど同時にスラスターを再加速した。
「兄さん!」
「雄士ィィィ!」
爆発的な加速で接近した二人の拳が交錯する。
数の差は戦闘の基本要素である。
アーシャがどれだけ腕を磨いたとしても、その根本的な違いは覆せないものだった。
引き金を引き続け、分厚い壁のようなザーク獣の群れに開けた風穴を拡大していくアーシャの装甲は、すでに多数の切り傷を帯びていた。
「数が多すぎる……!」
手首に装着された発射口から糸を発射し、背後から迫っていたザーク獣を縛り付けると、レーザー光線を照射して剣の様に振り回す。
周囲のザーク獣が地面へと落下していった。
「ダメ!間に合わない!」
アーシャの視線の先には塞がり始めたプラネットイーターの皮膚が見えている。
たった一つだけ、この状況を奪回する方法を彼女は知っていた。
彼女は一瞬だけ逡巡する。
――ラッセル、私に勇気を下さい。
そして、彼女の意思は決まった。
「J・アルド、聞こえますか!
これからブラスター・カノンを撃ちます!その隙に前進してください!
後は頼みます!」
J・アルド側からの通信を無視して、アーシャはマルチウェポンを素早く操作した。
マルチウェポンの砲身が長大なものへと変化し、銃口にエネルギーをチャージし始める。
その行動を周囲に群がるザーク獣が逃すはずもない。あっという間にアーシャの周囲にはザーク獣が殺到した。
装甲が切り刻まれ、体が食い破られる。
ザーク獣がアーシャの左手に喰らいつくと、その手を引き抜く。
「あぁぁああああああああああああああああ!!!」
痛みに絶叫しつつも、砲だけは手放さない。
「エネルギー充填……98、99、100」
アーシャは、ついに発射準備を完了させた。
「ブラスター・カノン!喰らえェェェェェッ!」
彼女の周りに殺到し、まるで団子の様に密集していたザーク獣たちが一斉に薙ぎ払われ、爆散していく。
ザーク獣の壁に空いた穴を縫うようにすり抜け、プラネットーイーターの体内に突入するJ・アルド。その姿を見届けたアーシャは、満足そうな笑みを浮かべて地上へと落下していった。
プラネットイーターの体内を全速力で駆け抜けるJ・アルドの操縦室で、隊員たちはレーダーにしがみ付くようにして反応を見張る。
散っていったアーシャに報いるためにも、この一回を確実に成功させなければならない。
各種レーダーですれ違う臓器の形を一瞬でも見逃すまいと、隊員たちは沈黙の中レーダーを見つめた。
そうしているうちにも、次元砲で空いた体の穴は埋まりつつある。
「次元シールド展開!そのまま前進を続けろ!」
船体前面から船を包むように展開された次元エネルギーがJ・アルドを包み、船を押しつぶそうとするかの如く盛り上がる肉を掘削しながら突き進む。
「どこだ、どこにある……」
いまだ、プラネットイーターの脳はどのレーダーにも映らない。
このままでは体内を突き抜けてしまう。
まさか、従来のザーク獣の構成とプラネットイーターは異なるのではないか?
そんな疑念が操縦室漂い始めた中、音響レーダーを監視していた隊員が叫んだ。
「ありました!右斜め方向です!」
音響レーダーは、巨大なプラネットイーターの脳を映し出す。
「砲撃班、全力射撃!絶対に逃すな!」
しかし、音響レーダーを観測していた隊員は驚愕の声を漏らした。
「の、脳が!脳が移動しています!
ダメです、すごいスピードです!」
J・アルドの艦砲射撃を、プラネットイーターの脳が掻い潜るように移動していく。
無情にも、前進するJ・アルドの下部を脳が通り抜けていく。
船を絶望が包む。
「錨を下ろせ!」
突如、聡弥は叫ぶ。
その意図を理解しないまま隊員達は錨を下ろす。
「船首を後方に向ける!方角が合ったら目標に一斉射撃!」
聡弥は船にブレーキを掛けつつ、操縦桿を精一杯回転させる。
突如降ろされた錨の慣性を受けて、ドリフトの様に回転した船は頭を後方に向けた。
「撃てェ―ッ!」
J・アルドの全力射撃が肉を吹き飛ばし、遠ざかろうとしていたプラネットイーターの脳を叩き潰す。
突如、次元シールドに破壊されたプラネットイーターの肉体が再生を止めた。
「目標の破壊を確認しました!
再生反応もありません!目標沈黙!」
一瞬の沈黙の後、操縦室を怒号のような歓声が包んだ。
「まだ終わってはいない!
船外に脱出した後、即座にフレイムの援護に映るぞ!」
「了解!」
聡弥の毅然とした声に、隊員たちは表情を切り替える。
J・アルドは慣性に任せて一回転すると、錨を引き抜いてそのまま体外へ直進した。
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