第43話
瓦礫の山から這い出したセルイーター・グレイヴを、宙に浮くセルイーター・フレイムが見下ろしている。
「なんだ、お前は......」
グレイヴは怒りをあらわに叫ぶ。
「お前が俺を見下すなぁッ！」
人工体のセルイーター・フレイムは、まるで雄士の姿を映すように赤銅色の左半身と、赤色の右半身に彩られていた。
そのフェイスガードは鋭い牙を覗かせており、時折うごめく血管のような線は、まるで怒りを示しているかのようである。
「それが第一声か」
呆れたように雄士は地に足を付けた。
「あんた、結局母さんが死んでも変わらないんだな」
「親殺しがほざくか！」
グレイヴは前置きも不要といわんばかりに殴りかかる。
拳をすり抜けたフレイムが、グレイヴの腹を強打する。
それだけで、グレイヴの膝が一瞬落ちた。
「ぬぅん！」
後方にスラスターで飛び、グレイヴは肩から光弾をばら撒いた。
砂埃を上げながら横へと加速したフレイムは、光弾を数発受けてよろめく。
グレイヴはその様子に、内心調子を取り戻した。
先ほどの一撃は、人間の技術でありながら純正のセルイーターと変わらぬ重さを持っていた。しかし、この程度の攻撃では純正のセルイーターに効き目はなかったはずである。
おそらく、装甲や安定性と引き換えにあの攻撃力を保っているのだ。
グレイヴは嘲りの声を上げた。
「哀れだなぁ雄士！フレイラを失ったお前など取るに足らんわ！」
「なら捕まえてみろよ糞野郎！！」
二人は体内から剣を引き抜き、加速しながら切り結ぶ。
打ち合いの高度は徐々に上がっていく。螺旋を描きながら、二人のスラスターの残す光の線が舞う。装甲を頼りに強引な打ち合いを仕掛けるグレイヴに、引きながらうち終わりをたたくフレイムの様子は二人のダンスのようにも映った。
グレイヴの一撃がフレイムの胴を捉える。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオッ！！」
装甲に入るヒビを意にも止めず、フレイムは全力の一撃をグレイヴに叩き込んだ。
装甲が筋肉のように膨らむ。
グレイヴの装甲が切り裂かれ、ゆるりと回転しながら落ちていく。
落ちていくグレイヴに追いついたフレイムは、グレイヴに拳を振るい続ける。
グレイヴの装甲がひしゃげ、何重にも歪む。拳の形に、また新たな拳の跡が重なる。
「ガァッ！」
グレイヴが放った反撃よりも早くフレイムの拳が顔面を打ち抜く。
ようやく訪れた地面を転がるグレイヴに向けて、フレイムは胴体装甲の瞼を開いた。現れた水晶体がうごめき、エネルギーを集め始める。
「バカが！周りを見ろ！」
グレイヴが叫ぶ。
乱立するビルの中から、今まで隠れていたであろう人々がこちらを心配そうに覗いている。
「死ねィ、雄士ッ！」
グレイヴは好機とばかりに胸の水晶体を開いた。
フレイムは大地を踏みしめる。
「死ぬのは」
スラスターを全力噴射すると、爆発的な加速で懐に潜り込む。
「テメェだああああああああああああああああああああああ！！！！」
スラスターの推力に任せて、一回転するようにグレイヴの頭部を蹴り飛ばす。
空中へとグレイヴが打ち出される。
開けた空には、フレイムを妨げる物など何もない。
「バカな！
貴様なんぞに......貴様なんぞにィーーーッ！！！」
水晶体に収束した光が、フレイムによって解き放たれた。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオッ！
セルバスタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！」
グレイヴの装甲が塵となって消えていく。
グレイヴが雄士に伸ばした手は、届くことなく砂のように崩れる。
光が空に突き抜けた。
グレイヴの姿はもうそこにはない。
二人は最後まで、お互いを知ることはなかった。
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