第32話

 ザーク獣の群れは、狩りをすべく車から降り立った人下を追いかける。

 しかし、その人形は目にも留まらぬ速度で森の中に紛れてしまう。

 木々の合間から飛んでくる光線に次々と撃ち落されるザーク獣は、森に向かってエネルギー弾を吐きかけた。

 木々が吹き飛び、森に隠れているアーシャが姿を現す。

 スラスターを蒸して空に飛び上がったアーシャは、ザーク獣の群れの下を潜る様にして加速すると、地面に背を向けて眼の前のザーク獣に向かってマルチウェポンを連射する。

 破裂し、地上に降り注ぐザーク獣の肉片を速度を上げて置き去りにすると、アーシャは高度を上げようとする。

 アーシャはそこで初めて動きを止めた。

 ザーク獣の群れは、残りの個体でアーシャを包囲するように動いていた。

 四方八方から飛ぶエネルギー弾を上昇しながら避け続け、アーシャは包囲を抜けるために高高度を目指す。

 その体にザーク獣の群れが次々と体当たりを敢行した。

「 がはっ……」

 質量に押し潰されてうめき声を上げるアーシャ。

 アーシャを仕留めようと殺到するザーク獣の群れは、彼女が事前に放っていた無数の追尾弾が上空から降り注いだ事によって瓦解した。

 包囲を抜け、マルチウェポンを操作して長大な砲に変化させたアーシャは、銃口にエネルギーをチャージし始める。

 決定的な一撃を止めるため、上空のアーシャにザーク獣が殺到する。その姿はまるで塔のようにも見えた。

「エネルギー充填……98、99、100」

 先頭を疾走るザーク獣の鉤爪が振り上げられた瞬間、エネルギー充填が完了する。

「ブラスター・カノン!

 喰らえェェェェェッ!」

 上空から放たれた一撃は、ザーク獣の群れを正面から焼き払った。


 ブラスターカノンの爆炎が収まり、静かな空が戻って来る。

 一息付いたアーシャは、自分に向かい合う一つの影に気がついた。

 一匹のザーク中が生き残っている。

 古い個体だろうか。装甲には大きな傷が入り、鉤爪も欠けているものの、その動きには何処か知性がある様にも見える。

 残りの変身時間は10分。

 ブラスターカノンは一度撃つと再使用までかなりの時間待つ必要がある。

 アーシャは小手調べとばかりにマルチウェポンを連射し、弾幕の中に追尾弾を混ぜた。

 軌道の異なる弾丸が上と正面からザーク獣を襲う。

 ザーク獣は弾幕を急降下で避けると、急上昇と同時に飛んできた追尾弾を鉤爪で叩き落した。

 アーシャは突っ込んでくるザーク獣とは反対にスラスターを噴射しながら、マルチウェポンのセレクターを回す。

 アーシャが巨大な剣に変化したマルチウェポンを背負って急旋回すると、突っ込んで来たザーク獣の真横を取る形になる。

 アーシャの振り抜いたブレードはザーク獣を両断するはずだった。

「なあっ!?」

 バレルロールでアーシャの斬撃をすり抜けたザーク獣は、反転してアーシャに突撃する。

 今度は迎撃の暇もない。アーシャはブレードでザーク獣を受け止める。

 至近距離での打ち合いが始まった。

 両手の爪を次々と繰り出すザーク獣の連打を、アーシャは長剣を振り回しているとは思えない身軽さで撃ち落とし続ける。

 ザーク獣の爪が顔を擦るほどの距離で避けると、アーシャはザーク獣を切りつけた。

 確かな手ごたえを感じたアーシャは、次の瞬間宙返りしたザーク獣の下半身に殴りつけられる。

 森の木々をなぎ倒し吹き飛ぶアーシャに、ザーク獣が飛び掛かった。

 しかし、その動きは鈍い。

 ザーク獣の腹はアーシャの剣により深く傷ついている。

 地面に打ち付けられたアーシャは、顔に振り下ろされた爪を紙一重で避けた。

 真横にスラスターを吹かし、ザーク獣から距離を離したアーシャは慣性そのままに浮き上がると着地する。

 ――残された時間はお互いに長くない

 体液を巻き散らして距離を詰めるザーク獣に、アーシャは正面からスラスターで加速した。

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 二人の影が交差する。


 勝負を決めたのは、単純な間合いの差。

 アーシャの長剣が、ザーク獣の胸を貫いた。

 残された変身時間は、30秒。

「はぁああ~……。

 こんなに強いザーク獣がいるなんて聞いてないよ……」

 変身を解き、ふらりと座り込んだアーシャは木にもたれかかる。

 勝利の余韻と激しい疲労に微睡ながら、アーシャはラッセルの事を考える。

 無事に帰れただろうか、自分の事を心配しているだろうか。

 彼の過去の話を聞きたい、もっとラッセルの事を知りたい。

 だから、彼の元へ帰らなくてはならないのに……。

 眠気に抗いきれず、アーシャの意識は暗闇の中に落ちて行った。

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