第31話
長話をするわけにもいかず、ラッセルとアーシャは取り落とした武器を拾う。
「……後でちゃんと聞かせてくださいよ」
「あぁ、こうなった以上は黙ってるわけにもいかねぇな」
2階へ戻り、罠がないか慎重に歩みを進める2人。
ラッセルの後ろを進むアーシャは、視界の隅に気配を感じ、足を止める。
仄暗い小部屋の中に銃を向け、マウントされたライトで室内を照らす。
室内には誰もいない。
安堵の息をついて、アーシャはラッセルの背中を追う。
その首を、何者かが掴んだ。
前を歩いていたラッセルは、背後の物音に即座に振り返る。
小部屋の中に引き摺り込まれて、アーシャの足が姿を消した。
「なんだぁ!?」
即座に仄暗い部屋の中に飛び込んで銃を突き出すラッセル。
「くっ……」
男に銃を突きつけられたアーシャは、悔しそうに歯噛みしている。
男は光化学迷彩で透明化して部屋に潜んでいたらしい。
「川島重工なら光化学迷彩ぐらいは置いてあるか、油断してたぜ。
だがなヤイール、今度は出し抜けないぜ」
ヤイールと呼ばれた男は、ニヤリと笑う。
「お人好しなお前が、上手くやれるかね」
「あの時俺を嵌めたのは、やっぱりテメェだったのか?」
「さぁな、何の話だ」
睨み合う男二人。
しかし、ラッセルの視線はやたらと下に逸れる。
「アーシャ、変な顔でキョロキョロするな。
気が散るだろうが!」
「だって!明らかに勝手に聞いちゃまずそうな話じゃないですか!
あなたと違って細やかな心遣いがあるんです!」
「図太くないと言えねぇよそんなこと」
ヤイールがラッセルの様子を盗み見る。
アーシャに向けられた拳銃が、二人の会話に迷いを見せる。
ラッセルの銃口が跳ねた。
一発のプラズマ弾が、ヤイールの腕ごと焼き払う。
絶叫するヤイールを、アーシャが銃床で殴り飛ばした。
「会話で注意を引くとは、やるなぁお前さん」
「……ん?何のことです?」
素なのかよ。
呆れ返っている様子のラッセルに気が付かないまま、アーシャはヤイールの銃からマガジンを引き抜き、弾倉に入っている一発もスライドを後退させて抜き出した。
「それで、この人どうしましょう」
「ほっとけ、運がよけりゃ助かるさ」
痛みに呻いていたヤイールが、慌てたように顔を上げた。
「ま、待て!おいていかないでくれ!」
「あん?警察の頃に止血ぐらいならったろ。
流石に手は貸さねぇぞ」
「そうじゃない!呼び寄せたザーク獣がそろそろ来るんだよ!」
一瞬、ラッセルはヤイールが何を言ったのか理解できなかった。
しかし、その意味を理解した瞬間、ラッセルはヤイールの胸倉をつかみ上げた。
「お前ら、まさか強盗のために……。
そんなことのために町までザーク獣を誘導したのか!?」
「最近じゃみんなやってる!
生きるためだ、仕方ねぇだろうか!」
「仕方ないことなんて一つもねぇ!クソッたれが!」
ラッセルはヤイールを投げすてる。
「ラッセル!窓に!」
悲鳴のようなアーシャの声に反応し、ラッセルは部屋の外に飛び出した。
直後、窓が割れる音と、ヤイールの断末魔が響く。
二人は階段を駆け下りると外に転がるようにして脱出する。外に止めていた装甲車に乗り込むと、ラッセルはアクセルを全開に回した。
「あぁクソ!どうなってんだ!」
施設から抜け出した二人を追うように、ザーク獣が迫る。
J・アルドからはかなりの距離がある。雄士達の援軍は望めないだろう。
「私が行きます。
振り返らず、車を全力で飛ばしてください」
人工セルイーターの変身時間は30分が限界、それを超えればセルイーターの細胞を抑えきれなくなり、変身者は死亡する。
アーシャの提案にラッセルは躊躇う。
「30分で勝てるのかよ」
アーシャは口を尖らせて、装甲車の扉を開いた。
「勝ちます。
あなたの過去を聞くまでは気になって天国へ行けませんから」
アーシャは社外へ飛び出すと、宙でセルイーターに変身した。
体を背中から這い出した細胞が喰らうように包み、異形の騎士へと作り上げる。
「……天国行きは確定なのか」
行ってしまったアーシャの足を引っ張ることは避けたい。
後ろ髪をひかれながらも、ラッセルは装甲車両を森の外へと走らせた。
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