第17話
セルイーター・グレイヴは空中に飛翔すると、周囲を見渡した。
周囲には空を覆うほどのザーク獣が待機し、殺戮の指示を待っている。
敗走する敵を捉え、裏切りの報酬としてスパイを行う事を脅迫する。
勇敢なものは殺し、臆病なものだけ逃がすことで、グレイヴは多数の内部情報を手にしていた。
今回敵を全力で敵を叩き潰せば、ザークの勝利は揺るぎないものになる。
現在持ちうるすべてのザーク獣を展開していたグレイヴは、作戦開始時刻を今か今かと待ち続けていた。
そして、ついに作戦開始時刻が訪れる。
グレイヴの背後から放たれた光が、ザーク獣の群れを薙ぎ払い、グレイヴを吹き飛ばした。
「なんだ!?何が起きている!」
グレイヴは即座に、寡兵として地上に伏せておいたザーク獣に指示を送り、攻撃が放たれた地点への偵察を送る。
ザーク獣より転送された視覚情報には、5隻の航空戦艦が写っていた。
次の瞬間、航空戦艦から放たれたエネルギーがザーク獣の視界を焼き尽くす。
「次元砲搭載艦だと!?
量産に成功していたという情報は入っていない……スパイを逆手に取られたか!
レジーナ!これは敵の罠だ、正面はワイズに任せてこちらに援護を頼む!」
『でも、こちらにはフレイムが……!』
「 セルイーターを陽動に使うのか!」
連邦軍の大胆な作戦に、グレイヴは驚きの声を上げた。
セルイーター・レジーナは、フレイムの激しい斬撃を避け持ち前のスピードでなんとか距離を取った。
「ブレストショットォ!」
フレイムが弾幕を放つ。
光弾を剣で切り裂いたレジーナの視界を爆風が覆った。
剣圧で煙を払ったレジーナの頭に、上空から飛来したフレイムの蹴りがめり込む。
「ぐぁぁぁっ!?」
吹き飛んだレジーナに、後方からJ・アルドが狙いを定めている。
隙を見逃す筈もなく、聡弥が声を張り上げた。
「次元砲、撃てェーッ!」
「了解!」
既に照準を合わせていた理華が引き金を引いた。
巨砲か火を吹く。
しかし、次元砲がレジーナを打ち砕くより早く、一つの青い影が稲妻の様に滑り込んだ。
青いセルイーターは、次元砲のエネルギー波に剣を叩きつけ、一瞬だけその流れを捻じ曲げる。
その隙間からレジーナを連れて逃げ出すことに成功したセルイーターに、誰もが恐怖を覚えていた。
「次元砲を、逸らしたのか」
フレイムは思わず後ずさる。
「母さん、間に合ってよかった」
「雄輝、助かったわ。
此処は任せても大丈夫?」
「あぁ、雄士とも話したいしね」
「……」
レジーナは何か言いたげに視線を彷徨わせたが、どこかへと飛び立っていった。
異形の騎士の名は、セルイーター・ワイズ。
多数の星を征服してきたエリートである。
そして、雄士の兄、如月雄輝でもあった。
「やぁ、久しぶりだね雄士」
「兄さん……」
カラカラになった喉で、雄士は返事を振り絞った。
「なんだか元気がないようだけど、それじゃ困るよ。
全力の雄士と戦いたいんだ、僕は」
「やめてくれ……俺は、兄さんと戦いたくない」
『雄士、何を!?』
今まで肉親とも壮絶な戦いを繰り広げてきた雄士が吐いた初めての弱音に、小鳩は動揺を隠せない。
「俺にとって、家族だと言えるのは兄さんだけだった。
兄さんを攻撃するなんて、俺には……」
「甘ったれてるなぁ、雄士は」
震えた声に返ってきたのは、冷たく、見下すような声だった。
「にい、さん?」
「そういう所がずっと憎かったんだよ、僕は。
良いじゃないか、雄士は出来が悪いから普通に生きてたって関心を向けてもらえる」
憎悪に満ちた声が雄士の心拍数を上げていく。
快晴だというのに、雄士はぞっとするような悪寒を感じた。
「僕は必死に頑張って優秀であり続けてもそれが普通の姿だ、少しでも落伍すれば非難こそあれど心配なんてない。
誰も僕のことなんか見ちゃくれない」
「嘘だ……」
「母さんも、理華も、口にするのは雄士雄士雄士!僕の事はちっとも心配なんてしなかったくせにさぁ!僕からすべてを奪った相手が、何食わぬ顔で僕を慕ってくるのは本当に気が狂いそうだったよ!」
絶望の声を漏らす雄士に、雄輝か向けたのは明確な殺意であった。
「雄士、僕はね、ずっと雄士が憎かったんだ」
「あ、ぁぁぁ……」
雄士は膝をつく。
雄士は、自分が誰からも愛されていなかった事を知った。
『雄士、頼む、立つのだ!』
ワイズの蹴りがフレイムを吹き飛ばした。戦意喪失したフレイムを一方的に痛めつけるワイズは、苛立たしく叫んだ。
「 フレイム!そんなものか!
その程度なのかッ!」
地面を転がるフレイムの頭をワイズが踏みつけた。
『雄士、このままでは死んでしまう……』
小鳩の声が、焦りよりも、哀しみを浮かべた事に雄士の指がぴくりと反応した。
『良いか雄士、これから変身を解除する。
私単独でセルイーターに変身して逃げる時間を稼ぐから、お主はそのうちにJ・アルドまで逃げるのだ』
自信の命も危険に晒されていることを全く気にしていない。小鳩はただ、雄士の事を思っていた。
『返事をせんか!
ええい!部屋に取っておいたプリンもくれてやる!
それで元気を出せ!』
心が折れてしまった雄士は、それでも動くことが出来ない。
ふたりとも死んでしまうかもしれない。
小鳩は、半ば死を受け入れて、雄士に最後の言葉を伝えることにした。
『雄士、家族がなんと言おうと、お前が孤独を感じようと、そんなものは気の迷いだ。
妾がお前を愛している限り、お前が一人になることなど決して無いのだから』
セルイーター・フレイムの目に光が灯った。
ワイズの斬撃を潜り抜けながら、カウンターの右ストレートが放たれる。
ワイズの顔がシーソーのように跳ねた。
『雄士!?』
フレイムはよろけたワイズの顔面にハイキックを叩き込む。
ガードを取れなかったワイズは後方へと派手に吹き飛んだ。
『雄士?返事をせんか……』
小鳩の問いかけにも雄士は答えない。
彼の壊れた心は埋まってなど居ない。
ただ、雄士は小鳩の事だけを考えていた。
彼女を死なせない、その想いがフレイムを突き動かす。
「 雄士ィ!そうだよ、そうこなくっちゃ!
それでこそ僕の雄士だァ!」
ワイズの剣戟が舞う、フレイムはスウェーでその軌道を僅かに避けると、アッパーで顎を撃つ。半歩下がったワイズに左フックを当て、反撃の横切りを避けながらボディを打ち込む。
ワイズが体をくの字に折り曲げる。
動きが止まった。
「 ウォォォォォォォォオ!!」
フレイムは咆哮を上げ、胸部装甲を瞼のように丸く開く。
『ダメだ!セルバスターには早すぎる!
雄士!』
「セルバスターァァァァァァ!!」
半ば本能で動くフレイムのセルバスターは、周囲一帯を焼き払った。
激しい爆発の中から、ワイズが歩いてくる。
その装甲はあちこちがひび割れていたものの、戦闘継続には問題無い様子である。
一方、フレイムはセルバスターの発射により体力を消耗し、激しく肩を上下させている。
二人の騎士は暫く無言で睨み合っていた。
「……今日の所は引き分けという事にしておこうか、雄士。
母さんたちから撤退命令が出てしまった」
雄士は何も答えない。
「次は初めから本気で戦える事を願うよ。
腑抜けた雄士を倒しても、これっぽっちも僕の憎しみは晴れることはないからね」
ワイズはフレイムから背を向けると、「 また会おう」という言葉を残して、空へ飛び立っていった。
フレイムは、J・ アルドに回収されるまで、ひたすら立ち尽くしていた。
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