第6話
「お父さん!」
会議が終わり、乗務員に案内された雄士がおぼつかない足取りで退出するや否や、理華は聡弥に詰め寄った。
「知っていたの?」
「いや、死体が見つからないことを疑問に思っていた程度だ。
確信したのは彼女との答弁の最中だった」
「こんな形で家族を失ったことを伝えられて、雄士がショックを受けることぐらい分かるでしょう!?」
「非難は受け入れよう。
だが、いずれ彼には知られることだ。
戦闘中にこのことが判明すれば、致命傷になる」
聡弥の言葉は正しかった。
理華は言葉をかみ殺すと、走って部屋を後にする。
「すまない、雄士君」
わずかに目を伏せて、聡弥はひとり呟いた。
案内された個室のベッドに腰掛け、雄士は一言も発さずに頭を抱えて蹲っている。
「気の毒ではあるが、これも自然の摂理だ。
むしろ、同化によって苦痛を味わう間もなく消えたのは幸運だったかもしれぬ。
家族の姿をしているだけの敵だと割り切れ」
雄士は、ハッキリとした口調で言い放った小鳩を睨みつける。
「なんだよそれ……!」
小鳩は雄士の視線にも怯まない。
「ここからは種の生存競争だと言っているのだ。
お主の家族は死んだ、そして、お主が戦わなければ人類は滅びる。
個人の話など等に終わっている」
「やめろっ!」
雄士の手が小鳩の方を掴む。
小鳩は視線を逸らさない。
「戦わずして、全てを終わりにするか。
立ち上がり、童と共に残されたものを救うか。
選ぶのだ、雄士よ」
「お、俺は……」
小鳩の言葉に偽りはない。
小さな一個人の感傷など、侵略者が考慮するはずも無いのだ。
「頭、冷やしてくる」
雄士はおぼつかない足取りで部屋を出る。
ほんのりと赤くなった肩を摩り、小鳩はため息をついた。
戦艦のデッキに出て、雄士は風邪を浴びていた。
その目には、涙が月明かりを弾いて光っている。
「ここに居るんじゃないかと思った」
背後から聞こえた声に、雄士は涙を慌てて拭う。
「ど、どうしてここが分かったんだよ」
「昔から怒られた時はベランダで泣いてたでしょ。
だから、ここに居るんじゃないかなって思って」
雄士は深呼吸をして、恥ずかしそうに笑った。
「情けないとこ見られちゃったな」
理華は、雄士がもたれている手すりに手を添えた。
「情けないのは私の方よ……。
友達が戦っているのに、私は何もしてあげあれない。
今も、昔も」
昔、という言葉が引っかかった雄士は顔を上げる。
そんな雄士に理華は俯いた。
「雄士が発表会に来なくなったことが、家族とギクシャクしてたからだってことを私は知ってたのに。
私は相談にすら乗ってあげられなかった」
「それは……」
雄士に学者の才がないことを悟った母は必死に雄士を教育しようとし、失望していった。父は、急激に雄士への興味を失っていった。
唯一変わらずに接してくれる兄も、雄士にとっては比較される対象である。雄士の全てを上回る兄は、雄士にとっての天敵であった。
家庭の中に、彼の居場所は存在しなかったのである。
「……君に戦えなんて言わないよ」
理華はそう呟くと、雄士を抱き寄せた。
驚きのあまり固まる雄士を、理華は強く抱きしめる。
「世界中の皆が敵だとしても、私だけは絶対に君の味方なんだから。
だから、辛い時は私を頼って。
……何もできないけど、一緒に泣いたり、逃げたりすることぐらいは手伝わせてよ」
誰も信じられない中で、連絡を拒否した幼馴染がずっと自分の身を案じていた。
その事実に、雄士は目頭が熱くなりながらも、必死に涙を堪えて彼女を抱き返した。
「ちょっと、痛いって……。
もう、しょうがないんだから」
顔を顰めながらも、理華は雄士が落ち着くまで震える背中をさすっていた。
どれだけ時間が経っただろうか、雄士はゆっくりとその手を離した。
その顔は真っ赤に染まっている。
「……その、今日の事は忘れてくれ」
「う~ん、連絡拒否したり、いきなりいなくなったりしない?」
「し、しません」
「じゃあ、忘れてあげるわ」
同じぐらいに赤い顔をして、理華は微笑んだ。
二人の安息を打ち壊すような警報が、突如鳴り響く。
「これは!?」
「敵襲の警報……ザークの奴らが来たのよ」
理華の言葉を聞くや否や、雄士は走り出す。
デッキの扉の外には、壁に背中を預けた小鳩がすでに待っていた。
「どうしてここに」
「私の体の一部がお主には埋め込まれているからな、場所も分かる。
雄士よ、答えは出たか?」
小鳩の答えに、雄士は強く頷いた。
「逃げるわけにはいかなくなったみたいだ」
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