第4話

 円形のドームが頭の数センチ上を浮遊している姿は、天使の輪のようにも見える。

 雄士の脳内に、小鳩より送り込まれた情報が瞬いた。

 敵の名はセルイーター・レジーナ、速度に秀でたセルイーターである。

「何をやっているのです、フレイラ!

 合流が遅いと思いきや、我らを裏切るとは……!」

『ふん、今更気が付くとはな!

 裏切るとな?

 貴様らに童が仲間として扱われたことがあったか!』

 躊躇なく言い返した小鳩に、レジーナの声は一段と低くなる。

「……裏切り者には死を。

 分かっているのね?」

『初めから処分する気であろう、白々しいわ』

 肩の水晶体から現れた剣を引き抜いたレジーナは、切っ先をセルイーター・フレイムに突き付けた。

「私の名はセルイーター・レジーナ。

 裏切り者に死の裁きを下しましょう」

 白の騎士はフレイムに飛び掛かる。


 廃墟と化した街で、二つの影が空を飛翔していた。

 時にその影は交わり、火花を散らす。

「ぬるい!」

 レジーナとフレイムの剣が交わり、動きが止まる瞬間、レジーナの蹴りがフレイムを蹴り飛ばした。

 吹き飛んだフレイムは高層ビルの壁面に突っ込み、鉄骨を自身の体でへし折りながらビルを貫通し、裏手に構えていたもう一つのビルにめり込んだ。

「がっ……!」

 うめき声を上げながらも、フレイムは飛翔。刹那、フレイムが居た場所に飛来した双剣が突き刺さる。

 セルイーターは数体で大抵の文明を攻略してしまえるという。

 その絶大な力を、雄士は身をもって感じていた。

「ブレストショットォ!!」

 肩に開かれた2つの水晶体から、エネルギー弾がばらまかれる。

 レジーナは最短距離で弾幕を掻い潜ると、フレイムの胸部装甲を剣の一振りで切り裂いた。

 撃ち落とされ、ビルの壁面に打ち付けられたフレイムの腹にレジーナの投げつけた剣が突き刺さる。

「ぐぉおおおっ……」

 苦しみの声を上げながら、自身を縛り付ける剣を腹から抜こうとするフレイム。

 しかし、その目の前に、白い光が溢れ出る。

「残念よ、フレイラ。

 さようなら」

 セルイーターの中でも最も高火力な一撃、セルバスターのエネルギーがレジーナの胸に現れた水晶体に集中する。


 いざ光線が放たれんという瞬間、遥か後方から放たれた光がレジーナを捉えた。


「ぐあぁああああああっ!?な、なにが!」

 セルイーターをこの星の者が害することは不可能、ならば新たな裏切りなのか。

 光の帯を追ったレジーナが見つけたものは、巨大な主砲からエネルギーの残滓を振りまいている一隻の航空戦艦であった。

「馬鹿な!地球連邦軍の航空戦艦にこのような火力は無かった!」

 予想外の事態に驚愕を隠せないレジーナは、死角より殺気を感じた。

『よそ見とは嘗められたものだなぁっ!ぶちかませ!雄士っ!』

 先ほどまで自分が向けていたエネルギーの塊が、自分自身に向けられている。

 フレイムの胸部装甲の中心に、ぎょろりと水晶体が現れた。

「セルバスターぁああああああああ!!うぉおおおおおおおおお!!!」

 集積されたエネルギーが、堰を切ったように溢れ出る。

「しまった!」

 水晶体から、航空戦艦の放った光よりも更に広大な光の波がレジーナを飲み込む。

 光が消え、その残滓が雪のように地上に降り注ぐ。

 そこに、レジーナの気配はなかった。

「……逃げられたか」

『掠った程度、とはいえ奴もすぐには動けぬほどのダメージがあるはずだ』

「そうあって欲しいよ……いってぇ」

 腹に突き刺った剣を引き抜き、雄士は地上に降り立ち、変身を解く。

「問題は、人間の方だよなぁ」

 雄士の目の前には、先ほど現れた航空戦艦が浮かんでいる。

 船内から、拡声器越しの声が放たれた。

『助けが間にあって良かった。

 我々はスペースウォッチ、現状宇宙人に対抗できる唯一の勢力だ。

 さっそくで悪いが……君の助けが借りたい』

 威厳ある航空戦艦は、その巨体に似合わず随分と頼りないものに見えた。

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