第21話 大切な人?

 シンッ静まり返った私達の中で、ランドルフさんがニコニコしている。


「セリカ、私と元に来ないか?」


 私は信じられない気持ちでランドルフさんのことを見た。


 どうして、こんなことになってしまっているの?


「えっと、ランドルフさんの言う『大切な人』って……好きな人という意味ではないですよね? 事情があって、私をどこか連れて行きたいということでしょうか?」

「どうしてそう思うんだい?」

「だって……」


 私はチラッとモルテさんを見た。


「さっき、モルテさんと私が恋人同士だったら、引き離すのは可哀想って言っていたから……。もし、私とモルテさんが恋人だったら、どうするつもりだったんですか?」


 ランドルフさんは「うーん」といいながら腕を組んだ。


「そうだな。モルテ卿に協力を仰いだ、かな?」

「協力……。ランドルフさんの事情のためにですか?」

「そうなるね」

「その事情を話してもらうことは?」

「それはここでは言えない。セリカが私と一緒に来てくれたらすべて話すよ。その前に、私は君の味方であり、君を決して傷つけることはないと誓おう」


 ランドルフさんは真剣な眼差しで私を見つめている。きっとこの言葉にウソはないのだと思う。


 でも、ランドルフさんにどういう事情があるにしろ、私は父さんが書いた本のように魔王様とお姫様が出会ったら元の世界に帰る気でいる。そして、元の世界に帰るにはモルテさんの魔力が必要なわけで……。


 でも、そんな私の事情はモルテさんには関係ない。

 それに、私がこの古城からいなくなれば、ストーリーが元に戻ってお姫様がすぐに現れる可能性だってある。

 私はここを出て行ったほうがいいのかもしれない。


 悩む私にランドルフさんは優しく声をかけた。


「セリカは、ここでは居候なんだろう? 私と一緒にくれば、大切な客人として迎え入れるよ。料理も作らなくていいし、掃除や洗濯だってしなくていい」

「あっいえ、料理や掃除は私が好きでやらせてもらっているんです」

「もし、華やかな社交界に興味があるなら、ドレスでもアクセサリーでも好きなだけ贈るよ」

「そういうのは、ちょっと……」


 困っていると私はモルテさんにグッと肩を引き寄せられた。


 驚いた私の視線の先で、モルテさんは怖い顔をしている。


「俺とセリカは……恋仲だ」


 その言葉に私はポカンと口を開けてしまった。


 ランドルフさんは「そうは見えなかったが?」と首をかしげる。


 モルテさんはランドルフさんではなく、私に向かって「出て行きたいのか?」と尋ねた。


 私は無言で首を左右に振る。


「そういうことだ。セリカは誰にも渡さない」


 ランドルフさんは「誰にも?」と繰り返した。


「ああ、そうだ。誰であろうがセリカは渡さない」

「モルテ卿のその言葉、信じても?」

「もちろんだ」


「そうか」とつぶやいたランドルフさんはとても満足そうだ。


「なら、私の大切な人をモルテ卿に守ってもらおう」


 モルテさんの眉間に深いシワがよる。その様子を見たランドルフさんはクスッと笑った。


「私が妹のように大切に思っているセリカ、をね」

「妹?」


 ランドルフさんは左手首の腕輪を私に見せた。


「覚えていないかな? 私達、子どものころに一度会っているんだよ。私はずっと妹がほしくてね。セリカに会えて妹ができたと喜んでいたんだ」


 私は夢で見た銀色の腕輪をした男の子を思い出した。


 ……あの夢は現実だった? そんな、まさか……。でも、夢の中の男の子とランドルフさんが付けている腕輪は同じもののような気がする。


 夢では男の子の父親らしき人が、私の父さんのことを「兄さん」と呼んでいた。私はおそるおそるランドルフさんに尋ねた。


「もしかして、ランドルフさんのお父さんは、私の父さんの弟……?」

「そうだよ。私達は、いとこなんだ」

「ええっ!?」


 そう叫んだ私の頭をランドルフさんが優しく撫でた。そして、呆然としているモルテさんに、にっこりと微笑みかける。


「そういうわけで、モルテ卿。私の大切な妹をどうか守ってやってほしい」

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