第5話 冒険者の国
レオンハルト王国、又の名を、『冒険者の国』
冒険者が集まることでも有名なこの国は、フィテルベルク国とは雰囲気が全く違った。
冒険者ばかりが街を歩き、冒険者専用の店もあるほどに冒険者にとっては天国とも言える店だ。
飲み屋はもちろん、武器店、鍛冶屋、魔法専門店、他にも冒険者のための店がズラズラ並んでいる。
だが、今はそれどころではないのだ。
ジゼルの詠唱魔法でとりあえず盗賊のいざこざは解決したものの、それに巻き込まれた受付嬢だったお姉さんはひどい火傷を負ってしまっていた。
「ジゼルに頼んで彼女を病院に連れて行かせたものの、心配ですね」
「ん? なんの話?」
アーサー王子は盗賊に遭遇した時、バリバリに寝ていたので何も覚えていなかった。
速攻で宿舎を取り、余計な荷物は全て下ろした後にレインハードはアーサー王子を連れて、走りながら国内唯一の大病院に向かった。
病院の近くまできた時、ザワザワと騒ぎ声が聞こえてきたので、何かと思っていると病院を囲うように人が集まっているのが見えた。
アーサー王子の手をしっかりと掴み、人混みの中に入ったレインハードはやっとの思いで病院内に入ることができた。
しかし、病院のロビーで彼は止まった。ジゼルの姿が見えた。
彼女はボロボロだった。ギリギリ全裸にならないほどに服は焼けて、腕や足には火傷の傷があった。
彼女はそれでもなお立っていた。
杖を構え、何かを目掛けて詠唱魔法を唱えていた。
杖の先にはあの重傷を食らったはずのお姉さんがいた。
今まで見たことのないような血相を変えた表情で、ジゼルに片腕を向けて何かを唱えていた。
周りのザワザワで何を言っているのかは聞こえなかった。
いや聞こえてはいた。
ただ聞いたことのない言語だったのだ。
「——・・・・・—・・—」
何も聞き取ることができなかった。
その瞬間、お姉さんの構えた手の先から赤黒い光がピュンと出てきた。
一瞬にしてその光線はジゼルに直撃し、ジゼルのジゼルが飛び出しそうになったため、急いでアーサー王子が着用していた茶色のローブを剥ぎ取り、ジゼルに投げた。
(なんとかたわわなハプニングは回避できたが、このお姉さんはどうしたのだろうか。火傷の傷も癒えてるみたいだし……)
ジゼルはローブを身体に覆い被せて顔だけを出していたが、今にも倒れそうな表情だった。
彼女はまだお姉さんと戦おうとしていた。
「やめろッ!!」
アーサー王子の声が病院内に響く。
彼は勇敢にも手に持っていた木刀を持ってお姉さんを叩いた。
ちょうどその時、レインハードはジゼルの元に駆けつけ、「大丈夫ですか!」と声をかけた。
だが、その瞬間に彼女は意識を失い、倒れてしまった。
アーサー王子が何度かお姉さんを叩くと、彼女は木刀を振り払い、王子を強く押して、吹き飛ばした。
そのまま、お姉さんはまた手を前に出して、倒れていたジゼルに向けた。
「——・・・・・—・・—」
また詠唱を唱えるが、飛ばされたアーサー王子が駆けつけ、ジゼルを守るように彼女の眼の前に立ち、両手を大きく開いて「やめろッッ!!!」と今度はさらに大きく、強くそう言った。
それに反応したのかはわからないが、お姉さんはそのまま手を下ろし、脱力したように地面に倒れた。
そして、一言こう言って意識を失った。
「……助けて……」
今度ははっきりと聞こえた。
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